投稿日:2025年10月5日

高電圧環境下の部品に粉体塗料を部分塗装できる技術とその活用方法

高電圧環境下の部品に粉体塗料を部分塗装できる技術とは

高電圧環境下で使用される部品には、絶縁性や耐久性、そして表面保護が求められます。
これらを実現する手段として「粉体塗装」は広く用いられていますが、従来は全面塗布が主流であり、部分的な塗装には多くの課題がありました。
しかし、近年の技術進化により、粉体塗料を部品の必要な部分だけに効率良く塗布する「部分塗装」が現場でも適用可能となってきています。
本記事では、その最新技術の仕組みと、実際の製造現場における活用方法、高電圧製品製造に携わるバイヤーやサプライヤーの皆様が押さえておくべき業界トレンドを、20年以上の現場経験の視点から解説します。

粉体塗装の基本と、高電圧部品に求められる条件

粉体塗装とは何か

粉体塗装は、塗料を粉末状で静電気などによりワーク(部品)に付着させ、その後高温で焼き付けるという工程を経て、硬質かつ耐久性の高い塗膜を実現するコーティング手法です。
最近では、溶剤を使わない環境負荷の少なさや、塗着効率の高さ、耐蝕性、電気絶縁性など多くのメリットから、高電圧機器や電装部品の保護用途で一層重要視されています。

高電圧環境下の部品に粉体塗装が求められる理由

高電圧を扱う装置や部品には、アーク放電やリーク電流からの保護、経年による絶縁劣化防止、腐食対策など多面的な要求があります。
粉体塗装の絶縁特性や、湿気や薬品にも強い表面保護性能は、その用途に非常にマッチしています。
一方、部品には電気的接点や機構上、塗装を避けたい部分も存在し、「必要な場所だけ」塗る技術への需要が年々高まっています。

なぜ部分塗装が現場で求められるのか

設計・生産両面のニーズ

近年のエレクトロニクス製品・パワーデバイスの進化により、部品設計の複雑化、組込みの密度向上に伴い、下記のニーズが顕在化しています。

  • コネクタや端子部など電気接点部は塗装を避ける必要があり、他の領域だけを塗装したい
  • 熱放散が求められる部位には塗装膜が余分な熱抵抗になるため、必要最小限だけに塗装したい
  • 部分的な異方性機能の創出(例:一部だけを絶縁、他は導電など)

特に工場現場では「歩留まり向上」「再加工・手直し工程の削減」「生産性向上」「化学物質使用量の最適化(コスト・環境)」など、QCDS(品質・コスト・納期・安全)の観点で部分塗装への要求が強まっています。

従来部分塗装が難しかった理由

粉体塗装は静電気を利用して粉体を付着させる仕組みですので、金属ワーク全体が導電することで塗着効率が良くなり、「部分的に絶縁・遮蔽」する構造は塗料の帯電や吹き付け動作に大きな制約を及ぼします。
また、マスキング(物理的な覆い)も加熱焼付け工程との相性や、マスキング材の耐熱性・耐薬品性の兼ね合いから、工数や精度がネックとなっていました。
このため、現場では手作業や多工程にまたがる管理工数が発生しがちでした。

最新の部分粉体塗装技術の概要と特色

導電性マスキングと新素材の活用

現在広がりを見せているのが「導電性マスキング材」や、「熱可塑性・耐薬品性の高いマスキングフィルム(テープ)」です。
これまでのシリコンゴムや樹脂キャップに比べて、熱変形しにくく、また繰り返し利用も可能です。
粉体塗装工程向けに設計されているため、加熱焼付けの際も溶出や脱落が少なく、塗装工程の一貫化(自動搬送含む)にも適合できます。

また、専用冶具や3Dプリント技術を活用した「カスタムフィットマスキング」の導入例も増えています。
これにより、数百~数千個単位の多品種少量生産にも柔軟対応可能となります。

静電制御・エリア選択型塗装ガンの進化

従来の広域静電ガンに比べ、微細なエリア選択やリニアな動きが可能な「ピンポイント・エリア選択型塗装ガン」が登場しています。
AIカメラやロボットアームとの組み合わせで、部品の凹凸や複雑なラインにも自動追随が可能。
これにより、難易度の高い部位の「部分塗装」が現実的なものとなってきました。

