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ラグランTシャツ印刷で袖継ぎ目へのズレを抑えるための版位置とストローク設計

目次
はじめに:ラグランTシャツの印刷現場が直面する課題
ラグランTシャツは、動きやすさやファッション性の高さから多くのアパレルメーカーやスポーツウェアブランドで採用されています。
その一方で、「袖の継ぎ目」で起こる印刷ズレに長年悩まされてきた現場担当者も多いはずです。
袖継ぎ目をまたいでロゴやパターンをキレイに表現するには、高度な版位置調整とストローク設計が不可欠です。
特に昭和的なアナログ印刷設備を使い続けている工場では、デジタル化が進む中で「昔ながらの職人技」に頼りがちで、合理的な方法論やノウハウ共有が進みにくい傾向があります。
本記事では、ラグランTシャツの袖継ぎ目でのズレを抑える具体策を、現場経験の視点と業界動向、さらにはサプライヤー・バイヤー両方の関心を踏まえて考察します。
ラグランTシャツ特有の縫製構造と印刷時の難所
ラグランTシャツの縫製パターンとズレの発生要因
一般的なTシャツに比べて、ラグランTシャツは肩から脇にかけて「斜め」に袖が縫い付けられています。
この縫い線が多くの印刷現場にとって大きな壁となります。
縫い代の厚みやカーブ、アームホール周辺の微妙な歪みなどが、印刷時の生地の引っ張り具合に大きく影響し、結果的に思い通りの位置にインクが乗らない原因となっています。
また、生地自体の伸縮性や、インクの浸透具合、版枠のテンションのかかり方など、要因は多岐に渡ります。
その中でも、現場で即改善できるポイントが「版位置の設定」と「ストローク(スキージーの動作)設計」です。
アナログから脱却できない現場の実態
IT化や自動化が進む中でも、Tシャツ印刷の現場では「職人の勘」や「長年の経験則」に頼った手法が根強く残っています。
なぜ昭和的な感覚が払拭されにくいのかというと、熟練工が現場を仕切り、細かな調整や工夫が可視化・標準化されていない現場文化が背景にあります。
このためノウハウが属人化し、新人や外注業者、サプライヤーが入りにくい閉鎖的な雰囲気が漂いがちです。
その状態で品質・コスト・納期(いわゆるQCD)の要求が年々厳しくなる一方です。
サプライヤーの立場では「どうして袖ズレが起こるのか」「なぜ今の版位置がベストなのか」といった根拠まで把握するのは難しいです。
バイヤー側も現場の実情を理解できていないことが往々にしてあります。
理にかなった版位置設定のアプローチ
袖継ぎ目を意識した版下データの最適化
まず重要なのは「どの位置で最もズレが起こりやすいのか」を正しく認識することです。
ラグランTシャツでは、脇下〜肩先の斜めの継ぎ目付近に「インクの段差」や「図柄のカスレ」などが多発します。
そこで対策としては、はじめに版下(デザインデータ)を作成する際に、袖の継ぎ目の正確な位置を型紙からマッピングし、図柄の「分割」や「段差逃し」などの調整を意図的に行っておきます。
例えば、継ぎ目をまたぐデザインなら、版のデータ自体を0.5~1mm単位で「つけ足す」領域を設けたり、線を二重にして余裕を持たせたり、「敢えてズレても目立たない」グラデーションやドット、ぼかしパターンを活用するアイディアも有効です。
現場での見える化とマークアップ
印刷現場でよくある失敗は、「現物のTシャツ」と「版下データ」のマッチングが甘く、現場担当者の“肌感”に完全に頼っていることです。
そこでお勧めしたいのが、各生産ロットのTシャツごとに袖継ぎ目の位置を実寸で測定・記録し、実際の版のプレートや生地の治具に「ガイドライン」や「見える化マーク」をつけることです。
たとえば、治具上に袖継ぎ目の延長線や、ボディ中央・肩先・脇下などの基準点をマークしておくことで、オペレーターがロットごとの違いを感覚でなく理論値で合わせ込むことができます。
また、作業手順書や写真マニュアルに「この継ぎ目位置と版のこの線がピッタリ合うこと」と明記しておくだけでも、担当者間の勘違いや再教育の手間を大幅に減らせます。
