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高張力鋼板でロールフォーミングを行う際の落とし穴

目次
はじめに ─ 高張力鋼板×ロールフォーミングの現場課題
高張力鋼板とロールフォーミング加工は、今や自動車や家電など多くの分野で定番の技術の一つです。
特に軽量化・高強度化が求められる自動車業界や建材分野において、その組み合わせはコスト・性能両面で重要なソリューションとして強く着目されています。
しかし、この範囲に踏み込む現場が意外なほど「昭和的」な落とし穴でつまずくケースが跡を絶ちません。
この記事では、20年以上製造現場に携わった中で見えてきた高張力鋼板のロールフォーミング加工にまつわる落とし穴や、本当に必要な現場目線の知識、そして今後を見据えた業界動向について深堀りしていきます。
高張力鋼板とロールフォーミングの基礎知識
なぜ「高張力鋼板」が求められるのか
高張力鋼板は、従来の鋼板に比べて引張強度が高く、薄く・軽量で同じ強度を実現できます。
輸送機器や建築物など、軽さと頑丈さの両方が求められる分野において、その適用範囲は年々拡大しています。
例えば自動車のボディ構造や部品の軽量化により、燃費向上やCO₂排出量の削減が可能になります。
ロールフォーミングの特長と限界
ロールフォーミングは、連続的に長尺部材を生産するのに非常に効率的な加工法です。
コイル状の鋼板を多数のロールの間に通すことで、目的の断面形状に成形します。
他のプレスや金型成形に比べて材料歩留まりが良く、設備投資も比較的少ない点が魅力です。
一方で、加工できる形状や材質に制約があり、特に高張力鋼板のような弾性が高い材料では、仕上がり精度やスプリングバック、ロール摩耗など数多くの課題が表面化します。
現場でよくある「落とし穴」——アナログ現場で見落とされがちなポイント
材料特性の過小評価
最大の誤算は、高張力鋼板が「成形しづらい材料」であることへの認識不足です。
引張強度の高さはすなわち「ばね性=スプリングバックの大きさ」「加工硬化の激しさ」に直結します。
昭和時代の中炭素鋼や軟鋼板の感覚でロール設計・曲げ検証を行うと、現場立上げ時に「予想外の寸法不良」が多発します。
このギャップに気付かず現場が右往左往、納期遅れと評価不良を招いてしまうのはありがちな落とし穴です。
内製ロール設計の「経験頼み」
日本の現場は往々にして熟練者の「職人勘」をベースにした設計・改造が幅を利かせます。
たしかに、長年同じ鋼種を相手にしてきた現場技術者の感覚は無視できません。
しかし、高張力鋼板のような高機能材料では、ロール形状やピッチの微細な違いが最終寸法に大きく響きます。
3D CADやCAE解析(有限要素法)を使わず、「従来通り」でロール設計を流すと、不具合の根本要因が迷宮入りしやすいのです。
材料ロット差による品質のゆらぎ
高張力鋼板は鋼製造時の温度管理・成分バラツキによって、ロットごとに機械的特性が微妙に変化します。
現場で「この前と同じ材料なのに、なぜか曲がりが違う」「形状精度がロット毎に揺れる」といった現象が頻発します。
対策としては、受入検査時点でのミルシート(材料証明書)確認や、簡易の硬度測定を現場で徹底することが欠かせません。
また、調達・購買担当者は、こうしたロットブレに強い材料サプライヤーを選定する力が問われます。
油脂管理の甘さと摩耗問題
高張力鋼板は、摩耗性と粘着性が高いため、ロール部への負担が軟鋼よりずっと大きくなります。
適正な潤滑油・クーラントの選定や、定期的なロール清掃・研磨スケジュールがないと、摩耗不良(ゴージング)や部分的なかじり・亀裂が進行します。
多くの現場で「油は余っているからたっぷり使えばいい」といった、コスト感度の低い運用が今も根深く見られます。
