投稿日:2025年9月10日

ペットフードOEMにおける安全基準と原材料選定のポイント

はじめに:ペットフード市場に広がるOEMの重要性

近年、ペットフード市場は急速に拡大し続けています。
飼い主のペットに対する意識が高まり、より安全で高品質なフードが求められる中、OEM(Original Equipment Manufacturer)が重要な役割を果たしています。
しかしOEM事業は、多様なニーズに応える柔軟性がある一方、原材料選定や製造工程における安全基準の遵守が不可欠です。
昭和から続くアナログな管理体制が色濃く残る業界特有の「現場の知恵」も、生きています。
本記事では、20年以上の製造業経験を持つ筆者が、ペットフードOEMにおける安全基準と原材料選定の実践的なポイントを、現場目線で深掘りして解説します。

ペットフードOEMの基本構造とサプライチェーンの現実

OEMの立ち位置と現場感覚

ペットフードのOEMでは、ブランドオーナーがレシピや設計思想を提示し、OEMメーカーが実際の製造を担います。
このとき、バイヤー(発注側)は「価格」と「品質」を両立しなければなりません。
またOEMメーカー(受注・サプライヤー)は「安定供給」と「クレームゼロ」を至上命令とされがちです。

昭和的な業界体質では、現場の勘やベテランの経験則に任せがちな面が根強く残っています。
しかし、原材料高騰や流通のデジタル化、消費者からの目線強化により、従来のやり方だけでは通用しなくなりつつあります。
バイヤー視点とサプライヤー視点の両方を持つことが、今後の競争力の源泉です。

サプライチェーン全体で考えるべきリスク

ペットフードOEMの成功には、原材料サプライヤー、製造工程、出荷・流通、最終消費者の安全意識まで、一貫してリスクマネジメントを徹底する必要があります。
特に「原材料ロス」「交差汚染」「偽装表示」など、現場独自のリスクが潜むことも多いです。
製造現場の「いつものやり方」に甘んじず、客観的な現状分析とデータ活用によるリスク評価が求められます。

ペットフードの安全基準:法規制と業界標準

国内外の法規制(ペットフード安全法・HACCPなど)

日本のペットフード製造は、「ペットフード安全法」(平成21年施行)を遵守する必要があります。
これにより、原材料や添加物の規定、残留農薬・重金属の基準値、輸入原料の安全性まで厳密な管理が求められます。

また、より高度な安全性確保のため、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)による食品衛生管理も推進されています。
海外マーケット向けでは、FDA(米国食品医薬品局)やAAFCO(米国飼料検査官協会)基準への対応も不可欠です。
輸出を視野に入れる場合、現場レベルの衛生教育と書類管理、モニタリング体制の強化が考えられます。

ISOやGFSI準拠の品質管理体制

グローバル企業との取引や大手ブランドへのOEM供給を担う場合、ISO 22000やGFSI(国際食品安全イニシアチブ)などの第三者認証も重視される傾向が強まっています。
一時的な帳尻合わせではなく、「日常業務の中で品質管理が根付く仕組み化」に注力することが、トラブル防止・信用確保のカギとなります。

現場目線で考える原材料選定のポイント

サプライヤー選定と購買の目利き

OEMの現場でしばしば見落とされがちなのが、「サプライヤーの安定度・トレーサビリティ」です。
価格競争に巻き込まれるあまり、安価な仕入先を選定してしまうと、品質事故や安定供給リスクが高まります。
バイヤーの最重要任務は、「調達網の多重化(バックアップサプライヤーの確保)」と「持続的な監査・巡回」です。

目利き力を養うためには、実際に工場や養殖場、農場を見学し、管理の現場と帳票が一致しているか確かめましょう。
地域による規制・文化の違い、オーガニックやアレルゲン対策の対応力も要チェックです。

原材料の品質管理:受入から工程管理まで

一流OEM現場では、調達した原材料ごとに「ロットごとのサンプリング検査」「成分分析」「残留農薬・重金属テスト」を徹底します。
品質にバラツキがある場合は、基準値超過時のリジェクトルール(返品・再加工)も工場単位で明文化しておくことが必須です。

さらに、工程内での「交差汚染防止」「異物混入ゼロ運動」など、日々の現場マネジメントも重要なタスクです。
微細な異物混入やアレルゲン混入の現場事故から、一気に会社存続に関わる大問題へ発展することすらあるため、地道な積み重ねが不可欠です。

工場自動化とデジタル化による安全・品質の進化

自動化がもたらす現場の変化

これまで人手頼みだった原料搬入や配合工程も、今やIoTセンサーやAI画像検査が活躍する時代になっています。
自動計量・自動帳票連携・リアルタイム監視システムの導入で、「うっかりヒューマンエラー」「伝票転記ミス」などアナログ由来のトラブルが減少しています。

また、実際に私が工場長を務めた現場では、システムと現場担当者の両方に教育を徹底し、ヒューマンエラーが劇的に減少しました。
自動化は魔法の杖ではありませんが、「誰がやっても一定品質」へ近づける有効な施策です。

デジタルデータ活用によるトレーサビリティの強化

デジタル化が進展することで、原材料のロット番号、製造日時、出荷履歴が一元記録されます。
クレーム発生時の「追跡対応力」は、まさにOEMメーカーの信用のバロメーターです。
膨大なデータをただ蓄積するだけでなく、「異常検知」「パフォーマンス見える化」に活用し、バイヤーからの信頼獲得につなげましょう。

OEMメーカー・バイヤー双方に求められる意識改革

バイヤーの役割変化とサスティナビリティ対応

これからのバイヤーには、単なる価格交渉力だけでなく、「安全・安心を守るガバナンス」「ESG(環境・社会・ガバナンス)視点」が求められます。
環境配慮(脱プラ包装・持続可能な原材料調達)や、働き方の多様化(外国人労働者活用など)にも対応できる柔軟性も必要です。

最終消費者のニーズをとらえ、企画段階からOEMメーカーと共創し、長期的なウィンウィン関係を築くことが差別化に直結します。

サプライヤー(OEMメーカー)の新しい価値提案

サプライヤー側も、「現場至上主義」「前例踏襲型」から脱却し、「攻めの品質」「情報発信力」で差を付ける時代です。
取引先バイヤーに対し、自社工場見学やデータベース開示、透明性あるコミュニケーションを心掛けましょう。
単価競争を超えた「安心という価値」を提供することが、今後の継続取引とブランドイメージ向上につながります。

まとめ:現場の知恵と最新トレンドの融合が未来を切り拓く

ペットフードOEMの現場は、アナログとデジタル、手作業と自動化、新旧の知見がせめぎ合う最前線です。
業界に根付く「現場の経験則」は無視できませんが、法令順守・国際基準対応・デジタル化など新しい手法の導入も避けて通れません。

バイヤー・サプライヤーの双方が全体最適の視点で協働し、上流(原材料)から下流(消費者)まで一貫した安全管理、品質担保に努めることで、業界全体の信頼向上と成長が実現します。

これからペットフードOEMに関わる方、現場で悩むバイヤーやサプライヤーの方は、ぜひ「現場の知恵」+「新しい武器」を駆使し、価値ある製品づくりにチャレンジしてください。

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