見やすい資料を作れないコンサルが招く理解不足の問題

はじめに：現場とコンサルのすれ違い

製造業の現場では、日々多くの会議や情報共有がなされています。
その中で「見やすい資料を作れないコンサル」が理解不足や意思疎通のミスを引き起こしている場面に、私は度々遭遇してきました。

20年以上の現場経験を持つ私の視点から、なぜコンサルが理解を得られないのか、見やすい資料の大切さ、それがもたらす現場の変化について深く掘り下げていきます。

コンサルタントとは何か？～製造業の現場での立ち位置～

外部視点の価値と落とし穴

コンサルタントは、外部の専門家として知見や事例に基づき、企業の課題解決の助言・提案を行います。
時には数字分析、時には効率化推進――いわば客観的立場から経営や現場をサポートします。
この「客観的」というスタンスが、経営層には頼もしく映る半面、現場では「よそ者」の壁となりやすいのが事実です。

昭和的アナログ文化との相性

製造業は依然として昭和生まれのアナログ体質が根強く残る業界です。
手書きの日報、伝票、口伝えの運用ルールなどが、現場を守る“暗黙知”として強く息づいています。
この文化と、理路整然としたパワーポイント中心のコンサル資料は、しばしば「波長が合わない」状態を生み出します。

なぜ「見やすい」資料が重要なのか

見やすさの意味～伝わるための必須条件～

「見やすい資料」とは、単にグラフィックデザインが整っているという意味ではありません。
現場の人材が直感的に「自分ごと」として理解できる。
必要なデータや提案がすぐ目に入り、要点が分かる。
現場に働く人たちの視点、言葉、リズム感を反映した資料こそが、真の「見やすさ」だと言えます。

製造業現場に根付く「書類」文化

製造現場では、手順書・作業指示書・図面など多様な書類が毎日行き交います。
そこでは、「簡潔・端的・誤解がない表現」が自然と重視されてきました。
そんな現場に、抽象度が高く、情報が散らばったコンサル資料が入るとどうなるのでしょうか。

現場で起きる「理解不足」の実態

“なるほど”が生まれない提案

典型的なのは、全体像やKPIを延々と示し、専門横文字が並ぶ提案書です。
現場リーダーやベテランは「頭では分かるが、うちの現状に当てはめてみたら具体的にどうすればいいのか分からない」と困惑します。

属人性×アナログ運用の壁

たとえば、調達購買部門では、担当者ごとの「ベテランの目利き」や、昔からの独自運用ルールが幅を利かせています。
コンサルの標準運用プロセスや数値化・自動化提案は、それを一気に飛び越えます。
結果、「どうせ現場を分かってない」「結局動かすのは自分たち」というネガティブループを生みがちです。

意図が伝わらない弊害

資料設計が良くないと、「何が言いたいの？」と感じさせたり、重要なポイントがどこか分かりにくくなります。
現場は忙しい。
分かりにくい資料は後回しにされ、結果として「やれと言われてやっただけ」という消化不足が残ります。

資料づくりでなぜ差が付くのか？

見る人が誰かを徹底的に考える

たとえば、製造現場の作業員、課長、工場長、経営層、それぞれ着眼点が違います。
コンサルタントは「誰がどこを課題として認識しているのか」「誰がどの決定権を握っているのか」という視点が弱いまま資料を作成しがちです。

共通言語の発掘と「翻訳」

バイヤーが気にするのはコストや納期、サプライヤーは品質と安定供給、現場主義者は実作業上の負荷です。
英語で作った提案をそのまま日本語に直しても伝わらないのと同じように、「経営語」や「コンサル語」を「現場語」に翻訳する努力こそが肝です。

たとえば「この改善提案で20％作業削減できます」というだけでなく、
「1ライン当たり○分短縮、1日の作業が早く終わることで1.5人分余力が出る。これをA工程に回す運用イメージです」と、現場感覚に落とし込むことが大切です。

現場の実態「観察」と「伴走」の大切さ

机上で資料だけ作っているとずれが大きくなるばかりです。
現地現物で「この作業手順書、何年前のものでしたっけ」「これ、誰がいちばん時間かけてますか？」と一緒に見て歩くことが不可欠です。
そして、「この現場ではAがボトルネックなんですね」と自分の言葉で説明してみせ、現場の頷きを得られて初めて「伝わる資料」作りが始まります。

資料作成ミスが引き起こすリスク

合意形成の遅れと現場フラストレーション

資料が分かりづらいことで、現場リーダーや関係部門間で認識がずれます。
「そこが一番ポイントなんだ！」「そんな話だったっけ？」という混乱が、いざというときの重要判断（投資、人事異動、ライン変更）に致命的なずれをもたらします。

無駄な現場工数の発生

指示が曖昧だから、現場が再度「確認作業」に追われる。
意思疎通の取り直しで1週間が飛ぶ。
こうした小さなロスが、工程全体の原価上昇や納期遅延に直結することを、コンサル自身はなかなか体感できていません。

責任の所在が曖昧になる

「なぜこうなったのか」を検証しようとしたとき、そもそも指示や決定事項が曖昧な資料で“なかったこと”にされるリスクも高まります。

「見やすい」資料とはどういう資料か？

現場が動ける三大要素

1つ目は、「要点が一目で分かること」、2つ目は「現状、目的、課題、対策の流れが明確であること」、3つ目は「現場に即した“言葉”と“事例”が使われていること」です。

図表は多用すべきですが、使う場面・目的に応じてシンプルさを忘れずに。
たとえば製造ラインの現状分析なら、現場工程に即したフローチャートや、課題点を赤字で明記したワンポイント資料が有効です。

「情報密度」でなく「伝達効率」にこだわる

1枚のシートに詰め込めば良いのではなく、1分で“そのまま共通認識が作れる”資料が理想です。
工程別、部門別成果、具体的な数値、今後のスケジュールを一目で。
同時に、現場用資料と経営層向け資料は用途に応じて出し分けるべきです。

バイヤー・サプライヤー目線で考える資料の作り方

バイヤーが重視する資料ポイント

・コスト削減や品質向上がどのように達成されるか、簡潔明瞭な効果の説明
・サプライヤーベースで無理なく実現可能な計画になっているか
・現場での落とし込みやすさ、運用面の具体性

サプライヤー側が押さえるべき着眼点

・自社の強みを現場視点の事例で説明
・納期や仕様など「現場が困らない」前提をはっきり示す
・曖昧な要件には「質疑応答」の時間や記載スペースを作り、双方向性を担保

成功事例：現場が納得した資料とは

ある工場の自動化プロジェクトで、初期コンサル資料は専門用語だらけで現場反発が起きていました。
第二案では、現場工程ごとの作業時間、問題発生の頻度、事故リスク、それぞれの現場作業員へのメリットを1枚のシートにまとめ、各職種の顔写真も貼り付けました。
「自分ごと」として捉えやすい構成に変えたことで、現場の前向きな意見出しが一気に進みました。