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ボールペンのインクがかすれないための顔料分散と粘度調整技術

目次
ボールペンのインクがかすれないための顔料分散と粘度調整技術
ボールペンは、いまや世界中で毎日使われている筆記具です。
とくに日本のボールペンは「書き味がなめらか」と世界中で高い評価を受けています。
その一方で、安価な海外製品などでは「すぐインクがかすれる」「筆記線が薄い」というトラブルも少なくありません。
この「かすれ」を防ぐための要となる技術が、「顔料分散」と「粘度調整」です。
今回は、昭和時代から令和の現在まで製造業の現場で培われた知見をもとに、ボールペンインクの要素技術について深く掘り下げていきます。
顔料分散技術とはなにか
顔料と染料の違い
ボールペンインクに使われる「着色材」には大きく分けて顔料と染料の2種類があります。
染料は水や溶剤に溶ける性質があり、繊維に浸透しやすいため、発色が鮮やかなのが特徴です。
一方、顔料は水や溶剤に溶けず、細かい粒子としてインクの中に懸濁している形をとります。
ボールペンのインクは、耐水性や耐光性、にじみ防止、紙への沈着性などの理由から、顔料タイプのインクが広く用いられています。
顔料分散の難しさ
顔料は粒子が非常に小さく、お互いに凝集しやすい性質があります。
もしインク中で粒子が大きな塊となってしまうと、ボールに詰まったり、筆記線がかすれる原因になります。
そのため、インクを作る際には「しっかりと顔料を微細に分散させる」ことが求められます。
顔料の分散が不充分な場合、ボール先の細い隙間で粒子が引っかかりやすくなり、インクの流出が妨げられ、かすれが生まれてしまいます。
分散工程の現場感覚
実際の工場では、「分散機」と呼ばれる特殊な装置を用いて、顔料をビーズやローラーで「摩砕」し、均一な粒径になるまでよく混ぜます。
この工程は、職人の経験や勘どころが大きく影響します。
とくに昭和から続く老舗インクメーカーでは、「この粘度のときには分散熱がこれくらい」「音の変化で分散が進んだかわかる」といったノウハウが脈々と受け継がれています。
とはいえ、現在は工程の自動化も進んでおり、粒度分布をレーザーで即座に測定し、デジタルに最適化する例も増えています。
最新の分散機ではナノレベルの粒径管理が可能となっていますが、現場では「機械の表示が正しくても、実際に筆記してみないと本当にはわからない」と、現物確認を重視する文化も根強いです。
粘度調整の技術とノウハウ
なぜ「適切な粘度」が重要なのか
ボールペンのインクは、粘度が高すぎても低すぎても問題が起こります。
粘度が高すぎればインクがボールの隙間を通過しにくく、書き出し時にかすれたり、筆記の度にインク切れを起こします。
逆に粘度が低すぎると、インクが漏れてボタ落ちしたり、紙に滲んだりしてしまいます。
従って「絶妙な粘度」の設定が、実際の書き味と信頼性を大きく左右します。
粘度調整の現場での工夫
粘度はインク原液を製造する各工程ごとに厳密に管理されます。
測定には、回転式粘度計やカップ式粘度計が多用されますが、現場では「標準温度」での計測だけでなく、実際の使用環境(たとえば冬の寒い作業現場など)を想定した粘度調整が求められます。
なぜなら、粘度は気温や湿度、使用する紙やボール径によっても微妙に変化するため、試作品を実際に書いてテストする「実地検証」が不可欠だからです。
添加剤による粘度や安定性のコントロール
近年は、ナノ分散技術や新規高分子添加剤の活用も進んでいます。
顔料粒子の表面に「分散剤」や「界面活性剤」を添加して、粒子同士が凝集しないように安定化します。
また、粘度調整のためにセルロース誘導体、アクリル系樹脂、各種グリコール類などが複合的に使用されるケースも増えています。
最新の設計では環境対応や人体安全性も考慮し、非VOC化やリサイクル原料への転換も求められています。
インク開発と品質保証の裏側
品質トラブルと現場での対応
インクのかすれに関するクレームは、実際の現場では筆記具メーカーやお客様相談室に頻繁に寄せられる「定番クレーム」です。
そこで現場担当者は、原料ロットや生産設備の点検、試験ロッドの評価など、あらゆる観点から原因究明を行います。
そのプロセスが非常にアナログで泥臭いのも特徴です。
とくに「年末にクレームが急増する」「季節変動でダメになるロットがある」など、現場ならではの経験則が品質管理のヒントにつながります。
工程自動化とベテランの勘所
昨今では顔料分散工程、粘度調整工程の両方でAIやIoTによる自動化・データ収集が進んでいます。
それでも「最終的な判断は人間の目と手に頼る」企業は根強く存在します。
本当に「かすれない」インクかどうかの見極めに、ベテラン担当者による全数抜き取り検査や、実際に何千メートルも線を書いて耐久性を確認するなど、熟練の技が投入されています。
現場では「数値管理」だけでなく「肌感覚」や「ユーザー体験」にまで踏み込んだ管理が当たり前になっています。
サプライヤーからバイヤーへの提案力
顔料分散や粘度調整の技術力は、技術力だけでなくサプライヤーとしての「バイヤーとの対話力」がものをいいます。
「どうしても書き出しでのかすれをなくしたい」「極細ボールペン用に、さらに進化した分散性を」というバイヤーからの要望に対し、
・顔料選定の提案
・新規添加剤や分散方法のプレゼン
・コストや環境性への配慮
など、技術/コスト/現場適応性をバランスさせて提案する力が強く求められます。
また、「海外調達インクの置き換え」「生産数量の変動対応」「安定供給の保証」「法規制(改正化学物質規制など)への対応力」など、
今のものづくり現場が直面する課題に対応するため、サプライヤー・バイヤー双方に現場感覚とコミュニケーション力が不可欠です。
アナログ業界の深化とラテラルシンキング
ボールペンのインク製造は「超」アナログな現場力と、精密な理論・デジタル制御の融合が求められる領域です。
たとえば
・AIによる実運用データ×ベテランの閃き
・新素材導入×既存設備の応用
・従来の常識に囚われない発想(ラテラルシンキング)
などが、かすれない高品質インクの設計・継続供給のカギを握っています。
実際、従来の「溶媒を変える」「分散時間を長めにする」といった延長線上の改善だけでなく、異業種の分散液ノウハウ(食品、製薬、化粧品など)からの知見を取り入れる企業も増えてきました。
さらにSDGsやカーボンニュートラルの潮流といった社会的要請にも応えることが、
現場発・顧客志向のものづくりを支える原動力になります。
まとめ:現場で進化し続けるボールペンインク技術
ボールペンのインクがかすれないための要素技術は、「顔料分散」と「粘度調整」の高度な現場技術と、多くの現場経験・勘どころの蓄積があってこそ実現されます。
最新の科学的管理・自動化技術と、現場作業者や管理者が長年蓄積してきたアナログ的な知恵とが、絶妙に組み合わさることで「かすれないインク」は初めて実現されます。
この現場と設計の融合こそ、昭和から続くアナログ業界にありながら、いつまでも世界から評価の高いボールペンを生み出し続ける源泉です。
製造現場やサプライヤーの方は、自社技術の見直し、新しい分散や粘度の設計など、ぜひ本記事をヒントに現場・未来志向のモノづくりを深めていっていただければ幸いです。
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