投稿日:2025年7月11日

粉体付着流動帯電性を制御する計測技術とトラブル回避

粉体付着流動帯電性を制御する計測技術とトラブル回避

はじめに

製造業の現場で粉体を扱う工程は、化学、食品、医薬、セラミックス、電子部品など、幅広い分野で共通する極めて重要なプロセスの一つです。

しかし、粉体取り扱いにおいては「付着」「流動」「帯電」といった問題がつねに悩みの種となっています。

昭和の時代から現場で受け継がれてきた職人の勘や経験値頼みに頼る場面も多く、アナログな手法が色濃く残る業界ですが、時代はデジタル化とトレーサビリティの強化が加速しています。

この記事では、現場目線で「粉体の付着・流動・帯電性」をどう計測・管理し、トラブルをどう回避するか、最新技術動向とともに実践的なノウハウをご紹介します。

バイヤー志望の方、サプライヤーとしてバイヤーが何を気にしているのか知りたい方にも役立つ内容です。

1. なぜ粉体管理が重要なのか?

粉体の性質は、原材料や製品の品質はもちろん、生産能力、コスト、歩留まり、装置トラブル、安全性に直結します。

例えば混合度合いのムラ、流動詰まり、静電気による爆発事故、装置内部の汚染など、多岐にわたるトラブルの多くは粉体の「見えない」ふるまいが絡んでいるのです。

とくにバイヤーや調達担当者は「安価で調達したはずの原材料が、結局ライン停止や品質トラブルで高くついた」という苦い経験を何度もしていることでしょう。

ここに「見えざるコスト」が潜むのです。

2. 粉体付着・流動・帯電性とは何か?

2.1 粉体の付着性

粉体は粒子同士や粒子‐装置壁面との付着力が強くはたらくことがあり、ホッパーやシューターに「こびりつき」や「ラットホール」を形成します。

これは、粒子表面の湿度、粗さ、静電気など多くの因子が絡み、ラインごとに症状が異なります。

2.2 粉体の流動性

流動性は「ホッパーからどれだけスムーズに流れるか」「袋詰めや輸送中に団子にならないか」を示します。

流動性が悪いと搬送機で詰まりや分級が起こり、生産効率は著しく低下します。

2.3 粉体の帯電性

粉体同士や粉体‐装置摩擦によって静電気が発生し、粒子同士が互いに反発・付着したり、装置壁に吸着、あるいは火花放電による事故が発生します。

帯電性は「現場で煙のような微細粉塵が止まらない」「投入した粉が設備の内壁にくっついて取れない」など厄介な問題を引き起こします。

3. 現場で起こるリアルトラブル例

3.1 ホッパー詰まりによる生産ライン停止

「朝一番の立ち上げでホッパーから粉が降りてこない」

「いつもより湿度が高く粉がねばつく」

こうした一見些細な現象が、実際には生産工程全体のリードタイム遅延やコスト増につながっています。

3.2 静電気着火事故

製薬や化学業界では帯電した微粒子による放電火花が爆発事故を招く例が後を絶ちません。

しかも多くの場合「ここまで電気がたまると思わなかった」「前回までは問題なかった」という盲点があります。

3.3 品質異常(分級・成分ムラ)

粉体の流れ方が安定しないと、同じ配合でもバッチごとに製品特性が変わったり、異物混入や品質クレームとなることもあります。

このように、粉体の付着・流動・帯電性を軽んじると、目に見えないところで大きなトラブルの芽が育っているのです。

4. 粉体性状の定量評価:最新計測技術

強く根付いたアナログ文化の中で、「誰が測っても同じ」標準化データを作れるかどうかは、今後の工場改革、SCM強化、サプライヤー評価において極めて重要なポイントです。

4.1 付着性計測技術

– シャーカーフロー試験:一定時間振動を加えて残留粉体量を計測します。流動性とともに付着性評価も可能です。
– 壁面付着力測定器:試験片や材料壁面に粉を塗布し、既定の力でこすって剥離量を測定します。最新機種では環境湿度・静電気制御下での測定も可能です。
– 画像解析装置:粉体が壁面や撹拌羽根にどのように付着するか、画像センサーで可視化・数値化される例が増えています。

