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エンボス加工Tシャツ印刷で凹凸を活かすための版高さとスキージ硬度調整

目次
エンボス加工Tシャツ印刷の現場事情と課題
エンボス加工Tシャツは、立体感のある凹凸模様が特徴で、視覚的にも触覚的にもインパクトがあります。近年では、ファッション性だけでなく、付加価値商品としての需要が高まっています。特にノベルティや企業ユニフォーム、特殊デザインTシャツの分野で注目度は急上昇しています。しかし、エンボス加工を活かしたTシャツ印刷は、従来のフラットなシルクスクリーン印刷とは異なる難しさとノウハウが必要です。
私自身、長年工場現場に立ち会い、多くの職人やバイヤー、サプライヤーと議論を交わしてきました。エンボス加工Tシャツ印刷に取り組む際、多くの方が「版(スクリーン)高さ」や「スキージ(スキージー)硬度」の調整でつまずいている現実を何度も見てきました。この記事では、現場で蓄積された知見や、昭和のアナログ業界文化が今も色濃く残る製造業ならではの観点をふまえ、エンボス加工Tシャツの凹凸を最大限活かすための秘訣をお伝えします。
エンボス加工Tシャツの仕組みと印刷の要点
エンボス加工とは
エンボス加工とは、熱や圧力を用いて布地を部分的に膨らませる、もしくはへこませることで、立体的な模様や柄を表現する技法です。生地自体に凹凸ができるため、通常の平坦なスクリーン印刷とは異なり、印刷面が均一でなくなります。この凹凸がデザイン上の大きな魅力となる反面、製造工程の難易度を大幅に引き上げます。
スクリーン印刷が難しい理由
通常のTシャツ印刷は、フラットな生地に版を密着させてインクを転写します。しかし、エンボス加工生地では、凹凸部分に均一にインクが乗りにくく、インク溜まりやカスレ、柄の歪みが起こりやすくなります。そのため、印刷現場では「版高さ」と「スキージ硬度」の調整が非常に重要なカギとなります。
版高さ(スクリーンと生地の距離)の最適化
版高さ調整の基本原則
エンボスTシャツの印刷で最初に取り組むべきは「版高さ」の見直しです。通常はスクリーン(版)を生地表面にピタリと接触させて印刷しますが、凹凸があるエンボス生地では、すべてのエリアで密着させることが不可能です。
そこで、版と生地の「クリアランス(距離)」をあえて設けて、スクリーンを浮かせて印刷するのが一般的です。このクリアランスを適切に設定することで、凹部分も含めインクが立体的に行き渡りやすくなります。しかし、クリアランスが大き過ぎると、柄のズレやにじみが発生しやすく、逆に小さすぎれば凹部にインクが届きません。
現場での実践的な版高さ設定
私が監督した現場でのノウハウでは、まず生地の一番高い凸部分と、一番低い凹部分を実測します。そして、その高低差の「中央値」から2mm~3mm程度高くスクリーンを設定するのが安全ラインです。具体的には、生地の厚みやエンボスの深さによって微調整が必要なので、何度もテストプリントを行いながら最適解を探します。
この作業のポイントは、テスト時に「インクの転写具合」だけでなく「版の戻り」にも注目することです。版が生地やインクに引っ張られ過ぎて、元の位置に戻りにくい場合は、クリアランスが不適切な可能性が高いです。
スキージ硬度調整の重要性
スキージ硬度とは
スキージ(スキージー)は、版に対してインクを押し通すためのヘラのような道具です。一般的にはゴムやウレタンでできており、「硬度(ショア硬度)」で硬さが規格化されています。硬度が高いほど固く、低いほど柔らかくなります。
エンボス加工向けの硬度選定
エンボス生地の場合は、表面の凹凸にインクを均一に行き渡らせるため、一般的なTシャツ印刷(硬度70~80程度)より、やや柔らかい硬度60前後が適しています。理由は、柔らかいスキージの方が生地の形状に合わせて「しなる」からです。しなりが大きいほど、凹部分にもインクを押し込めるので、立体感そのままにプリント乗りを良くできます。
一方、硬すぎるスキージだと、凸部分以外にはインクがほとんど転写されず、かすれや柄の不鮮明が多発します。逆に柔らかすぎてもインクの盛りが厚くなりすぎたり、不均一になるので、必ず現物で複数種のスキージ硬度を試すことが推奨されます。
スキージ角度・圧力にも気配りを
