投稿日:2025年6月6日

ソフト品質を確保する計画策定とそのポイント

はじめに ~製造業で求められる「ソフト品質」とは~

製造業の現場で「品質」といえば、多くの方はまず形のある製品や部品の出来栄え、つまりハードウェア品質を思い浮かべるのではないでしょうか。
ところが近年、製造業の現場でもIT化・自動化の波が押し寄せ、製造現場の中枢を担う「ソフトウェア」の品質――いわゆる“ソフト品質”の重要性が急速に高まっています。

例えば生産管理システムや品質管理システム、さらに最近ではIoTやAIを活用した自動化ラインの各種プログラムやマイコン制御ソフトなど。
「作り込まれるソフトウェアの品質」=正常に稼働するのは当然ですが、現実はそう単純ではありません。

ハードの品質管理同様、ソフトの品質も計画的かつ戦略的に確保していく「計画立案」がますます殊更求められてきているのです。
この記事では、昭和的な現場主義と現代的なデジタル力を融合させて、「現場で真に役立つソフト品質の確保方法」を、実践的な視点で徹底解説します。

なぜ今、「ソフト品質の計画策定」が重要なのか?

ソフト品質トラブルの深刻な影響

従来、製造業の不良やトラブルは「ものづくり」そのものに起因するものが大半でした。
しかし近年、現場のトラブル要因の中でも「システム障害」や「予期せぬプログラムの誤作動」による工程停止や品質異常、納期遅延が急増しています。
たとえば以下のようなケースです。

– 生産ラインの設備ソフト更新後、基幹システムと連携不良が発生し、出荷データに誤り
– IoT機器のファームウエア更新が現場でうまくいかず、設備停止
– 電子部品実装ラインのロボット制御ソフトのバグで大量不良発生

これらのトラブルは、単なる「ミス」や「仕様勘違い」だけでなく、「計画なき開発」「運用フローの不備」「管理ドキュメントの散逸」など、組織としてのソフト品質確保力の弱さが根底にあります。

他人事では済まされない!サプライヤーやバイヤーにも波及する影響

調達購買担当・バイヤーの立場で見ても、ソフトの品質トラブルは自社製品の信頼低下やサプライチェーン全体の毀損につながりかねません。
一方でサプライヤー側も、今や単なる「ハード納入」だけでなく、「プログラムのバグ対応」や「システム連動の支援」など、ソフト品質維持の責任範囲がどんどん拡大中です。
「うちの現場(もしくは取引先)はIT弱いから…」ではもはや通用しません。

システムや製造機器を外部から調達する際も、ソフト品質確保の観点から、仕様・テスト・保守計画まで総合的に見極める力が不可欠です。

ソフト品質確保の基本ステップと計画策定の重要ポイント

ソフト品質の構成要素を理解する

「ソフト品質」といっても曖昧なイメージを持たれることが多いですが、国際規格(ISO/IEC 25010等)でも、以下のような主要観点が明示されています。

– 機能性(要求通り動作するか?)
– 性能(どんな負荷状況でも安定しているか?)
– 信頼性(不具合や障害は発生しないか?)
– 使用性(現場が使いやすいか?)
– セキュリティ(情報の漏洩や不正アクセスを防げるか?)
– 保守性・移植性(将来の改修や環境変更にも柔軟か?)

これまで「とりあえず動けばOK」という価値観がまかり通っていた昭和的なアナログ現場から抜け出すためにも、まずはこれら品質項目を自社や現場のソフトに照らし、整理してみることがスタートです。

