投稿日:2025年12月8日

段ボール設計の甘さが破損率を大きく左右する理由

はじめに:段ボール破損が製造業にもたらす大きな損失

製造業において、段ボールは単なる「包装材」と考えがちです。
ですが、実は段ボール設計一つで梱包品の安全性、物流効率は大きく変動します。

ロット単位やパレット単位で荷崩れが発生し、結果的に多大な損失を被った経験のある現場担当者の方も少なくないはずです。
とくに日本の製造業界は「昭和スタイル」の慣習が根強く残り、見た目やコスト重視で本質的な段ボール設計が軽視されがちです。
本記事では、現場目線から「段ボール設計の甘さがなぜ破損率につながるのか」、業界動向を交えつつ、実践的な視点でその理由と解決策を紐解いていきます。

段ボール破損率の実態と現場の課題

製造現場で起きている「当たり前」の破損事故

現場で目にする典型的な段ボール破損には次のような例があります。

・パレット積載時、荷重に耐えきれず下段が潰れる
・水濡れや湿気で段ボール自体がヘタる
・輸送時の衝撃で角が割れ、中身にもダメージ
・間仕切りや緩衝材の工夫不足で、機器の突起部が箱を貫通

こうしたトラブルは、「梱包設計の問題」として軽く見られがちですが、その裏には製品回収・再検査・再梱包という隠れたコストや、人間関係トラブル(クレーム・信頼低下)も潜んでいます。

アナログな勘と経験頼みの限界

多くの工場や現場では、「前年踏襲」や「ベテランの経験値」が設計や選定の基準となる傾向が今なお強く残っています。
たとえば「これまでもこの厚さでやってきた」「この規格でクレームは少ない」という判断基準が根付いています。
その結果、実際の輸送モードや積載パターンの変化、商品重量の微妙な変化にはフレキシブルに対応できず、破損率がじわじわと高まるリスクがあります。

段ボール設計のどこが「甘い」と危険なのか?

素材選定・厚み設定の甘さ

一見、同じように見える段ボールでも、原紙(ライナーや中芯)のグレード、厚み、フルート形状(A・B・Cなど)は多岐にわたります。
コスト削減圧力から「できるだけ薄く、安く」という流れが発生しがちですが、単に厚みを落とすだけでなく、積載重量や面圧、輸送距離に応じた選択が極めて重要です。

「JIS規格に則ってるから安全」という慢心は危険です。
実際には現場運用(段積み高さ、横持ち移動回数、照明や湿度条件)へ細かく合わせ込む必要があります。

寸法設計の最適化不足

段ボール寸法は、内容物が振れないよう「タイト」に作るのが常識、と思いがちです。
しかし「ミリ単位でガサ(遊び)」を計算しなかったことで、輸送中に中身が箱内で暴れ、破損が発生するケースも少なくありません。

また、段ボール外寸がパレットサイズやコンテナ内寸に微妙に合っていないと、積載効率の悪化や、輸送時の段ズレによる全面崩壊が起こります。

緩衝設計への無頓着

特に精密機器・部品の場合、クッション材や間仕切り設計が破損リスクを大幅に下げます。
ですが、「昔ながらの詰め物(新聞紙やエアキャップ)」で済ませてしまい、荷扱いが少し乱暴になると即アウト、という現場風景がいまだに見受けられます。

工程負荷を嫌って「最小の手間で済ませたい」という思考が、長期的な破損率向上を招いているのです。

物流現場・サプライヤー任せの危うさ

製品の最終荷姿が「外注先任せ」「段ボール業者任せ」になっているケースも、破損率上昇リスクの温床です。
そもそもサプライヤー目線では、コスト重視の中で「自社都合」「汎用設計」にしてしまうことも多いのが実態です。
本来、「どんなルートで、どのような取り扱いをされるか」「現場で何が起きているか」を設計者と現場が情報共有し、最適解を導く必要があります。

バイヤー・サプライヤー双方から見る「段ボール設計の眼」

バイヤーが知っておきたい段ボール設計のチェックポイント

1. 輸送モード・輸送距離によって荷重や振動が変化する
2. 保管温度や湿度による耐久性能の変化
3. 工場出荷時・納入現場でのハンドリング方法(荷積み・荷下ろしの実態)
4. パレットサイズ・段積み高さと箱外寸・強度の相関
5. ROHSやFSC認証など、環境配慮要素の要否

単なる見積価格や「納期」だけでなく、こうした設計全体の最適化を意識することが破損率削減とWin-Winの関係構築につながります。

サプライヤーが押さえるべき、バイヤーの本当の要求

サプライヤー側が「とにかく安く単価を下げてほしい」と言われたとしても、その根底には「安定供給・トータルでの損失(破損・クレーム)を減らしたい」というニーズがあります。

たとえば、多少の段ボールスペック上昇(厚みアップ、緩衝材追加)で初期コストは数円上がっても、破損数が減ることでトータルコストが大幅削減、というケースは多々あります。
ここをバイヤーに数値で説明し、設計変更を能動的に提案できるサプライヤーは信頼を獲得しやすいでしょう。

新たな地平線:ラテラルシンキングで破損ゼロ梱包をめざす

従来の枠組みにとらわれない発想が求められる理由

これまでの昭和的な「段ボール=コスト削減対象」という概念を一度捨て、「梱包設計も製品の一部」と考えることが今後ますます重要になります。

たとえば、

・IoTを活用し、輸送中の振動や温・湿度データをリアルタイムで取得して設計反映
・サーキュラーエコノミー発想で、段ボール資材の再利用や再設計(高強度薄肉化)
・AI画像解析で破損傾向を可視化し、包装設計を動的にアップデート

など、アナログ工程に最新技術を融合するアプローチが、これからの製造現場には必要です。

組織的な知恵の集約・現場連携もカギ

現場(作業者)しか分からないノウハウ―「この持ち方だと潰れる」「ここの隙間が弱点」―を、積極的に設計やサプライヤーへフィードバックする仕組みづくりこそ、破損ゼロ・無駄ゼロの未来を切り拓きます。

社内で部門横断型の梱包設計会議を組成し、「なぜ壊れたか」だけでなく、「どうすれば壊れないか」をラテラルシンキング(水平思考)で掘り下げる取り組みが、競争優位につながっていくでしょう。

まとめ:段ボール設計は「現場改革」の第一歩

段ボール設計の甘さがいかに現場の破損率・クレーム率に直結し、ひいては企業イメージや収益にも大きく関わるのかをご紹介してきました。

今や製品の価値は「中身だけ」でなく、「梱包や物流を含めて」評価される時代です。
段ボール設計に本質的な視点を持ち込み、社内外の知恵や技術を結集することで、「破損ゼロ梱包」を本気で目指すことができます。

現場目線の実践と、ラテラルシンキングによる新しい発想で、製造業の新たな地平線をともに切り拓いていきましょう。

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