実際の活用例と業界へのインパクト

自動車・電動化部品でのケース

自動車産業、とくにEV・HV向け電装部品やバッテリーパックでは、重量・サイズの最適化が徹底的に問われています。
配電ユニットやバスバー(導体バー)部品では「電極接点部だけマスキング、基台部分のみ粉体絶縁コーティング」という工法が主流に移行し、組立前の前処理から後工程への歩留まり向上・手直し削減が実現しています。

また、高温耐久性・耐薬品性の双方を求められるコネクターカバーや、インバータ筐体の一部絶縁塗装にも本技術が活躍しています。
現場からは「人手によるマスキング除去作業が1/5になった」「出荷不良率が激減した」といった効果報告が聞かれています。

重電・産業機器業界での応用パターン

トランスコイルや遮断器フレーム、スイッチギアの端子部絶縁対策など、従来は複雑な工程で仕上げていた領域も、部分粉体塗装により工程簡略化が進行中です。
特に大型設備工場では自動搬送ライン(コンベア)と連携し、連続的な「部分塗装→検査→出荷」システムが導入されつつあります。

さらに高耐久絶縁を活かし、メンテナンス頻度や現場作業者の安全性向上といった、現場実装レベルのメリットが生まれています。

調達・購買バイヤーが押さえるべき現場動向

高電圧部品の調達バイヤーが「部分粉体塗装技術」を押さえることで、下記の競争力を獲得できます。

  • 工程トラブルの削減、納期遅延・再加工リスク回避
  • 塗装品質(膜厚・密着・外観)の安定化=不良率低減によるコストダウン
  • サプライヤー側の生産性向上への評価(リードタイム短縮・小口多品種への対応力)
  • 省資源・省エネルギー活動(SDGs・カーボンニュートラル対応)への具体的施策化

サプライヤー選定や、OEM図面への工程指定の際に、「部分粉体塗装の対応可否」を必ず確認項目に入れることが、調達部門の品質・コスト・納期管理の高度化に寄与します。

今後の部分粉体塗装技術と製造業の新展開

アナログな業界からの脱却と、自動化との親和性

製造現場では今もなお、手作業や職人技への依存、アナログな管理手法が根強い現状があります。
特に塗装工程は「人によるマスキング」「目視検査」が主流ですが、部分粉体塗装技術の自動化・標準化は、これらからの脱却、次世代現場の基盤技術となる可能性があります。

AI画像認識、ロボット制御、IOTトレース管理システムとの組み合わせによって、「誰がどこをどう塗ったか」の見える化や、異物混入リスクの事前低減まで、スペックイン以上の価値創出の期待が高まります。

現場主義+技術革新の両立の大切さ

部分粉体塗装は、単なる新技術の一つではなく、製品生命を左右する「現場の積年課題」を抜本的に解決する切り札です。
サプライチェーンの垣根を超えて、現場担当者・バイヤー・設計者・サプライヤーが連携し、従来の「できない」「コストが合わない」を発想から打ち破る必要があります。

工場現場の視点から、既存のライン改修・現場作業の省力化・品質トレース体制の高度化など、現実的な導入シナリオを描いていくことこそ、昭和的アナログからの脱却、高付加価値・高収益の新製造業モデルの鍵だと確信しています。

まとめ:知らなければ損、部分粉体塗装の現場力

高電圧環境下というハードな要求条件下で、従来の常識を覆す部分粉体塗装技術は、現場課題解決・コストダウン・品質向上を一気に進める「現場力強化」の切り札です。
バイヤーの視点では、単なる外注工程の一つではなく、サプライヤー選定・新規発注時の大きな差別化要素として捉えることが、競争優位を築く第一歩となります。

サプライヤー側の方々は、「部分塗装」に対応できる高度な現場体制・工程管理力をアピールすることで、これからの新規受注や、上流メーカーとのパートナーシップ強化を実現できるでしょう。

実践重視の現場目線で、ぜひ今日から「部分粉体塗装」の実力を、自社の現場にも、調達活動にも、最大限活用してください。
製造業の未来は、現場の知恵にこそ宿っています。

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