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プラスチック金型の基礎とトラブル原因および防止策

目次
はじめに:なぜ今、プラスチック金型の基礎が重要なのか
プラスチック金型は、現代の製造業における要となる技術です。
自動車や家電、医療機器、さらには日常的に手にするパッケージなど、私たちの生活に密接に関わっています。
しかし、業界全体を見渡すと、まだまだ昭和時代のアナログなノウハウや現場感覚が色濃く残っており、それが品質問題や生産性の停滞、若手へのスキル継承の難しさにもつながっています。
本記事では、プラスチック金型の基礎を整理しつつ、現場で頻発するトラブル原因やその具体的な防止策について、実践的な目線で解説します。
プラスチック金型の基礎知識:これだけは押さえたいポイント
プラスチック金型とは何か
プラスチック金型とは、溶けた樹脂を所定の形状に成形するための「鋳型(いがた)」です。
一般的には金属(主に鋼材やアルミニウムなど)を精密加工して製作されます。
樹脂原料を加熱・溶融し、金型のキャビティ(金型内の空洞部分)に高圧で射出(インジェクション)させて成形します。
製品が冷え固まったら、金型を開いて取り出します。
この一連の流れを繰り返す「成形サイクル」の高速化と安定化が、製造現場の収益力を大きく左右します。
金型の基本構造:キャビティとコアの関係
金型は一般的に、キャビティ(外側の形)とコア(内側の形)で構成されます。
二つがぴたりと合わさることで、樹脂が「型内流動」して製品の形が作られます。
加えて、ランナー(溶融樹脂の通り道)、ゲート(製品内部へ樹脂が入る部分)、冷却水路(型内を冷却するライン)、エジェクターピン(製品を押し出すピン)など、多くの部品や機構があります。
これらを設計・製作・メンテナンスするには高い知識と経験が要求され、これこそが日本の現場力をこれまで支えてきました。
金型の種類と成形方法
プラスチック金型と言っても、その成形方式は多岐にわたります。
– 射出成形金型(インジェクション)
– ブロー成形金型
– 圧縮成形金型
– インサート成形金型
– 多色成形金型
中でも最もポピュラーなのが「射出成形金型」です。
近年では、複雑形状や高機能性を付与する二色成形・多色成形金型の需要も増えています。
現場で起こりがちなトラブルとその本質的原因
トラブル1:型締め不良・バリ発生問題
金型成形現場で最も多いトラブルの一つが「バリ(湯じわ)発生」です。
これは樹脂が型合わせ不良・隙間から漏れて薄い膜状にはみ出す現象です。
原因を細分化すると
– 金型自体の精度劣化
– 型の締め付け力不足(成形機の劣化・設定ミス)
– 樹脂圧力や温度の不適正
といったハード面だけでなく、
– 定期メンテナンスの不備
など、現場作業の「アナログ慣れ」による慢性的な見逃しも関係します。
稼働中の異音やバリの発生状況をベテランが“肌感覚”で判断しがちですが、それだけに頼ると属人化・再現性低下というデメリットも発生します。
トラブル2:ショートショット・成形不良
ショートショットとは、金型内に樹脂が十分充填されず、製品が一部欠けたり、不完全な状態になる不良です。
主な原因は
– 成形条件(温度や圧力)が低いために樹脂の流動性が不足
– ランナーやゲートの詰まり
– 金型設計(流動解析の未実施)
射出成形機のオペレータが現場の“勘”で段取りをするケースも多いのが実情です。
実際、昭和から続く現場では「俺の設定が一番だ」「マニュアル通りじゃ仕上がらない」など、人に頼った指示系統が色濃く、若手育成やスキルの見える化が進みません。
トラブル3:金型の摩耗・破損と突発停止
金型は高強度で作られていますが、使用サイクルの蓄積によって摩耗や割れ、部品の欠損が発生します。
加えて、クールランナーやゲートの詰まり、エジェクタピン折れといった突発不良も多発します。
設備や金型の耐用年数を”肌で感じて”交換時期を判断しているケースは、管理職経験者から見ると危険暦です。
「今日は何サイクル回ったか?」
「どのロットで摩耗傾向が強かったか?」
を日々フォローする定量管理が重要ですが、アナログな製造現場ではチェック表やホワイトボードに書き写すだけ、というのが現実です。
トラブルを未然に防ぐための実践的アプローチ
デジタルツールの活用と現場スキルの融合
従来の現場力(勘・コツ)と、IoTやデジタル管理の融合が不可欠です。
