投稿日:2025年7月9日

PETリサイクルグローカルフレークとボトルtoボトルLCA比較

PETリサイクルグローカルフレークとボトルtoボトル:LCA比較と現場視点の考察

はじめに:PETリサイクルの今とこれから

近年、製造業のサプライチェーンにおける「サステナビリティ」は避けて通れない企業課題となっています。
中でもPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂のリサイクル分野は、特に食品・飲料・日用品業界で持続可能性の根幹をなす取り組みとして注目度が上がっています。
実際、工場の現場でも「どのようにリサイクル原料を安定調達し、品質とコストを担保しつつ環境への負荷を最小化するか」は、調達や生産管理の担当者、さらには現場を預かる工場長にとって日々向き合う重要テーマです。

そこで本記事では、昨今業界でしばしば議題に上がる「グローカルフレーク」と「ボトルtoボトル」(BtoB)という2つのPETリサイクル手法に着目し、LCA(ライフサイクルアセスメント:環境負荷評価)という観点で実践的かつ現場重視の比較を行います。
「環境対応って結局どちらがいいの?」「調達バイヤーはどの視点で判断すべきか?」など、現場のリアルでアナログな悩みの解決の糸口を探ります。

PETリサイクルの2大潮流「グローカルフレーク」と「ボトルtoボトル」とは

グローカルフレークの特徴:地域密着型のリサイクル

グローカルフレークとは、「グローバル」と「ローカル」の合成語で、国内外さまざまな飲料ボトルやPET容器を回収し、地域や国ごとに分別・粉砕・洗浄してフレーク状に加工したものです。
これらのフレークは、繊維やシート、パレット、その他リサイクル樹脂製品へと用途転換が図られ、時には再びボトル成形原料として国内外へ輸出・輸送されることもあります。

グローカルフレークの強みは、「距離の近いリサイクル」「地域ごと固有の資源循環」「柔軟な用途展開」にあり、各自治体や地域企業が主導する地産地消型のリサイクルモデルが推進されています。
サプライヤーの立場で見れば「地域の自治体や企業と強く結びつくことで受注機会が増える」点も大きな動機です。

ボトルtoボトル(BtoB)の特徴:水平リサイクルモデルの進化形

一方、ボトルtoボトルはその名の通り、「使用済みボトルを再び食品用途のボトルへ」水平リサイクルする技術および流通モデルです。
通常、飲み終えたペットボトルは回収後、異物・異種樹脂・ラベル等を高精度に除去し、フレークやペレットへ再加工、加えて高度なリクリスタライゼーションまたは精密精製処理を経て新たな食品グレードのPET原料として生まれ変わります。

日本では高度な衛生基準(食品用原料基準)が求められるため、従来のグローカルフレークでは再度食品ボトルへ戻すのは困難とされてきましたが、このBtoB技術の発展によって一部の高度なリサイクル設備を持つメーカーが水平リサイクルを実現しています。

LCA視点で考える環境負荷比較:理屈と現場とのギャップ

LCA(ライフサイクルアセスメント)評価とは何か

LCAとは、原料調達→生産→製品供給→使用→廃棄・リサイクルまでの全過程で、温室効果ガス(CO2排出量)やエネルギー消費、水使用、生態系影響等、各種の「環境負荷」を総合評価する手法です。

グローバル企業や上場企業、SDGs推進企業などでは上流から下流までの環境フットプリント可視化(バリューチェーンLCA)が要求され、購買・調達部門やサプライヤー選定の新たな指標となっています。

グローカルフレークのLCA:メリットと課題

グローカルフレークは「リサイクル素材を地元で調達し、可能な限り短距離で再利用する」ため、輸送によるCO2排出が最小限で済むという理論値があります。
また、ローカル循環であれば「輸送エネルギー」「輸送コスト」も低減し、地域経済と環境の両立が期待できます。

しかし、実態としては
・地区ごとの分別精度の違いや異物混入
・回収ルートの非効率性
・再利用用途の限定(例えば繊維やシートのみなど)
などから、「理想通りのLCA削減インパクトが出ていない」という現場の声も多いです。
また、地場業者の多くが「昭和式のアナログ運用」を続けているため、データ収集体制が不十分でLCA報告に時間と手間がかかる事例も目立ちます。

ボトルtoボトル(BtoB)のLCA:先端的だが重い設備・物流コスト

BtoBリサイクルは、
・回収→洗浄→高純度加工→再ペレット化のプロセスが多段階にわたり
・製品ごとの完全なトレーサビリティと厳重な異物排除管理(HACCP、FSSC22000など)が必要
なため、「リサイクルだけでフルラインの新設・回収ラインがほぼ専業化」されており、大規模プラントと巨額投資が欠かせません。

