投稿日:2025年7月5日

電磁加振力低減で静音化するPMモータ振動騒音対策

はじめに:PMモータの振動・騒音が製造現場にもたらす課題

近年、工場の自動化や省エネルギー化の流れにより、永久磁石型同期モータ(PMモータ)の導入が急速に進んでいます。
しかし、PMモータは従来型モータと比べて高効率・高出力という利点がある反面、電磁加振力由来の振動や騒音が問題となりやすい特徴を持ちます。

こうした振動・騒音は、単なる作業環境の快適性低下のみならず、工程の品質安定・製品精度、ひいては保全コストや労働生産性にも大きな影響を及ぼします。
とくに日本の製造業では、昭和時代から培われてきた“現場主義”の価値観ゆえに、「うるさい」機械や「ぶれる」設備へのアレルギーも根強く、現場からのクレームも頻発します。

本記事では、現場目線でPMモータの振動騒音対策の核心である「電磁加振力低減」に焦点を当て、業界の動向や最新技術、実際の導入ノウハウまでを解説します。
特にバイヤー・サプライヤーの立場や、これから調達生産管理に関わる方にも有用な視点を盛り込んでいます。

現場で直面するPMモータの振動・騒音の「正体」

なぜPMモータ特有の問題が起こるのか

PMモータの軸受部やフレームから伝わる意外に大きな振動や、「ジー」「ブーン」といった甲高い異音。
これらの多くは、「電磁加振力」という物理現象が原因です。
PMモータでは、ロータ内に永磁石を組み込むことにより強烈な磁場が生じ、この磁場の変動が定子コアやケーシングに構造的な加振力(振動源)を与えます。

コアやハウジングへ周期的・高速で作用するため、特定の回転数(いわゆる共振ポイント)では一気に振動・騒音が顕著になることも珍しくありません。

製造現場でのリアルな悪影響

1. 測定機へのノイズ混入・設備誤動作
2. 品質トレーサビリティの障害
3. 周辺オペレーターの疲労・ストレス
4. ボルトや配線の緩み・消耗部品の寿命短縮
5. 法的な労働安全基準への抵触リスク

特に最近は熟練者の減少や働き方改革により、「静音化」すなわち現場の心理的負荷軽減・多様な人材が安心して働ける環境づくりがブランド価値や採用力へ直結しつつもあります。

昭和型現場・レガシーラインにも最適な振動騒音対策の勘所

現場はなぜ“アナログ対策”から抜け出せないのか

実装ラインや加工工程の保全担当者は、どうしても「グリスアップ」「消音パッド」「フレームの増し締め」「外付け防振ゴム」「吸音材」などアナログ的な手軽な現場対策に頼りがちです。
なぜなら投資予算が限られており、また生産を止めたくないという思いが現場を支配しているためです。

また、日本の伝統的現場文化(カイゼン・早出し)では「何とかなる」「継続監視すれば大事に至らない」という思考も根強く、自動車部品メーカーや中小サプライヤーでは最新理論の導入が遅れる傾向が目立ちます。

本質問題は「電磁加振力」―物理的根源から攻略する発想を

しかし上記のアナログ対策のみでは、一通り対策しても決定打に欠けてしまい、根本解決には至りません。
今求められるのは、「電磁加振力そのもの」を制御・低減し、そもそも振動エネルギーを発生させない or 発生しても共振しにくい構造とする“ラテラル(横断的)な根本改善”です。
近年のNV(Noise & Vibration)制御技術、診断・シミュレーション技術の進化により、既存工場・レガシー設備でも効果的に静音化を実現するノウハウが蓄積されつつあります。

電磁加振力の低減・静音化の具体的ソリューション

1. モータ本体設計改善―スロット数・ラメラ設計・偏心モード最適化

根源的な静音化は、
・ステータスロット数と極数の最適化(副次的振動の抑制)
・ラメラ・コア設計の薄肉化・スキュー(回転方向斜め配置)
・高精度ロータバランス・ロータ放熱構造の剛性強化
といった機械設計段階での電磁場・構造解析に基づくアプローチが極めて有効です。

