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ピッキングの属人化が引き起こす“探し物の地獄”

目次
はじめに:なぜ“ピッキング属人化”が問題なのか
製造業の現場で日常的に発生する「ピッキング」作業。
この工程は一見単純に見えるかもしれません。
しかし、多品種少量生産が当たり前となった現代の工場では、必要な部品やパーツを正確かつ迅速に探し出すことが、生産性や品質、コストに大きく影響を及ぼします。
特に昭和時代からのアナログ管理が色濃く残る製造業においては、「ピッキングが属人化」している現場が未だ多数存在しています。
この「属人化」とは、特定のベテランや一部の担当者だけが棚や部材の在庫状況を把握していて、他の人が代わりを務めるとピッキングミスが多発したり、そもそも物がすぐに見つからず現場が混乱する状態を指します。
この記事では、このピッキングの属人化がもたらす“探し物の地獄”の実態と、なぜ今なお根強く続くのか、そこから抜け出すための現場目線での実践的解決策について深く掘り下げていきます。
属人化するピッキング現場のリアル
ベテラン頼みの在庫管理の落とし穴
製造現場では、「あの棚のアレは、◯◯さんならすぐ見つけてくれる」。
こういった“暗黙知”に支えられることが未だ多くあります。
ピッキング作業においても、品番が似通っている部品や、棚に表示がない資材、季節や製造工程ごとに置き場が変わるような特殊な部品などは、現場のリーダー格や長年勤めているベテラン社員がいるからこそ成り立つ面があります。
しかし、こうした属人化が進むと、下記のような問題が表面化します。
- 担当者が休んだら作業が回らない。
- 探す時間がかかり、製造リードタイムが延びる。
- 部品のピッキングミスやロット違いによる品質クレーム。
- 経験の浅いオペレーターの急な異動や雇用がしにくい。
- 在庫の適正在庫・過剰在庫の判断ができない。
属人化は効率化を妨げ、経営的リスクを見えにくくしています。
“探し物の地獄”がもたらす現場のストレス
現場では「あれ?どこに置いたっけ?」「昨日まではここだったのに!」という“探し物の地獄”が日常茶飯事です。
特に繁忙期や人員入れ替え時には、探し物の時間が累積して生産計画が遅延。
さらには、見つからない部品を補充発注して二重在庫が発生したり、見つからないまま“ありもので間に合わせる”結果、後工程で不具合を呼び込むリスクも高まります。
この「探す」時間は実際の作業時間の倍以上かかることも多く、「価値を生まない」浪費そのものです。
また、ピッキングに手間取ることで現場スタッフのモチベーションも下がり、結果的に「職場の雰囲気悪化」「コミュニケーションの不全」にまで発展します。
なぜピッキング属人化が温存されるのか
昭和からの風土:職人意識と現場主義
日本の製造業は長い間、「現場のことは現場が一番知っている」という現場主義・職人文化を大切にしてきました。
これは、日本の高品質・高付加価値なモノづくりを支えてきた大切な資産でもあります。
しかし一方で、その“匠”の知恵やノウハウがデータや標準手順として記録されず、属人化の温床となってきました。
また、古くからの現場では、棚・箱・ラベルの表記管理が「ローカルルール」として優先されることも多く、IT化や標準化が進みにくいという土壌があります。
IT化遅延、現場の抵抗
「現場にシステムやバーコード管理を入れようとしたけど、結局使ってるのは一部だけ…」。
こうした声も多いのが現実です。
新しいITシステムや物流自動化ツールの導入を試みても、現場で担ってきたベテランの反発や、「今までもこれでやってきた」という成功体験が変革への壁となるためです。
その結果、管理者と現場オペレーター間に“溝”が生じ、「やっぱり最後はベテラン頼り」になり属人化が温存されてしまいます。
ピッキング属人化からの脱却、現場ができる実践的なアプローチ
ラテラルシンキングで徹底見直し:立ち止まって“なぜ”を問う
まず重要なのは、「そもそも今のままのピッキングでいいのか?」という原点回帰です。
生産計画・棚割り・部品の保管場所など一つ一つを見直し、「このやり方は誰のため、何のためか」をラテラルシンキング(水平思考)で再検討してみましょう。
時に“常識”や“慣習”を疑う勇気が、属人化打破の一歩となります。
標準化こそが最大の生産性改革である
属人化の“壁”を壊す最初のステップは、ピッキング工程の標準化です。
具体的には
