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AWS D1.6ステンレス溶接で注意すべき点

目次
AWS D1.6ステンレス溶接で注意すべき点
はじめに:製造業現場の溶接品質への要求の高まり
製造業の現場では、高品質なステンレス溶接が求められる場面が年々増加しています。
とくに食品機械、医療装置、建築構造物、エネルギー機器など多くの分野で、ステンレス溶接の品質は製品の信頼性や安全性に直結します。
溶接品質を国際的な共通基準で管理するため、米国溶接学会(AWS:American Welding Society)による溶接規格が用いられています。
その中でも、AWS D1.6はステンレス鋼構造物の溶接に特化した規格として世界的に信頼されています。
ですが、多くの日本の工場現場では、昭和時代からのアナログな慣習、職人技への依存、標準化やデジタル化への遅れが根強く残っています。
この記事では、AWS D1.6の基本を押さえつつ、現場目線で「失敗しやすいポイント」や「業界の抜け出せないアナログ文化」との折り合い方まで踏み込みます。
AWS D1.6の概要と現場への影響
AWS D1.6とは?
AWS D1.6は、「Structural Welding Code—Stainless Steel」と呼ばれる、ステンレス材料の溶接構造に特化した規格です。
炭素鋼向けであるD1.1を参考にしつつも、ステンレス特有の性質──例えば高温での脆化や溶接割れへの配慮、腐食特性など──を重視して制定されています。
この規格に適合することで、グローバルな部品供給・製品輸出でも競争力が高まります。
昭和から受け継がれる現場文化
日本の多くの工場現場では、「熟練溶接士の勘」や「現場ルール」と呼ばれる独自ルールが色濃く残っています。
設計図面と現場作業者の対話が重視され、形式ばった品質記録やトレーサビリティ管理は後回しになりがちです。
本来は溶接工程ごとに明確なWPS(溶接施工要領書)とPQR(施工試験記録)が求められますが、アナログな「やったつもり」記録で済ませてしまう現状もあります。
ステンレス溶接に固有の注意事項とAWS D1.6のポイント
1. 材料特性の理解と前処理
ステンレス鋼は金属組織中のクロム含有量、炭素量、ニッケルの量の違いにより機械的・化学的性質が大きく変わります。
例えばオーステナイト系(SUS304や316系)は、耐食性が高い反面、熱による歪みや焼けによる腐食部発生リスクが高まります。
AWS D1.6においては、材質表記や母材ごとの前処理方法(油分・酸化皮膜除去)が明示されており、
研磨・酸洗い・脱脂などの入念な前処理が義務付けられています。
2. 溶接方法と施工条件
昭和的な現場では「見た目重視」や「職人技頼み」が根強いですが、
D1.6では溶接方法(TIG/MIG/MAG/サブマージアークなど)ごとの施工条件(電流・電圧・速度・ガス流量)を明文化しています。
また、母材の厚さやジョイント形状、溶接姿勢ごとの適正条件も規格で明示されています。
WPSに準拠しなかった場合、外観はきれいでも内部欠陥や構造強度の低下を招く可能性があります。
一見問題なさそうな作業でも、後工程でクレームや事故につながるリスクが潜んでいます。
3. 溶接熱による材質劣化への配慮
ステンレスは熱履歴により粒界腐食やクリープ脆化を起こしやすいため、
過度な加熱や冷却の遅れは品質低下の大きな原因となります。
AWS D1.6ではインターパス温度の管理、段取り転換時の再加熱条件、冷却条件も厳密に定めています。
実際の現場では「次の作業までそのまま放置」といったことが頻発しますが、
正式には溶接間隔・冷却時間の制御が不可欠です。
4. 溶接欠陥の管理と検査方法
D1.6は目視検査、寸法検査、引張・曲げ検査、さらには浸透探傷・超音波探傷などの非破壊検査(NDT)についても細かく規定しています。
とくにステンレス溶接ではピット(小さな穴状欠陥)、ブローホール(気泡)、スラグ巻き込み、アンダーカット、オーバーラップなどの発生確率が高くなります。
「少しくらいいいだろう」という現場判断で許容できる範囲を超える場合があるので要注意です。
現場定着のためのラテラルシンキング的視点
自動化と職人技の融合がカギ
DXの推進やIoT導入が叫ばれる中、ステンレス溶接の自動化(溶接ロボット、リアルタイム検査装置)は導入障壁が高い分野でもあります。
職人の「手加減」や現場の空気感をいかにデジタルに展開できるか。
AWS D1.6への対応を通じて、ベテランのノウハウをWPSや工程標準書に落とし込み、
それを自動化設備や新人技能者にも再現可能な形で伝承する取り組みが求められます。
サプライヤー・バイヤーの立場から見た注意点
部品調達や外注先選定においては、サプライヤーの溶接品質が安定しなければ自社製品に大きなリスクを生むこととなります。
AWS D1.6準拠の有無はもちろん、どれほど現場で運用できているか、トレーサビリティ管理、工程変更時のエビデンス提出、定期的な資格訓練・再教育の実施状況も確認ポイントです。
また、バイヤー視点では「華美な品質記録」よりも、「シンプルかつ確実な管理」が大切です。
過剰書類主義が作業効率やコスト高騰を生むケースも多いため、「見える化」「即時共有」「標準化と現場実装の両立」を意識すべきです。
昭和的アナログ文化からの脱却のヒント
「とりあえずやってみろ」「経験で何とかする」と言われがちな現場も、
AWS D1.6というグローバルスタンダードの導入をきっかけに現場力強化が可能です。
具体的には、週単位の勉強会、失敗事例の共有、作業環境の5S活動、作業者の意識改革まで横断的に展開することが成功のカギです。
まとめ:高品質ステンレス溶接を実現するために
AWS D1.6は単なる「お役所ルール」ではなく、溶接品質を守るための実践的な指針です。
しかし、従来の職人技神話や「阿吽の呼吸」に頼り切る昭和型現場文化との融合には創意工夫が必要です。
現場目線で材料特性や熱履歴管理、検査手法を理解し、WPSや工程フローの標準化・デジタル化を推し進めましょう。
調達・購買、製造管理、品質管理いずれの立場でも、
「どこで、どの程度の基準で溶接が行われているのか」
「トラブル時に再現性・追跡性があるのか」
「教育や自動化と現場現実のバランスが取れているのか」
を常に意識していくことが、国際競争力強化と製造業全体の高度化につながります。
AWS D1.6対応をきっかけに、現場と管理・自動化・品質保証を有機的に結びつけた新しい“現場力”を創造し、
昭和的アナログ文化を乗り越えた次世代のものづくりを現場から始めていきましょう。
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