例えば、金型の使用サイクルやメンテナンス履歴を自動記録する管理ツール、注入圧や温度の変動をリアルタイムでグラフ表示する成形機連動システムなどを活用すると、トラブル原因の見える化が飛躍的に進みます。
ただし、ベテラン技術者の知恵をデータ化・マニュアル化することは、決して簡単ではありません。
「デジタル=万能」ではなく、よい現場は必ず“人”の観察力や仮説検証能力が根底にあります。
そのため、
– イベント記録(異音、異常品発生時の写真・動画保存)
– トラブルに関する報告会・共有会
– データから原因を分析する仮説力の強化
を同時に推進することで、現場知見の属人化を防ぎます。
金型設計段階での流動解析の重要性
近年では、樹脂流動解析(CAE)の事前検証が非常に重要視されています。
これは、「どのゲート位置が最適か」「凝固収縮がどこで発生しやすいか」などをシミュレーションで可視化する技術です。
これにより、金型を作る前の段階で
– バリ発生リスクの低減
– ショートショットの予防
– 機能・品質狙い通りの成形
を図ることができます。
昭和の職人技を超えて、設計部門こそ“流動解析リテラシー”を磨くことが納期・コスト・品質を極める近道です。
標準化と現場への落とし込み
どんなに働き方改革やデジタル化が進んでも、現場作業が属人化しやすいのが製造業です。
だからこそ、「標準作業の見直し」と「その現場定着」のステップが欠かせません。
– 金型の段取り替え手順の標準化
– 樹脂種類や色替え時のフラッシング管理手順
– 日常点検や異常時対応フロー
など、現場で“見えるかたち”にして、その都度PDCAサイクルを回し続けることが重要です。
また、現場リーダーが“標準化伝道師”になり、若手やパートにも伝えていくことが、現場の底力向上につながります。
サプライヤー・バイヤーからみた金型管理の最新トレンド
コストダウンと品質維持のせめぎ合い
大手メーカーにとって、金型の調達・管理は、コストダウンと高品質・短納期の両立が最大の課題です。
一方、サプライヤーの立場では「安く、はやく、安定した型」を求められるプレッシャーがますます強くなっています。
この十年で、中国や東南アジアなど海外金型メーカーの進出で価格競争が激化しました。
単なるコストダウン一辺倒では、結局金型の寿命短縮やトラブル増大で、トータルコストが膨らむ危険もあります。
バイヤー側から求められるのは、“トータルコスト視点”です。
つまり、
– 金型の耐久性とメンテナンスフリー性能
– 突発停止の少なさ
– 短期間での段取り替えや樹脂変更への柔軟性
– モニタリング技術による稼働実績の“見える化”
が強く意識される時代になっています。
調達購買の現場が把握すべきリスクマネジメント
調達担当者やバイヤーは、サプライヤー任せの型管理にしないため、
– 金型の“設計意図”
– 使用素材や熱処理の品質
– サイクル管理や成形データの履歴
まで深く興味を持つ必要があります。
また、“金型製作”は初めの一回きりの仕事に見えがちですが、実際には「製品ライフサイクル」全体を見据えたパートナーシップが大切です。
突発トラブル発生時の随時対応や、改造・メンテナンス情報の共有体制など、サプライヤーとの「現場的同盟」を築くことが、これからの強い購買部門です。
今後のプラスチック金型技術の展望と現場進化
製造業のグローバル競争がますます激しくなる中、日本の強みである「緻密な金型技術」「現場力」を次世代へ引き継ぐことが重要です。
– 3Dプリンタの活用による試作・小ロット型の短納期化
– IoTセンサーによる型内圧力・温度などのリアルタイム監視
– 金型自体の“スマート化”によるトラブル抑制
といった技術革新が進みますが、“アナログ時代”から積み重ねた現場知見の蓄積こそが競争力の源泉です。
新たな技術を取り入れつつも、本質的な「現場・金型管理の哲学」を大切にしていきたいところです。
まとめ:プラスチック金型こそ“現場力と知恵”の集大成
本記事では、プラスチック金型の基礎や現場トラブルの本質、デジタル化や標準化による防止策、そしてバイヤーやサプライヤー目線で押さえておきたいポイントを網羅的にお伝えしました。
製造業がこれからも社会インフラとして発展し続けるためには、アナログの知恵とデジタルの効率、両方の強みを生かす“ラテラルシンキング”が求められます。
現場ですぐに役立つ知見と、未来への視点を持つことで、製造業・金型分野のさらなる進化に貢献していきたいと願っています。
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