投稿日:2025年6月17日

プラスチックの破損原因究明および応力・ひずみの評価・解析手法と実務への活かし方

はじめに:プラスチック部品の破損とその現場的課題

製造業において、プラスチックは金属に代わる軽量で成形自在な材料として幅広く使用されています。

一方で、設計現場や生産現場で頻発する「破損・クラック・変形」などの不具合は、歩留まりの悪化や現場の混乱、若手技術者の悩みの種となっています。

特に、昭和から続くアナログな手法に頼っていると、原因解明が後手になり、品質改善のボトルネックにもなりかねません。

この記事では、現場に根ざした視点からプラスチックの破損原因の体系的解明と、最新の応力・ひずみ評価、また解析手法について紹介し、どのように実務に活かせるのかを具体的に解説します。

プラスチック破損の主な原因と現場が直面する課題

設計ミスと現場フィードバックの重要性

最も多い破損理由は設計段階のミスです。

例えば、リブの急激な肉厚変化による内部応力の集中、コーナーR不足による応力集中、部品組付時の過度な締付力などです。

現場からのフィードバックが設計に届かず、同じ失敗を繰り返すケースも多々あります。

このような状況を打開するには、現場と開発、双方のリアルなコミュニケーションが不可欠です。

成形条件と材料選定の落とし穴

成形段階での温度・圧力管理の不備や、材料ロット差、異物混入も破損の大きな要因です。

特に一見安価だが耐衝撃性や環境耐性に乏しい材料選定が、長期的には製品の致命傷となる場合があります。

実際の不具合データを分析し、「なぜこの材料が選ばれたのか」「なぜこの条件で成形したのか」現場の言い分も冷静に掘り下げたいところです。

実際の現場で起きる「想定外の負荷」

設計値ではクリアしているのに現場で壊れる部品。

その多くは、現場特有の繰り返し荷重、歪んだ据付、予期せぬ固着や衝撃など、「カタログ上の安全率」に表れない現場ストレスが多く潜んでいます。

現地現物主義で、実際の使われ方を深く観察することが、再発防止の大前提となります。

応力とひずみの評価・解析手法

応力・ひずみの基礎知識と可視化の意義

応力とは「モノの内部で分担される力」、ひずみとは「形がどれだけ伸び縮みしたか」を示す量です。

プラスチック破損の現象を定量的に捉え、原因を特定するには、可視化されたデータが必要不可欠です。

現場で応力やひずみがきちんと評価できていないと、経験則や勘に頼った対応に終始してしまいがちです。

アナログ現場にも馴染む実践的手法

現場目線で取り入れやすい代表的な評価手法は下記です。

  • 万能試験機による引張・曲げ・衝撃試験
  • ひずみゲージによる局所的な歪みの測定
  • 極めて低コストな「インキ壊し法」「歪みセンサーシール」
  • 偏光による応力可視化(フォトエラスティシティ)
  • 実機モックアップや過荷重テスト

これらを現場で試し、再現性の高いデータで設計部門にフィードバックすることで、机上の空論に陥らずに済みます。

最新解析法:CAEとその現場展開

ITの進化とともに、CAE(Computer Aided Engineering)による構造解析は以前より容易となり、中小工場にも浸透しつつあります。

代表的な解析では、FEM(有限要素法)を用いた強度・破壊予測、流動解析によるウェルド・ソリ・ボイドの発生予測が挙げられます。

ただし、信頼性や費用対効果を実務目線で精査し、「解析結果は現物の再現にどこまで近いか」「現場工数をどう削減できるか」など、常に現場への落とし込みが重要となります。

AI・データ活用による次世代アプローチ

最近では、不良発生傾向の時系列データや画像データを用い、AI解析で異常を早期検知・予測するソリューションも登場しています。

一方で、現場の肌感覚や経験に比べて「何が起きているのかわかりづらい」といった声も根強いです。

この溝を埋めるには、AI結果を「なぜそうなるのか」という現場現象と突き合わせて議論するプロセスが必要です。

品質・調達・生産現場での応用事例と活かし方

サプライヤーとの協業で再発防止体制を構築

部品供給現場では、再発防止に向けて「なぜなぜ分析」を行う際、応力・ひずみデータが一つの科学的根拠となります。

実際、取引先と共に現場調査や実測を実施し、データのもと設計変更・材料切替などの判断が迅速に行えるケースが増えています。

ある現場では、繰り返し応力が集中するクリップ部品の破損原因を、ひずみゲージ計測で「組付ジグのたわみ」が本質原因と特定。

ジグの剛性強化と同時に、材料スペックも再検証し全社標準化することで類似不良をゼロ化しました。

調達バイヤーの立場で見る「見積り妥当性」の新基準

プラスチック部品において、設計強度や破損リスクを“定量的データ”で示すことは、単なるコストダウン交渉よりも説得力をもちます。

サプライヤーが「現場の応力・ひずみ評価データ」をもち、改善提案できれば、価格と品質の両面で優位に立てます。

逆に、バイヤーとしても「安いと壊れる理由」を科学的根拠で把握し、単なる値切りや丸投げ発注にならないパートナーシップを築く指標となります。

生産部門ならではの“変化点管理”実践例

材料ロットや金型修理、工程変更のたびに「応力・ひずみ評価」をIoTでモニタリングする事例も増えています。

例えば、射出成形ラインにセンサーを仕込み、全数データから「負荷変動アラーム」を出すことで、未然に異常を検知できるようになりました。

これによりショートラン品でもムダのない生産が叶い、現場力向上と品質保証の両立に結びついています。

昭和型アナログ業界で応力・ひずみ評価を根付かせるコツ

「難しそう」を払拭する教育と現場ワークショップ

昭和時代から続く現場の風土では、「応力やひずみ」は工学理論の域を出ない難解キーワードと思われがちです。

しかし、現場主導のワークショップで「ペットボトルの潰し体験」「肉厚変更サンプルで壊し比べ」といった体感型の学習を取り入れることで、驚くほど定着が進みます。

“実物で体験→データで解説→改善策をその場で議論”というループが、座学だけの教育にはできない現場知の浸透を生み出します。

失敗事例を「他山の石」にする安全文化の醸成

破損・不具合の原因究明を「人のせい」にせず、「仕組み・現場・設計の全体で考える」姿勢が根付けば、不良対策も大きく進化します。

過去の失敗事例をデータとともにオープンにし、対話の材料にすることで、「あの時の教訓を現場で再発防止に活かす」ことができます。

現場を巻き込んだ失敗共有会やカイゼン提案発表会も、応力・ひずみの「目に見えないリスク」にみんなで向き合うきっかけとなります。

まとめ:プラスチック破損対策は“現場発のラテラルシンキング”で進化する

プラスチック製品の破損原因究明や応力・ひずみ評価は、単なる理論や計算の話ではありません。

それぞれの現場が抱える独自の課題や“想定外の使われ方”に気づき、全体最適な対策を創るための強力な武器となります。

設計・調達・生産そしてサプライヤーと現場の垣根を超え、アナログ業界でも実践的に定着することこそが昭和から令和への本当の進化です。

次の不良ゼロを実現するため、ひとつでも多くの「現場発のラテラルシンキング」を持ち寄り、製造業全体の底力アップに貢献していきましょう。

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