投稿日:2025年11月11日

インク乾燥後のベタツキを防ぐための可塑剤と硬化剤配合比率

インク乾燥後のベタツキ問題と製造現場の現実

印刷・塗装工程に携わる方々であれば、一度は「インクが乾いてもベタベタして製品の品質が安定しない」問題に直面したことがあるはずです。
このベタツキの問題は、見栄えの悪さや重ね刷り・積層時のブロッキング(貼り付き)、最悪の場合には市場クレームへ発展しかねません。
現場では割り切りたい部分ですが、ユーザーからの要求品質・歩留まり改善・効率アップという三重苦の中で、現場責任者や調合担当者は頭を悩ませ続けています。

インクや塗料の「ベタツキ」。
この根本的な課題を解決するには、可塑剤(プラスチックの柔軟性をもたらす成分)と硬化剤(インクの硬さや耐久性を高める成分)とのバランスが極めて重要です。
本記事では、実際に経験した現場目線も交えつつ、化学的な視点だけでなく、現場マネジメントや調達購買担当者としてのコスト・納期の観点から、最適な「可塑剤と硬化剤配合比率」の考え方を解説します。

昭和から続く“匠”の技重視の現場で、どうやってDXや新しい知見を導入すべきかという視点も盛り込みながら、問題解決に迫ります。

ベタツキが発生するメカニズムと業界の常識

ベタツキ(タック/Tack)は、インクまたは塗料が乾燥後にも完全な固体にならず、表面が半固体状態や粘着したようになる現象です。

現場でよくある場面としては、
・乾燥炉を出た直後の製品が積層された際に、上下の製品同士で貼りつく
・指で触ったときに微妙に“ぬめっ”とした感触が残る
・加熱によるブロッキングや再溶解が起きやすい
などが挙げられます。

この現象は、単なる「乾燥不足」と判断してしまいがちですが、配合バランスや基材(フィルム、紙、金属等)との相性、工程管理の不備など、複数の要因が複雑に絡み合っています。

特に日本の製造現場は「経験則」に頼りがちです。
昭和から続く“匠”の技“に守られている部分も多い反面、データに基づいた分析や数値最適化の意識がおろそかになっている傾向が否めません。
現場でよくある落とし穴として、
– 先代の暗黙知を引き継いでいるだけで、根本原因や科学的根拠が不明
– サプライヤー任せの配合で、現場との温度差が大きい
– トラブルが起きたときの“その場凌ぎ”が横行
といった問題点があります。

可塑剤と硬化剤、それぞれの役割と選定ポイント

可塑剤の役割と種類

可塑剤はインクや塗料の柔軟性や加工性を向上させるために加えられます。
代表的な機能は、
– 低温での柔軟性保持
– 割れ・剥離防止
– 印刷時の流動性・転写性向上

可塑剤の量が多すぎると、インクの乾燥後も柔らかさや粘着性が残りやすくなり、「ベタツキ」のダイレクトな原因となります。
このため、用途や基材に合わせて可塑剤の「種類」と「配合量」の見極めが極めて重要となります。
最近は環境配慮型(フタル酸エステル代替、植物由来など)への切り替えもトレンドです。

硬化剤の役割と種類

硬化剤は、インクや塗膜の分子同士を結びつけ、強度・耐久性を向上させるために用います。
典型的にはエポキシ系、イソシアネート系、UV硬化型などがあり、化学結合によってインクを固体化させます。

硬化剤が少なすぎるとインクが十分に反応・硬化せず、逆に多すぎてもヒビ割れや脆弱化、接着強度低下を招くため、「適正配合のバランス」が鍵となります。

配合比率のベストプラクティスと現場改善の勘所

配合比率設計の基本方針

一般的な配合のアプローチとしては、
– 可塑剤:インク樹脂の10~30%程度(設計値に幅がある)
– 硬化剤:主剤(樹脂分)に対して5~15%程度

ですが、これはあくまで「教科書的な初期値」に過ぎません。
現場の気温・湿度、乾燥炉の性能、使用する基材の物性などによって、最適値は大きく変わります。

大手メーカーでも、テストピースやサンプルワークを使い、微調整(トライアル)が繰り返されています。
現場目線として言えるのは、
– 事前に「1%単位」で配合比率を振ったサンプルを複数作り、確実に物性試験を行う
– サプライヤー任せにせず、自社現場で必ず再検証する(ロット間差や温度変化の影響も)
– 経験則に頼りきらず、データベース化して“暗黙知”を“形式知”に落とす

