投稿日:2025年11月13日

陶器ボウルの内面印刷で滑り防止するための版構造設計

陶器ボウルの内面印刷と滑り防止:現場で求められる新たなアプローチ

陶器ボウルの内面に印刷を施し、滑り防止の効果を持たせる――。このアイデアは、見た目と機能性の融合という点で、今や多くの食器メーカーやOEM工場で注目されています。

一方で、製造現場では「へたな印刷をするくらいなら素焼きやグレーズの質感でいいのでは」といった昭和的な発想が根強く、現実には滑り「止め」よりも滑り「にくくする」ための地道な工夫に留まっているケースが大半です。

今回は、20年以上の調達・生産管理・品質管理の経験をふまえ、陶器ボウルの内面印刷を「滑り防止」という視点で如何に設計・量産・管理していくかを実践的・現場目線で解説します。

なぜ今、陶器ボウルの内面印刷で滑り防止が必要なのか

現場での課題:滑りやすさによる事故と顧客満足

陶器ボウルの底面や内面は、釉薬(グレーズ)の性質や焼成プロセスの都合上、サラサラ・つるつるになりがちです。

これが高級感や清潔感といった商品価値を生む一方、
・「お子様やご高齢の方が使うと滑って中身がこぼれやすい」
・「ラーメンやパスタなど麺類をすくい上げる時に困る」
といったクレームや店舗からのフィードバックも生んでいます。

また、国内外のEC販売拡大に伴う「リアルで触れない消費者」の増大もあって、「見た目+機能性」をアピールできる差別化技術として、内面印刷への期待が高まっています。

業界動向:アナログの壁とデジタル化の波

とはいえ、陶器業界は伝統と手仕事を重んじる企業も多く、社内の企画部や現場サイドから「柄物プリントは余計なコスト」「滑り防止なら外面加工で十分」と否定的な声もあります。

一方で、
・インクジェット印刷や3Dプリントなどの新技術
・バイヤーの提案力向上を期待する取引先
このような外的要因により、今後はますます“内面の意匠機能化”が増えることは間違いありません。

滑り防止効果を高める印刷版構造設計の基本原則

陶器素材・釉薬とインクの相性

陶器内部の印刷は、単に「インクで模様を付ける」だけではありません。

・素地:磁器・半磁器・炻器・陶器など素材による水分吸収度・強度の差
・釉薬:ツヤ釉かマット釉か、透明釉か有色釉か
・インク:インクジェット用、転写紙用、焼付け用、UVインク等

これら素材特性×インク仕様を的確に選び分けることが、剥がれ・滲み・発色不良・食品安全といった品質トラブルの根本的対策となります。

効果的なパターン設計:触覚と摩擦抵抗を生む

滑り防止の観点では「インクを厚く盛る」だけでなく、「凸凹のある印刷パターンによって摩擦を生む」設計が重要です。

・ドット(点)状、格子状、ウェーブ状などの連続パターン
・逆に大胆な大柄のラインやブランドロゴの立体印刷
・透明釉薬を使った部分厚盛り、サンドブラストとの併用

デザイン選定時は、見た目の美しさだけでなく「指先で触る」→「摩擦抵抗が明確に出やすい」→「生地・インク厚みの管理がしやすい」パターンを優先すると現場での歩留まりも高くなります。

印刷方式の選定:量産性とコストバランス

陶器内面への印刷は大きく分けて以下の方法があります。

・パッド印刷(タンポ印刷):コスト低め、対応形状幅広いが厚盛りは難しい
・スクリーン印刷(シルク):パターンの際立ちや厚盛りには有利だが形状制約あり
・転写紙(焼付け):色柄自由、立体にもなじみやすいがパターン次第では摩擦効果が低い
・インクジェット:フルカラーならではの訴求が可能、設備投資と材料費は高め

滑り止めとして最大効果を狙うなら、スクリーン印刷の多層重ねや、一部だけ厚盛りして柄+実用性を持たせる転写紙との併用など、複数手法の組み合わせも検討すべきです。

実践事例と現場でのトラブル防止策

厚盛りインクによる摩擦パターン事例

あるOEM工場の例です。

定番の無地ボウル内面に、格子状の厚盛りパターンをパッド印刷で追加。
標準製品よりも指の掛かりが明確に感じられ、「麺類やサラダを食べる際にボウルが滑りにくい」と評価されました。

この時、重要なのは「インクの厚み均一化」と「食器洗浄機対応テスト」の徹底です。
厚盛りしすぎると段差が目立ち、かつ洗浄中に剥がれやすくなるため、版設計時に盛り付け高さのバラつきを限界値以下に押さえる調整が不可欠です。

焼付けインクの安全性・耐久性評価

転写紙焼付けの場合、インクの食品安全性(カドミウムや鉛の溶出)チェックが国際取引の条件になることも増えています。
印刷版設計では、食物に直接接触する部分か否かを事前にバイヤーと協議し、パターン位置を調整することが現場でのリスク予防に直結します。

合わせて、食器洗い乾燥機テスト・高温水浸漬・アルカリ性洗剤対応試験を厳格に実施し、剥げ・色落ち・変形を第三者認証で担保することも輸出系OEMにおいては要件化が進んでいます。

調達・購買現場での課題とサプライヤーへの求められる提案力

昭和的アナログ現場から価値提案型調達への転換

旧来型の調達部門では「安くて早い標準品」を指向しがちですが、昨今は
・「滑り防止×デザイン性」でターゲットユーザーの拡大
・海外バイヤーからの独自仕様オーダー
・EC向け食品ブランドとの共同開発
といった要望に応えることが競争優位となっています。

この時、サプライヤーは「言われただけ作る」昭和的発想から、
・インクや版の選定根拠
・歩留まりやロス率のデータ
・市場・ユーザーの声を反映した独自提案
こうした川上・川下両方に立った価値提案をセットで行うと評価・受注率が格段に高まります。

バイヤーの求める真の付加価値とは

単に「滑り止め印刷できます」ではなく、
・「子どもでも扱いやすい滑りにくさ」
・「洗浄・耐久性・安全性も担保された耐久印刷」
・「食卓が華やぐ新デザインでブランディング」
「どんな顧客に、どんなシーンで提供価値を生むか」
まで踏み込んだ提案を望むバイヤーが増加しています。

現場経験にもとづき、テストサンプルの提供や小ロット多品種対応など、受け身のものづくりから能動的なものづくりに変革する発想が、今後の受注拡大・高付加価値化に直結します。

今後の展望:原点回帰とデジタル融合の両立

陶器業界は、アナログ伝統とデジタル技術を活かす二刀流で初めて世界市場に通用します。

「見た目を変えて高く売る」ための意匠印刷と、
「機能性を加えて選ばれる」ための滑り防止型版設計――。
どちらも欠けては真の競争力にはなりません。

昭和から令和へと続く製造現場目線で、
・素材、インク、版、工程、品質の全部を管理する
・顧客に即した価値訴求を提案主導で実現する
・伝統的なアナログ技術と最新デジタル技術を融合した新たな地平線を切り拓く
これが、現場人材・バイヤー・サプライヤー全ての未来を創るためのキーワードです。

今、陶器ボウルの内面印刷で滑り防止するための版構造設計は、単なる技術課題ではなく「製造業の現場が次世代に進化するためのシンボル」ともいえるテーマなのです。

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