特にモータメーカー・設計開発部門と深く連携した仕様選定や、事前サンプルによる実機検証をバイヤー・サプライヤーレベルで進めることが、部品単体での最適化ではなく、設備全体での振動トラブル回避に直結します。

2. PWM駆動波形制御・インバータ最適化

PMモータではインバータ制御(PWM)が主流のため、制御アルゴリズムや波形パターン見直しも大きなカギとなります。
たとえば、
・搬送部モータの軸振動を監視しつつ、最適なキャリア周波数に動的調整
・トルクリップル監視機能搭載インバータを使い、過渡振動時のモード吸収制御を導入
・“ソフトスタート”活用による始動時ピーク音エネルギーの低減
など、現場エンジニア・製造部とIT/制御担当との垣根を越えた連携がますます重要となります。

3. 構造共振対策・フレームモディファイ

設備設計・設置の現場では、モータ固定脚部やフレーム周辺の構造共振を回避すべく、
・フレームや架台材質の最適配置(樹脂複合体・制振金属採用)
・共振周波数帯からの“ずらし”設計(CAD/CAEによる仮想ドライブ段階からのシミュレーション)
・モジュラー取付台による簡易脱着メンテナンス化
も現場に根付いてきています。
この“システム全体視点”は、とくにライン一体最適を志向する日系製造業で今後さらに広まりそうです。

業界動向:サプライヤーとバイヤーは「静音化」をどう進めるか

調達・購買部門目線での提案依頼とベンチマーク化

現代では単なる仕様書記載やカタログ性能だけでなく、
「dB(騒音値)」や「加速度ピックアップ値」「現場ヒアリング結果」など、現場実測に基づく数値データや定量評価の提示をサプライヤーへ強く求める姿勢が重要です。
年間数百台のモータ発注を控える大手ラインメーカーやセットメーカーでは、複数社提案の「静音化ベンチマーク試験」「デモンストレーション」といった、根拠に裏打ちされた調達選定が加速しています。

サプライヤーは「なぜ静音化が重要視されるのか」を理解しよう

この背景には働き方改革・多様な人材活用・ブランド価値向上など、製品そのものの性能以外が購買判断に占める割合が高まっているトレンドがあります。
たとえば、
・子育て世代や女性作業者にも「働きやすい」現場環境
・法的規制(低周波騒音規制・新たな研究開発助成条件)の順守
・デジタルツイン・スマートファクトリー導入時の設備間ノイズ対策
など、顧客の製造ライン全体、将来的なトータルコスト削減までを視野に入れた提案が不可欠になります。

静音化で新たな競争力を手にする製造業の未来

PMモータの振動・騒音低減は、単なる現場トラブル対応策ではありません。
“うるさくない機械” “ぶれない工程” “ストレスフリーな現場”は、現代の製造業のQCD(品質・コスト・納期)やブランディングの新指標となり、海外工場との競争、熟練者減少下の人材定着率向上、さらには新製品開発における差別化にも直結します。

今こそ、
・モータ選定時の仕様最適化とサプライヤーとの技術連携強化
・デジタル技術(IoT、AI分析、CAEシミュレーション)との融合
・現場の“小さな声”を活かすPDCA型カイゼンスパイラル
を継続的に回していくことこそ、アナログ業界から一歩抜け出した「新時代のものづくり現場」への第一歩といえるでしょう。

まとめ:現場と経営、調達の枠を超えた「静音化」の価値

PMモータの電磁加振力低減による静音化は、一人ひとりの現場オペレーターの作業性向上から、ライン全体の品質・信頼性アップ、ブランド競争力まで多面的な価値をもたらします。
いまや調達・購買側が積極的に「静音性」という新たな基準でサプライヤーをリードし、現場目線・経営目線での全社的な静音化カイゼンが不可欠な時代です。

昭和型のアナログ工程もデジタル時代のスマートファクトリーも、静岡もタイもドイツも。
製造現場で生きるすべての方々が「静音化」の本質を理解し、横断的かつ革新的な取り組みにチャレンジすることこそが、日本のものづくりの未来を切り拓いていくでしょう。

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