結果、物流距離が長い場合や原料集荷が分散していると、フットプリントが思ったより低減しません。
一方、純度・衛生・安定供給の面では圧倒的に強く、
・飲料大手による「サントリー100%リサイクルペット宣言」
・海外市場への輸出ペット対応
など、マーケットバリューは高い傾向にあります。

LCA的には、「スケールメリットでCO2排出は抑制できるものの、ベースラインの一次エネルギー消費と輸送分の課題」が常に共存し、”理想と現実のギャップ”を管理職やバイヤーが痛感している現場が多いのも事実です。

業界のアナログ慣習とグローカル/BtoB選定時のリアルな苦悩

現場の視点:調達バイヤーの「板挟み」の実態

多くの日本の製造業現場では、LCAデータがバイヤーや設計、生産管理、品質保証セクションに完全に共有されていない場合が少なくありません。
現場ではリサイクル材の
・調達時の安定供給リスク
・ロットごとの品質ばらつき
・急な需給変動によるコストアップ
など実利面での「数字にならない苦労」が根強く残っています。

例えば飲料ボトルメーカーであれば、
・グローカルフレークは地域ごとで成分・色・物性のばらつき発生
・BtoBは大手数社に供給が偏り、下請け中小には手が届かず
・新技術導入時の既存ライン切り替えリスクや顧客(大手流通など)の認証要件
など、複雑な現場調整と“日本流の根回し”が日常的です。

サプライヤーの苦悩:バイヤーと現場ニーズの「双方向理解」

サプライヤー側では、
・導入コストや輸送手段確保
・地元回収業者とのネットワーキング
・環境認証書類やLCA証憑提出(英語対応含む)
など、経営層から営業、オペレーターまで広範な調整が求められます。

特に、現場が「昭和式の現物管理」「伝票やFAXでの注文/納品」「現場感覚重視」から抜けきれない場合、データドリブンなLCA運用やペーパー・レス/デジタル化推進とのギャップが深刻化しています。
バイヤーや上流工程の「理想主義」だけでなく「実現可能な現場改善」まで見据えたソリューション設計が、2024年現在も課題として残っています。

LCA比較によるグローカルフレークvsボトルtoボトルの選択ポイント

理論比較表:LCAと実現性・経済合理性

グローカルフレークとボトルtoボトルは、以下のようなポイントで比較されます。

ポイント グローカルフレーク ボトルtoボトル
LCA(理論) 輸送削減でCO2排出少。データ不揃い 原料・製品ライフサイクル最小化
LCA(現場実感) 分別ミスやばらつきにより理想から外れることあり 専業ラインで高精度/高コスト。下流調達は困難
品質・用途 繊維・シート等多用途向き。食品向きには難あり 食品用ボトル/高純度用途向き
コスト スケール・安定確保次第。ラボコストは控えめ 設備投資大。高稼働時はコストメリット大
運用現場の負担 地元ネットワークや既存調達網が活きやすい 大規模ラインの維持運用が必須

選定時にバイヤー・サプライヤー双方の心構え

結論として、グローカルフレークとボトルtoボトルは「どちらが優れている」ではなく、
・調達先の規模/用途/地域特性
・必要LCA証憑の厳しさ
・現場オペレーションのデータ化・DX進度
・自社の供給網戦略(リスク分散/売上拡大/コスト最適化など)
・顧客や社会からの求められる環境貢献度
などの多角的な視点から「最適解」を都度判断していくことが肝要です。

アナログな現場や昭和的な業界慣習が色濃く残る中でも、「業務の見える化」「現場起点のデータ取得」「バイヤーとサプライヤー双方の歩み寄り」により、“地に足の着いたサステナビリティ推進”が現実解となります。

まとめ:伴走する現場感覚と新たな地平線の模索

PETリサイクル事業の環境価値最大化には、単なるLCA数値の競争に終始せず、“実現可能性と現場の納得感”“バイヤーとサプライヤーの共創”“昭和文化と先進DX双方の良さを融合する”ラテラルな発想が不可欠です。

経営やアッパーな理屈だけでなく、現場で汗をかいてきた立場として、調達購買・生産管理・品質管理・自動化に携わる読者一人ひとりが、目の前の業務から一歩引いて「現場にとって本当に意味のある持続可能性とは何か?」を再考することが次なる製造業進化のカギとなります。
今こそ、グローカルとグローバル、アナログとデジタルの智慧を掛け合わせ、新たなPETリサイクルの地平線を切り開きましょう。

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