計画策定の実践ステップ

ソフト品質の確保は“机上の空論”になりがちです。
そこで重要なのは実践可能な形で、具体的な工程・役割・チェックポイントを明記した「品質計画」の作成です。

  1. 現状把握(どこまでが自社内製/外部調達か?現場のITリテラシーは?システムの使用目的・重要度を洗い出す)
  2. 品質目標の設定(単に「不具合ゼロ」と言うだけでなく、「最大応答時間は3秒以内」「毎月のエラー障害は1回まで」等、現実的かつ計測できる基準を設定)
  3. 品質確保のための工程設計(設計・開発フェーズ、テストフェーズ、リリース・運用フェーズに分けて、各ポイントでのチェック項目やレビュー手法を具体化)
  4. 役割分担(社内IT、現場技術、生産管理、サプライヤーなど、各段階で誰が何を担うか明確化)
  5. ドキュメント整備(仕様書、テスト結果、変更履歴など必須ドキュメント類を網羅・標準化)
  6. 継続的なレビュー・改善フロー(現場からのフィードバック、障害対応結果の分析、次回開発への反映ループを必ず組み入れる)

アナログ文化が根強い現場でも使える「ソフト品質確保術」

属人化した現場に陥りがちな事例と対策

昭和的な工場や中小メーカーの現場を回ると、まだまだ「ベテランの職人技術者が独自にソフトを開発・運用している」現場に多く出会います。

– 「〇〇さんが過去に作ったExcelマクロが生産ラインの肝」
– 「〇〇さんしかメンテできない古い制御ソフト」
– 「現場担当のメモ帳しか仕様書が存在しない」

こうした属人化は一見「現場力」と勘違いされがちですが、事業継続や社内技術継承、生産ラインの将来的な拡張性・保守性の観点から、極めて大きなリスクです。
「今さらドキュメントか…」と敬遠する声もありますが、まずは以下アクションから初めてはいかがでしょうか。

– 既存のソフト仕様や運用手順、一行でもいいので紙に書き起こし、部署内で共有
– サプライヤーやITベンダーにも「現場での運用状況」を説明し、ルール整備に巻き込む
– できれば現場視点でよくあるトラブル事例を簡単なQAシート形式でまとめる

こうした「まず見える化」だけでも、想像以上にソフト品質事故の予防効果が高まります。

サプライヤー、バイヤーのWin-Winを実現するために

バイヤー(調達・購買部門)は、ソフト品質が契約上のトラブルや取引停止に直結するケースも珍しくありません。
発注段階から「ソフト品質についてどこまで求めるか」「納入後のサポートは?」「必要ドキュメントやレビュー基準は?」など、具体的に要求仕様を明文化しましょう。
一方でサプライヤー側も、「どこまでが保証範囲か」「現場のITリテラシーをどうケアするか」など、自社リスクを可視化したうえで現場への運用提案力を強化することが業界競争力につながります。

デジタル化とアナログ現場の“架け橋”となるバイヤー・サプライヤー像とは

ハードとソフトが高度に融合しつつある現代の製造業において、単なる「価格交渉役」「納入管理役」だけでなく、“現場起点”でデジタル導入メリット・リスクを理解し、最適仕様選定や共同改善を提案できるバイヤー像が強く求められています。
また、サプライヤーも「設計・提案・サポート」まで責任ある姿勢を持ち、現場と共に品質向上に取り組むパートナーシップが必要です。
双方の信頼関係があれば、トラブル発生時も“非難しあう”のではなく、“ともに乗り越える”文化を生むことができます。

まとめ ~今すぐ現場でできる「一歩目」~

ソフト品質確保は、単なる技術課題でも現場のIT化でもありません。
サプライチェーン全体の信頼・競争力を担保する経営課題と言い換えることができます。

まずは自職場のソフト品質実態を見える化し、品質項目や運用フローを現場目線で一つずつ整理すること、そのための「計画づくり」から始めてみてください。

製造現場で培われた現場知・アナログ力と、デジタル力・計画力を融合させれば、必ずや“昭和型の壁”を突破し、より高い品質・信頼への道が開けるはずです。

バイヤーを目指す方もサプライヤーも、今後の製造業の進化に向けて、「ソフト品質の真の重要性」に気づき、一歩踏み出す勇気を持って実践しましょう。

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