潤滑油の現場適正化や自動給油装置の導入など、新たな設備投資の検討も必要です。
スプリングバック対策と「後戻り」コスト
高張力鋼板の最大課題がスプリングバック、すなわち成形後の戻り現象です。
昭和的現場では「現物合わせ」の微調整で対応しがちですが、これでは上流工程や量産切替時に莫大な手戻りコストが発生します。
現象収束後でしか対策パラメーターが分からないので、安定生産には不安が残ります。
スプリングバックの定量予測や、成形シミュレーションを用いた事前評価が今後は不可欠です。
現役プロが推奨する「昭和脱却」アプローチ
ロール設計はCAxツール活用が必須
高張力鋼板に対応するロール設計では、現場経験だけでなく(1)CADによる3Dモデル設計、(2)CAE(成形シミュレーション)によるスプリングバック評価の2本柱が必要です。
有効な解析によって、ロット差・工程起因不良を未然に防げ、生産立上げにかかるコスト・人件費削減も実現できます。
日本の中小製造業ではIT導入が遅れていますが、即効性ある部分へのスポット投資は今後の市場競争力強化のカギとなります。
バイヤー/サプライヤー間の情報共有深化
調達購買担当者は、「スペック重視の価格交渉型」から、QCD(品質・コスト・納期)と工程起点での情報共有へと自社の立ち位置をアップデートしましょう。
具体的には、サプライヤーとの初期協議から鋼種のロット特性情報や、成形試験データの共有を積極的に進めるべきです。
また、サプライヤーも「受け身」姿勢ではなく、顧客現場の市況や設備特性に踏み込んだ上流提案ができる強みが求められます。
「見える化」と現場コンディション管理の徹底
アナログ現場が生き残るための鍵は、「工程・現場の見える化」です。
現場で起こるロスや寸法ばらつきの傾向などを、省力化カメラやIoTセンサーを活用し、モニタリングや自動記録で再現性のある「気づき」に落とし込んでいくことが求められます。
単なる「紙の日報」で終わらせず、エビデンスを常時蓄積できる環境を構築することで、再発防止や後進育成にもつながります。
今後の業界トレンドと現場の新たな地平線
脱炭素化・SDGs時代の材料選定力
製造業のグローバルトレンドは、CO₂削減・カーボンニュートラルです。
今後は「強度+溶接性+環境性能」を兼ね備えた先進高張力鋼板(AHSS、DP鋼など)が主流になります。
バイヤーや技術者はますます材料工学の知識や、市場情報のキャッチアップが重要になります。
また、選定した材料が持続的に安定供給されるかどうか、新サプライヤーとのリレーションも業務の一部となるでしょう。
AI・自動化と「アナログ魂」の共存
AIによる画像検査や設備コントロール、現場判断の自動化が注目されていますが、日本の製造現場には「アナログ的な現物合わせ」「現場の勘」も依然として息づいています。
今後はAI・システムと、熟練者の現場感覚や経験値を融合し、バランスの取れたハイブリッド現場の運用が業用化の焦点となります。
これはAI万能論への過剰な傾倒を防ぎ、独自性・競争力を持つ組織として生き残るためにも不可欠です。
まとめ ─ 「落とし穴」を超え、現場から業界を変えていこう
高張力鋼板でロールフォーミングを行う際には、従来材料とまったく違った落とし穴が存在します。
典型的な「昭和流」の現場感覚や職人技だけでは、現代の高機能鋼板が持つ難しさ・奥深さに太刀打ちできません。
しかしポイントを押さえて、現場と調達購買、技術・管理部門が一丸となって新しい知見やツールを取り入れることで、確実に他社と差別化できる現場力が育ちます。
自社の現場で今なにが「落とし穴」になっているか、この機会にぜひ振り返ってみてください。
そして、現場から着実な変革を進め、強い日本のものづくりをつくり続けていきましょう。
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