- 現場マップ(動線+棚番号+品目リスト)を毎日更新し、全員で共有する
- ロケーション管理(番号管理・カラーネーム・QRコード化など)を徹底する
- ラベルや掲示物の統一、視認性UP(例:カイゼンの5S活動を徹底)
- ピッキングチェックリストやピッキング担当者表の見える化
- 作業を動画や写真で記録、新人教育やOJTに即活用する
これによって、「現場データを誰でも見られ、使える」仕組みへの転換を図ることができます。
また、「あって当たり前の物が、どこにあるか分からない…」という“探し物の地獄”が可視化され、根本対策も打ちやすくなります。
アナログから一気にデジタルは難しい――段階的に無理なく移行
「いきなりWMS(倉庫管理システム)を入れても、結局使われない」。
これは多くの中堅・中小製造業で起こりがちな失敗例です。
重要なのは、まずは 現場に合わせたアナログの見える化 や 簡易なITツール(Excelやスマートフォン、タブレット等) から始め、徐々に棚卸や受払管理、ピッキング指示のデジタル化へ進めていくことです。
現場が「便利だ!」と実感できる小さな改善から着手し、段階的なDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていきましょう。
人材育成と多能工化も“地獄”脱出の鍵
ピッキング現場での属人化が生じる背景には、「教えてもらわなければ分からない」「自分しかできない」という状況があります。
この状況の打開には、多能工教育・ジョブローテーションの推進が有効です。
属人化している現場ほど、定期的に役割を少しずつ入れ替え、シェアされた“見える知”に転換する努力が求められています。
また、属人化を解消する過程では、ベテラン社員の知恵をマニュアル化・ナレッジ化するプロジェクトを立て、彼らのモチベーション維持にも配慮が必要です。
バイヤー・サプライヤー目線で“ピッキング属人化”を見る
バイヤーが恐れる「現場トラブル」の温床
大手メーカーのバイヤーから見た場合、部品や資材の納品先現場が属人化している場合、納入遅延や品質トラブルのリスクが高いことを見抜いています。
「注文通り確実に引き取れる」「柔軟に出荷ができる」という信頼を得るには、属人化脱却・ピッキングの標準化こそが根本策です。
また、調達部門が現場のこうした課題を認識し、「デジタル化」「標準化」への投資や支援を進めることが、サプライチェーン全体でのパフォーマンス向上に直結します。
サプライヤーが知るべきバイヤーの“見ているポイント”
サプライヤーの立場からは、工場のピッキングや棚出し管理の様子をバイヤーがどう見ているかが重要です。
セット組みやキッティング工程でミスが起きない仕組み(ミスを許容しないピッキング工程、バーコード照合、ダブルチェック体制など)は、バイヤーからの信頼獲得につながります。
また、「人に依存しないシステム化」「現場改善のPDCAサイクルが回っていること」なども、優良サプライヤー選定のカギです。
今、現場で始める“脱属人化”アクション
①現場歩きとヒアリングの「徹底実施」
ピッキング工程のムダ・ミス・探し物の発生理由を、現場スタッフも巻き込んで徹底的に洗い出しましょう。
現場で起こっている事象を数値化し、「なぜこれが起こるのか?」を何度も深堀して分析します。
②最小限の“現場目線カイゼン”から
アナログでも、「ここにラベルを貼る」「棚の配置を工夫する」「カラーボックスでジャンルごと分ける」など、小さな可視化を続けるだけでも劇的に“探し物の時間”が減ることが実感できるはずです。
③IT・デジタル化の段階導入
バーコードリーダー、ハンディターミナル、スマートフォンアプリ、写真ベースの在庫管理など、現場の負荷感を最小にしたツールから段階的に導入することが大切です。
まとめ:ピッキング属人化打破で生産現場が生まれ変わる
ピッキングの属人化が長年の常識だった時代は終わりつつあります。
昭和の風土が残る工場でも、小さな見える化、標準化を一歩ずつ積み重ねることで、「誰でもできるピッキング」「探し物ゼロ現場」を実現する時代に変わってきました。
現場からのボトムアップ改善と経営からの変革支援が両輪となれば、探し物の地獄――その“ムダ”も“ストレス”もない工場がきっと生まれるはずです。
変わることを恐れず、あえて「当たり前」を疑うラテラルシンキングこそが、製造現場の未来を拓く鍵なのです。
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