ストローク設計で袖ズレを制御する
スキージー圧と角度のコントロール
版位置の最適化に加え、実際の印刷プロセスで肝になるのが「スキージー(ゴムベラ)」のコントロールです。
継ぎ目部分は生地が二重・三重になることが多く、通常の平坦なTシャツに比べて圧力がうまくかかりません。
またスキージーの角度や、跨ぐスピードによってもインクの定着が大きく変化します。
現場経験上、継ぎ目だけ圧をやや強めにして「手戻り」ならぬ“引き戻し”を加えることでインクのヌケやカスレを穏やかにできます。
ストロークの始点・終点を袖のラインごとに微妙に変えてみる、進行方向と逆方向からダブルストロークを試すなど、数々の失敗から得た工夫をフィードバックできる仕組みが重要です。
自動化時代の新しい発想:IoT活用と再現性の追求
最近では印刷工程のIoT化が進みつつあり、スキージーの圧や速度、角度の情報を「実データ」として記録・分析できる設備も増えています。
こうした計測値を版位置情報と紐づけて蓄積していけば、職人の勘に頼らずに「この条件ならこの品質が出せる」といった再現性のある標準工程の構築が進みやすくなります。
たとえば、実験的に何十枚も条件を変えてテスト出力し、それぞれのズレ具合・カスレ具合・インクの乗りといったばらつきを詳細に記録しておけば、客先(=バイヤー)から「なぜこの仕上がりになるのか」というQAにも合理的な根拠で説明可能になります。
現場とサプライチェーン全体の目線をリンクする
「サプライヤー vs バイヤー」型の壁を乗り越える
印刷品質の安定化と効率化には、サプライヤーとバイヤー双方の密なコミュニケーションが不可欠です。
よくある失敗は、「バイヤーの要求(見栄え重視)」と「現場の制約(量産性・コスト・歩留まり)」が乖離したまま、現場オペレーターの“頑張り”だけに期待が寄せられることです。
バイヤー側は「この継ぎ目でどうしてもズレを目立たせたくない」というニーズを、単にアウトプットを要求するだけでなく、「どの工程でどういう条件が課題になるのか」まで深く理解し、現場との対話を重ねてほしい。
一方で、サプライヤーも「現状はこれが限界だ」と突っぱねずに、「こういう工夫をすればここまではできそう」「この仕様ならズレやカスレのリスクが最小限」といった具体例や実験データを伝える努力が求められます。
アナログからDXへ:「属人技術」から「仕組み」へ
日本の製造業は、長年にわたって「現場力」や「匠の技」への信頼感で支えられてきました。
しかしグローバル化・自動化競争が加速する現代では、知見の“可視化”と“標準化”がますます重要になっています。
ラグランTシャツ印刷のような、ややニッチでクセの強い工程こそ、「良いノウハウ」を現場で共有し、工程設計や治具、教育体制、図面管理といったしくみに落とし込む努力が新たな競争力の源になります。
まとめ:現場感覚と論理の両立が未来を切り拓く
ラグランTシャツの袖継ぎ目へのズレを抑えるには、現場の経験則と理論的な工程改善を両立させることが不可欠です。
版下の編集から、治具の見える化、ストローク条件の細かな最適化、さらにIoT時代の可視化・データ管理に至るまで、多角的に考え抜くことで初めて「ズレの起きにくい」高品質な大量生産が可能になります。
また、サプライヤーとバイヤー、あるいは生産現場と上流設計・営業チームといった多様なプレーヤーが「工程の深い部分」まで対話し、その知見を積極的に可視化し共有していくことが、日本全体のものづくりレベル向上につながります。
今も残る“昭和的な現場力”の良さは生かしつつ、現場の知恵を新しい仕組みやデジタル化へ進化させていく——そんなアプローチこそ、これからの製造業の発展にとって決定的に重要な方策です。
ラグランTシャツ印刷の現場で働く方、バイヤーを志す方、そしてサプライヤーの立場で課題解決を目指す方。
それぞれの役割で「現場と論理」をつなぎ、高品質・高効率なものづくりを実現していきましょう。
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