投稿日:2025年7月6日

プラスチック成形品の破壊原因解析と材料形状環境別対策ガイド

はじめに:プラスチック成形品の破壊はなぜ起こるのか

プラスチック成形品は現代の製造現場に欠かせない存在です。
しかし、その一方で「使っていたパーツが突然割れた」「導入後すぐに変形してしまった」といったトラブルも後を絶ちません。
実は、多くの現場担当者やサプライヤーですら曖昧な理解しかできていないのが、プラスチック成形品の“破壊”現象です。

特に、昭和から続くアナログな慣習が根強い工場現場や現状維持バイヤーの意思決定の現場では、根本的な破壊要因の追究よりも「経験則」に頼るケースが目立ちます。
そのため、同じようなトラブルを何度も繰り返す要因にもなっています。

本記事では、現場で役立つ実践的な破壊原因の解析プロセスから、材料・形状・環境毎の的確な対策までを、バイヤー・サプライヤー双方の視点で詳しく解説します。
現場目線の具体例を交えつつ、従来の常識を一歩超えた“真に使える知識”をお届けします。

なぜトラブルが発生する?破壊メカニズムの基礎から徹底理解

プラスチックの破壊現象の種類

プラスチック成形品における“破壊”現象には、以下のような種類があります。

– 亀裂(クラック)、割れ
– 変形(曲がり、たわみ)
– 白化現象
– 劣化(黄変、脆化)
– 溶解・膨潤

これらの現象が起こる主な原因は、材料そのものの性質だけでなく「成形条件」「形状設計」「環境要因」「使用状況」など複数要素の複雑な絡み合いによるものです。

「経験則」から「科学的根拠」へ

現場では「この材料は割れやすいから避けよう」「図面通りに作ったのに壊れた」程度の浅い議論で終わる例も多く見受けられます。
そこで重要になるのが、問題発生時に“事象を見える化”し科学的根拠に基づいた解析を行う姿勢です。
それによりバイヤーはサプライヤーへの的確なフィードバックが可能になり、サプライヤーも設計・成形の提案力を高められます。

破壊原因解析の実践プロセス

1.現象の詳細観察と記録

まずは破壊の起きた部分の状態を「いつ」「どこで」「どのように」「使用環境」など、できる限り詳細に記載します。
写真や現物サンプル、状況をメモで残すのは基本中の基本です。

例えば、亀裂一つ取っても
– 端部から生じたものか
– 成形品の中心部か
– 複雑形状の応力集中部か

によって大きく要因が異なってきます。

2.発生時のプロセス”見える化”

破壊発生までの工程を時系列でひもときます。

– 成形時~冷却~後加工
– 物流・保管
– 組立・最終製品化
– エンドユーザー環境

各工程で「温度」「湿度」「荷重」「摩擦」などどのような応力がかかったか、現場ヒアリングや記録と突き合わせて確認しましょう。
物流現場のフォークリフト操作や、組立ラインでの過剰締付けも見落としがちなリスク要因の一つです。

3.材料物性・成形条件の分析

材料銘柄(グレード)、流動性、分子量分布、劣化(酸化・加水分解など)、成形温度・圧力、冷却時間など、工場側の成形データ管理も不可欠です。
特に多品種少量生産や金型共用ラインでは、条件のズレが破壊リスクを高めがちです。

成形不良(ウエルドライン、ボイド、焼け、ショートショットなど)がないか、成形品断面や表面観察も実施しましょう。

4.破壊メカニズムの特定

これらを総合し、「どのような応力(引張、圧縮、曲げ、衝撃、環境ストレスなど)」が作用して破壊が発生したのかを推定します。
実際の現場では、複数要因が絡む複雑なケースが多いため、仮説検証サイクルを繰り返すことが重要です。

材料・形状・環境別の破壊対策ガイド

材料起因の破壊対策

現場で多い材料起因の破壊には以下のようなものがあります。

– 選定ミス(例:ABSで耐薬品性不足、PPで高温使用など)
– 等級(Virgin/リサイクル/添加剤の有無)の見誤り
– 劣化材料(再生プラスチックや保管劣化)