硬度に加えて、スキージの「角度」と「圧力」は職人技の領域です。エンボス生地の場合、スキージ角度は40~50度のやや寝かし気味にすることで、柔らかいスキージのしなりを活かしつつ、凹凸の谷間にもインクを流し込めます。一方で、圧力をかけすぎると生地の変形や版のたわみが起こるため、微妙な手加減が重要です。
エンボス加工とスクリーン印刷の両立が生み出す付加価値
差別化のためのノウハウ蓄積
エンボス加工Tシャツは、単なる印刷Tシャツと比較しても、その存在感や高級感で群を抜きます。特に近年の消費者は、SNS映えやオリジナリティ、手触りのユニークさを重視する傾向が強まっています。エンボス×プリントの技術を磨くことで、単価アップや他社との差別化につながるのは間違いありません。
現場的な工夫としては、プリントカラーやインクの厚み、グリッターや発泡インクとの併用など、多様な手法を組み合わせることで、より高付加価値な商品提案も実現可能です。
昭和アナログ文化×現代のハイブリッド
顧客のなかには、昭和時代の「当たり前」を求める保守的なオーダー担当者やバイヤーもいます。彼らが重視するのは「安定した品質」と「低いロス率」です。しかし、エンボスTシャツのようなハイテク・ハイブリッド商品では、工場や現場の技術者がアナログ的な知恵と、最新マシンやインクの特性理解の両軸で対応する必要があります。
私が重視してきたのは、ノウハウの「型」を職人個人に閉じ込めるのではなく、チームやライン全体で共有し、標準作業手順書(SOP)や教育プログラムに落とし込むことです。そうすることで、新人でも短期間で高難度なエンボス印刷技術を習得でき、現場の技能継承や安定生産に直結します。
バイヤー・サプライヤーの立場から見るエンボスTシャツ印刷
バイヤーが重視する視点
買い手側であるバイヤーの皆さんは、エンボスTシャツのような特殊加工品を発注する際、「品質の安定性」「納期遵守」「追加発注時の再現性」「コストパフォーマンス」など多岐にわたる要素を精査しています。また、得意先やエンドユーザーの使い心地やSNSでの拡散効果も意識します。
現場の印刷条件や微調整の難しさ、材料ロット差による仕上がりの違いなど、製造側の苦労や裏事情をきちんと理解してもらうことが、両者の信頼構築には不可欠です。たとえば、見積もり時点で「エンボス生地は通常Tシャツと同じ印刷条件では再現できません。版高さの再調整やスキージ選定の工程増が必要です」と説明できる現場側サプライヤーはバイヤーから高く評価されます。
サプライヤー視点の改善提案
Tシャツメーカーや加工業者としては、単なる受託生産に留まらず、「版高さ調整」「スキージ硬度提案」「試作立ち会い」など、独自バリューを付加することで、他社との価格勝負から抜け出すことが可能です。営業・技術担当者が協力し、試作用サンプルや印刷工程写真、条件データを納品・提案資料に添付できる体制を整えておけば、顧客評価は格段にアップします。
現場力を磨きエンボス印刷の新地平へ
継承すべき現場知恵とは
私の持論ですが、印刷や加工の現場ほど「言葉にならないコツ」が内在する世界は他にありません。たとえば、「今日は湿度が高いから、インク粘度を少し緩めよう」「このエンボス柄は谷が深いから、スキージ角を5度だけ寝かせよう」など、一見ささいな改善が品質を数段引き上げます。こうした職人知見を文書化・可視化して、誰もが活躍できる環境を作ることこそ、昭和から続くモノづくり現場の真髄です。
デジタル時代の新しい現場力
近年はIoTやAI、遠隔監視カメラ、デジタルインクなど、新しいテクノロジーが現場に浸透しつつあります。しかし基礎となるのは、やはり「人の感覚と経験値」です。今後も版高さ設定やスキージ硬度の最適化など、アナログ技術とデジタルデータの両輪で、エンボスTシャツ印刷の新地平を切り拓いていくべきと考えます。
まとめ:エンボスTシャツ印刷の真価を引き出すために
エンボス加工Tシャツ印刷は、現場の知恵と職人の腕、そして失敗を恐れず何度も試行錯誤できるチーム力が不可欠です。版高さとスキージ硬度の調整は、ほんの1ミリ、ほんの数ショアの違いが製品品質を大きく左右します。伝統的な職人技と最新技術を融合させ、現場力を磨き続けること。それが、業界の革新と日本製造業の再躍進に直結すると私は信じています。
今後、エンボス加工Tシャツに挑戦したい方、発注側バイヤー、そして現場の技能者・サプライヤーの皆さん。本記事が新しい発見と現場改善のきっかけとなれば幸いです。
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