ペットフードOEMでの原材料調達とサプライチェーン管理

はじめに：ペットフードOEM市場の現状と今後

国内外のペット市場は拡大基調にあります。
加熱するペットブームや飼育家族の高齢化などを追い風として、ペットフードの価値や品質への要求が年々高まっています。

とりわけOEM（受託製造）分野への注目が高く、多様なブランドやスタートアップが自社製品を短期間で市場提供できるようになっています。
一方でペットフード特有の「安心・安全」と「高品質」を両立するためには、原材料調達とサプライチェーン管理の最適化が不可欠です。

本記事では、20年以上の製造現場経験を持つ筆者が、現場目線でペットフードOEMにおける原材料調達の実践ポイント、アナログ体質が強く残る業界の背景、これから業界で活躍していくための知見を深掘りします。

ペットフードOEMとは？：その仕組みと市場背景

OEMとはOriginal Equipment Manufacturerの略で、他社ブランドの製品を企画・指示通りに製造するビジネスモデルです。
オリジナルのペットフード展開を目指す企業にとって、設備投資や生産リスクの削減ができること、スピーディーな市場投入が可能な点が大きな魅力です。

一方、2019年にはペットフード安全法の改正・強化もあり、製品安全やトレーサビリティ（流通履歴追跡）確保への対応力が求められています。
品質や安心はもはや「付加価値」ではなく「必須条件」へと変化しています。

市場規模の拡大とブランド間競争の激化

日本のペットフード市場は2023年時点で年間約4,500億円。
今後も堅調な成長が予想されるなか、OEMメーカー同士、さらにはバイヤー（発注者）とサプライヤー（製造者・原材料供給者）間の協力・競争が激化しています。

このような環境でバイヤーとして調達力を高めたい、またはサプライヤーとして付加価値提案で選ばれたい方にとって、現場の工夫やリアルな課題を押さえることが不可欠です。

原材料調達の本質：差別化と品質の攻防

ペットフードOEMにおける原材料調達は、単なるコストカット合戦ではありません。
「安心・安全」や「高付加価値」「独自性」を獲得する、いわば“ブランドの根幹”でもあります。

なぜ原材料が最重要なのか

人間向け食品と同様、ペットフードも原材料の90%が品質となります。
特に昨今は「無添加」「ヒューマングレード」「アレルゲンフリー」など、高付加価値志向も強まっています。

プレミアム原料（国産鶏肉や鹿肉、グレインフリーなど）の調達可否がOEMブランドの競争力を大きく左右します。

昭和から続くアナログ商習慣と、現場での実際

意外なほど多くのOEM現場は、昭和時代からの“人脈重視”や“口約束”、“FAX発注文化”が色濃く残っています。
たとえば、原材料の調達も「いつもの業者」「昔から付き合いがある会社」を重んじ、急な価格高騰や供給トラブルといったリスクに厚みがありません。

デジタル化やサプライヤーマネジメントの遅れは、OEM全体の供給安定性を脅かします。

調達現場で求められる視点とは

・調達先を多角化し、国内外の選択肢を常にリサーチしておく
・原料ロットごとの証明書類やトレーサビリティを必ず確保する
・“コスト・品質・供給安定性”の三拍子バランス型調達を目指す
・アレルゲン、石油由来、着色料などリスク要素を精査する

加えて“エンドユーザーの信頼”を得られるストーリーづくりが差別化の決め手になります。

サプライチェーン管理：OEM成功の基盤

サプライチェーン管理とは何か

サプライチェーン管理とは、原材料の調達・工場の生産・物流、最終製品の出荷までを一気通貫で最適化する仕組みです。
とくにペットフードOEMでは、原材料ごとの賞味期限管理やロット追跡（例：“製造日：2024/6/1、ロットA1234”）が重要です。

日本特有のサプライチェーン課題

日本の製造業（とくに食品OEM）は、柔軟な受注対応と「現場の職人技」に頼る傾向が強いです。
マニュアル化・自動化・見える化が他業界に比べて遅れている点は否めません。

また、災害リスクや新型感染症時の供給網の寸断など、有事シナリオへの備えも課題です。

現場目線のサプライチェーン強化アプローチ

・サプライヤーごとの生産能力や在庫量を「定量的」に把握
・発注や納期の進捗をExcelや電子ツールで見える化
・“未納や遅延リスク”が生じた場合の代替供給ルートを構築
・定期的な製品・原料の品質検査を実施（抜き打ち確認含む）

これらを地道に積みあげることで、OEM全体の強靭化につながります。

製造現場の知恵：アナログの強みとデジタル活用

長年現場にいると、アナログ体質のままでも現場の「目利き力」「現場判断力」「柔軟対応力」は大きな武器だと実感します。

一方で「ただの過去慣習」に固執するだけでは、時代の変化やリスク対応に乗り遅れます。

本当に強い現場は、昭和の“勘と経験”と令和の“デジタル活用”を併用して初めて差別化できます。

アナログ現場の成功・失敗事例から学ぶ

【成功例】
・突然の飼料高騰時、地元の小規模農場と直接交渉し、安定供給体制を築く
・検品チームがベテランの目視で微細な不純物混入を早期発見

【失敗例】
・電話・FAX以外の調達先がなく、コロナ禍で1ヶ月の在庫欠品
・原材料の仕入先が一社のみ。災害時に調達リスクが顕在化

これからの現場リーダーやサプライヤーは「信頼できる人脈」に加え、「システム化での見える化」「情報分析力」を持って初めてバイヤーから選ばれる存在となります。

持続的価値を生むための調達購買戦略の刷新

差別化のための付加価値提案、徹底したリスク管理、目利き力の継承、デジタル活用による効率最適化——。
これらをどれか一つではなく“複合的に”取り入れてこそ、ペットフードOEM分野で企業も人も持続的に成長できます。

バイヤー視点：新時代の「選ばれるサプライヤー像」

・供給安定性や検査体制のみならず、エシカルやサステナブル素材の提案力
・デジタル発注やデータ共有への柔軟な対応
・自社だけでなくOEM委託先も含めたBCP（事業継続計画）の整備
・現場起点のクレーム対応力・改善提案力

サプライヤー視点：バイヤーの本音を知るヒント

・「いざという時にも融通がきくか」
・「どのタイミングで何を見える化できるか」
・「他社との差別化提案ができるか」

バイヤーは「安い」「早い」だけでなく、共に成長できる“パートナー”を求めています。

まとめ：今後のペットフードOEM現場で活躍するために

ペットフードOEMの原材料調達とサプライチェーン管理は、単なるコスト削減合戦ではありません。
安心・安全、品質、安定供給という当たり前を守りながら、いかに付加価値や差別化を実現するかが問われています。

アナログの「現場肌感」＋デジタルの「見える化力」をバランス良く融合させた現場のみが、次世代のブランドを動かす牽引役となります。

原材料のトレーサビリティやリスク分散、バイヤー・サプライヤー間の信頼構築など、地道かつ戦略的な取り組みを惜しまず、躍進の一歩をともに踏み出していきましょう。