4.2 流動性計測技術

– アングルオブリポーズ(安息角):粉体を山盛りにしてできる角度を測るシンプルな方法。現場で手軽に比較可能です。
– フローアナライザー(自動流動測定):自動で粉体の流量、詰まり、突発団粒化などをリアルタイム測定できます。生産現場のIoT化にも最適です。
– 粒度分布測定器:粒度ムラや微粉率が流動性・付着性に直結するため、粒径分布データは必須となります。

4.3 帯電性計測技術

– トリボチャージャー+非接触帯電測定:粉体搬送時の静電気発生量を、摩擦条件下で定量化します。
– フィールドミル:粉体サンプルに触れずに帯電レベルをモニターでき、現場装置に取り付けてリアルタイム監視もできます。
– 帯電性比較用スタンダード粉体の利用:原材料ロットごとの変動管理や、工程変更時の評価基準作りに大いに役立ちます。

5. トラブル回避のための実践的な管理・改善ノウハウ

5.1 調達・バイヤー目線でのポイント

– 粉体の仕様書に「粒度分布」「水分値」「静電気特性」「流動性指標」などの具体的な数値データを明記し、管理値を持つことが重要です。
– サプライヤーとの品質会議では、計測条件や再現性・測定環境(湿度、温度)を必ずすり合わせましょう。
– 粉体性状のちがいがダイレクトに歩留まりや不良コスト、人手作業(ライン清掃や再投入など)に跳ね返ることを上流工程から説明し、コストの見える化を推進します。

5.2 製造現場のオペレーションからのアプローチ

– 装置壁面の材質や表面処理(テフロン、セラミックコート等)、粉体との相性検証→表面エネルギー低減材料の活用
– 環境制御(湿度調整、静電気除去装置、アース設備増強)→特に梅雨期や冬場は要注意です
– 粉体投入・搬送・貯蔵オペレーションの標準化チェックリスト作成
– 粒度分布・性状変動のロット管理と、調合・造粒・混合工程でのサンプル頻度強化

5.3 サプライヤーの立場からの提案価値

– 原材料粉体の「流動性・帯電性保証」サービスの付与
– 粉体サンプル採取・分析の無料サポート、工程異常時のオンサイト技術相談
– ラインごと、工程ごとの「粉体ふるまい可視化」データ提供(事故事例や他ライン事例の情報共有)

6. アナログ現場からの脱却と、次世代ものづくりへの展望

これまで多くの工場では粉体計測が「試験室の仕事」「研究開発向け」に留まり、現場の泥臭いトラブル対応は熟練作業者任せとなりがちでした。

しかし、IoT計測技術や自動監視装置、データサイエンス技術が普及した今、現場の感覚やアナログ判断に頼る時代は過去のものとなりつつあります。

バイヤーの視点では、調達時から原材料の「特性値管理」と現場のトラブルデータをひも付け、一気通貫でリスク把握・コストダウン策につなげられます。

サプライヤーの立場では「単なる安さ」だけでなく、「工程適合性」や「安定供給性」「付加価値サービス」の提供を通じて、新たなパートナーシップ構築の糸口が開けてくるでしょう。

まとめ

粉体付着・流動・帯電性の計測・管理は、目に見えない課題ゆえに多くの現場で後回し・軽視されがちな分野です。

しかし、現場レベルでの設備停止、品質クレーム、労働負荷増大を防ぎ、上流から下流まで全体最適を図るためには、最新の計測技術と実践的な管理ノウハウの徹底が必要不可欠です。

誰もが真似できる現場改善と、サプライチェーン全体の信頼性アップ。

これこそが製造業の本質的な価値の向上につながるのです。

最後に、今後の現場改革には「計測データ」と「現場感覚」の協奏が求められています。

時代遅れのアナログ一辺倒から一歩抜け出し、現場・バイヤー・サプライヤーが一体となって「粉体を制する者が、ものづくりを制する」そんな新たな地平線を共に切り拓いていきましょう。

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