【対策ポイント】
– 使用環境に合わせた材料選定指示(例:屋外用で耐候性グレード選定、食品用途で衛生グレード指定)
– サプライヤーへの材料性能証明書(物性シート)提出依頼
– 品質保証部門との連携による受入検査や抜取テストの徹底

意外と現場担当者が見落としやすいのは、「同じ名前の材料でもグレードに大きな差がある」ことです。
バイヤー段階で「コスト重視で安いリサイクル材にしたら割れやすかった」という事例は今でも頻発しています。

形状設計由来の破壊対策

設計段階での「肉厚不足」「急激な厚み変化」「リブ位置による応力集中」などは典型的な破壊要因です。
とりわけ、昭和から続く金型図面流用では“昔の設計基準のまま”というケースが散見されます。

【対策ポイント】
– CAE解析による応力シミュレーションの活用(サプライヤー会議での活用提案)
– ラムダ形状やフィレット追加、R設計見直しの推進
– リブやボス配置の見直し、各種補強策の追加

また、量産変更や納期短縮のための設計簡便化が思わぬトラブルの元になる場合も少なくありません。
検討段階で複数案を持ち込み、現場の声を反映しましょう。

成形条件・製造工程に由来する破壊対策

「同じ材料・同じ設計なのにAラインだけ割れる」といったトラブルは、成形機条件の微妙な違いや金型磨耗、温度ムラ、冷却不良などが原因のこともあります。

【対策ポイント】
– 金型・設備ごとの成形条件を標準化・データ化(成形履歴の記録義務化)
– 成形品ごとの抜取・寸法測定のデータ比較
– 成形トラブル時の改善プロセス見える化(工程FMEA、なぜなぜ分析実施)

現場自動化が進む昨今でも「技能者の勘頼み」の部分が業界的に根強く残っており、バイヤーからの“デジタル化推進リクエスト”が大変有効です。

環境要因を考慮した破壊防止策

「現地で使うまでわからない」使用環境要因も軽視できません。
温度変化、UV、薬品、摩耗、塩分、落下衝撃、水分吸収など、環境毎のリスク洗い出しが肝心です。

【対策ポイント】
– 耐候・耐薬品試験の実施、加速劣化テストや恒温恒湿下での性能評価
– レビュー時に必ず「使用エリア環境チェックリスト」を配布
– 輸送・保管での梱包方法や流通工程改善

現場目線で「現地の使われ方」を詳しくヒアリングし、顧客と直接コミュニケーションを取る姿勢が破壊トラブルゼロ化につながります。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの視点で考える「失敗しない発注・受注の極意」

バイヤー側の失敗パターンと打開策

– 価格重視で「とにかく安い材料」を指定
– 設計部門からの情報不十分で安易な仕様変更
– 不良発生時のサプライヤー任せの対応

これらによるトラブルは非常に多いですが、“QCD(品質・コスト・納期)”の最適バランスを現場の実態と照らして考えることが肝心です。

調達側で力量あるバイヤーは「どこまで妥協できて、どのポイントは絶対に譲ってはいけないか」を明確に線引きし、サプライヤーに伝えることで、真のパートナー関係を築いています。

サプライヤー側の攻めの提案術

– 単なる受注・指示待ちではなく、「材料代替案の先出し」「生産工程の改善提案」で差別化
– 破壊事例が起きた工程ごとに改善ストーリーを提示し、信頼醸成
– ショット数、保守条件等のエビデンスをデジタル管理して差別化(DX推進)

サプライヤーとして「一歩先」の視点で付加価値を出すことが長期取引やリピート受注の鍵になります。

まとめ:破壊事象は“現場の知・工夫”で乗り越える

プラスチック成形品の破壊原因と対策は、材料学や力学の知識だけでなく、「現場オペレーターの気付き」「工程担当者の改善」「設計者・バイヤーの目配り」「サプライヤーの積極提案」が融合することで最適解が導き出されます。

昭和から変わらぬアナログ業界においても、実際の現場に即した“破壊原因解析”視点を持つことがこれからの製造業に求められています。
課題を正確に見極め、科学的アプローチと現場の知恵をかけ合わせ、「再発防止」「製品競争力アップ」を実現しましょう。

同じ失敗を繰り返さず、「現状維持から進化する現場」を目指す皆様の一助となれば幸いです。

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