といった点が、品質トラブル、歩留まり悪化の根本防止策となります。

現場で起きやすい“バイアス”とその打破法

昭和的な「この配合でうちはやってきた」の考えのままだと、スペックが変わった途端に機能不全化します。
– 原材料の仕様変更(サプライヤー都合や、法規制対応による成分置換)
– 生産ラインの微妙な設定バラツキ(火力炉が老朽化、温度分布ムラ)
– 顧客先での加工条件のさらなる高度化(押し出し時の“べたツキ”が即NG)

こうした課題解決には、
– 配合・温度・乾燥時間・湿度などの試験データを徹底的に“数字”で見える化
– 材料メーカー・現場オペレーター・品質管理担当とのコミュニケーションを円滑化
– IoTや簡易センサー(表面温度・湿度・VOC濃度など)の導入で変化点管理を強化

といった、“アナログ現場”と“デジタルデータ”の融合が今後の発展に不可欠です。

配合改善によるコスト・品質・納期のトータル最適化

可塑剤や硬化剤の配合見直しは、「品質改善」だけでなく、実はコストや納期管理にも直結します。
なぜなら、
– 適正な配合により“やり直し”や“廃棄ロス”を減らせる
– 乾燥待ちや検査工程のボトルネックが解消される
– 材料ロスの最小化(有害物質規制対応も含め)

が実現できるためです。
特に調達購買担当者は、「安い材料」「汎用材料」だけでなく、本当に現場で機能を発揮する材料選定がカギです。

逆に「目先のコストダウン」を追求しすぎて、
– 格安可塑剤への切り替えでベタツキが悪化
– サプライヤー切り替えで硬化剤の仕様が合わず、生産に支障

といったトラブルも多発しています。
現場と調達、さらに品質保障部門も交えた「バリューチェーン全体最適化」が重要です。

サプライヤーとバイヤーの情報格差をなくす

バイヤー(購買担当)はしばしば「現場の要求やクレームの本質」を深く理解しないまま、材料サプライヤーと商談を進めがちです。
これはサプライヤー側も同様で、「なぜそのスペック・試験基準が必要なのか」が腹落ちしないまま納品だけを優先する風土が根強いです。

本当に強い競争力を持つ工場・企業は、
– 「現場の困りごと(ベタツキや不具合)」をサプライヤーにも開示し、共同で技術解決
– 材料スペックの“Why”まで掘り下げ、川上~川下の壁を崩す
– 客先の加工現場まで直接訪問し、“リアルな使われ方”を体感

といった「水平連携&共創」の姿勢が特長です。
これは昭和的な縦割り構造・情報隠ぺい主義を打ち破る知恵であり、今後ますます不可欠になっています。

まとめ:未来の製造業は可塑剤と硬化剤の「最適解」探しから始まる

インク乾燥後のベタツキを防ぐための、可塑剤と硬化剤の最適配合比率。
これは単なる「科学計算」でも、「現場のカン」だけでも答えが出るものではありません。
材料科学、現場マネジメント、調達・バイヤーの目利き能力、そして“川上~川下の連携体制”が一体となって初めて、本当にトラブル知らずの製造現場が実現します。

昭和の知見を大切にしながら、最新のデータと連携手法でもアップデートする。
それが、現場リーダー・バイヤー・サプライヤー、すべてのステークホルダーにとって、製造業発展のための“新たな地平線”です。

現場の知恵と科学を融合させた先に、真の高品質とコスト競争力あるものづくりが待っています。
今の現場で一歩を踏み出す勇気が、製造業の明日をつくるのです。

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