投稿日:2025年7月3日

強制空冷液冷設計で温度計算を簡易化するパワエレ熱対策

はじめに:パワーエレクトロニクス熱対策の現状は昭和のまま?

近年、製造現場で主軸となるパワーエレクトロニクス(以下パワエレ)は、その高効率化・高出力化に伴い、熱対策の重要性がますます高まっています。
それにも関わらず、現場では「過去の経験」「カン・コツ」で熱設計の大半がなされているのが実情です。

特に、強制空冷や液冷といった放熱技術の基本構造は何十年も大きく変わっていません。
多くの工場で、昭和時代からのアナログ手法が根強く残っており、Excelや紙ベースでの温度計算が常態化しています。

本記事では、そんな“今もアナログ”なパワエレ熱対策の実情を踏まえつつ、現場担当者・設計者・バイヤー双方の視点から、強制空冷液冷設計における温度計算を簡易化するためのラテラルなアプローチを解説します。

パワエレ熱対策の基本:「熱計算」の壁と現実

熱設計が苦手な現場技術者たち

製造現場でパワエレ装置の開発や設計を行う技術者にとって、「熱設計」は避けて通れないテーマです。
とはいえ、熱伝導率や熱抵抗、熱伝達などの理論を現場目線で“感覚的に”使いこなせる技術者は決して多くありません。
熱流体解析ソフトの導入もコストやスキルの問題から簡単ではなく、部品点数が多い場合は解析の初期コストが負担になります。

属人的な計算から脱却できていない理由

多くの現場は、以下のような課題を抱えています。

・経験者がテンプレートとして残したExcelシートを流用
・ヒートシンクの選定もカタログ値+過去データ頼み
・冷却ファンやポンプの能力も余裕見積もりで決定
・性能保証値の裏づけが曖昧になりがち

こうした属人的なやり方が続く最大の原因は「実測値との突き合わせの難しさ」「設計開発サイクルの短縮化に追いつかない設計手法」にあります。

なぜ今、強制空冷液冷の“簡易温度計算”が必要なのか

省エネルギー・コンパクト×高発熱のトレードオフ

パワエレ装置は、省資源・高効率化が求められる一方で、出力アップと小型化によってますます発熱密度が高くなります。
モジュール温度は寿命・信頼性と強く相関するため、もはや「多めに設計すれば安全」の時代ではありません。

バイヤー視点:コストダウンと品質保証のバランス

昨今は調達購買部門が主導するコストダウン施策が急増していますが、ヒートシンクやファンの選定根拠がクリアでないと、無理な値下げやサプライヤーの信頼性低下につながります。
バイヤーにとっても、“現場の温度の根拠”を見える化・定量化できる仕組み作りが急務となっています。

ラテラルシンキングで「温度計算」をシンプルにする3つの視点

「簡易化=雑」ではなく、要点を押さえた“再現性の高い・即応性のある”温度計算手法にアップデートしましょう。

視点1:現場ヒアリング×実データで短期学習ループを回す

まずは既存の装置や現場から得られる実測温度データを集中的に集めます。
このデータと設計図・部品表・放熱体の仕様を突き合わせ、「現場プロ」と「設計者」が一緒になって温度予測のロジックを可視化していきます。

どんな簡易計算式を採用する場合も、「現場経験のフィードバック」と「理論値の突き合わせ」を短サイクルで繰り返すことで、実用精度を格段に高められます。

視点2:温度計算の多段階分解と「最大値/最悪値」シナリオ活用

たとえば、パワーモジュール→ヒートシンク→ファン付き筐体→周囲環境、といった熱流の各段階ごとに熱抵抗を“積み木”のように分けて考えます。

この際、“最大値”や“最悪値”の条件(ファン故障・吸気口ふさぎなど)もシナリオとして組み込み、温度上昇の振れ幅を把握するのがコツです。
こうして最小限のパラメータ(例えば、放熱面積・ファン風量・冷媒流速など)だけで計算できる数式へと落とし込んでいきます。

視点3:液冷ユニットの「標準セル」活用で設計をブロック化

発熱量が大きく熱集中が避けられない場合は、液冷プレートやパイプ内冷却などのユニット化が有効です。
難しい流体伝熱式も「ユニットごとの温度上昇は○℃」と割り切って設計ブロックにすれば、計算が各段階で単純化できます。

標準セル化は、バイヤーとの部品仕様すり合わせ・サプライヤーの品質保証にも直結するため、“標準化”の推進が企業全体のメリットに繋がります。

強制空冷液冷設計:現場で使える「簡易温度計算」ツールの具体例

ケース1:ヒートシンク+ファンの基本温度計算

最もポピュラーなのは、「発熱量」「放熱表面積」「ファンの風量」から温度上昇を見積もる方法です。

温度上昇ΔT=発熱量(W)×熱抵抗(℃/W)
熱抵抗(℃/W)は、ヒートシンク形状とファン風量、装置設置状態からカタログ値と実測値の平均を使うのがポイントです。
簡単なExcelシート化、もしくはWeb計算ツールを使えば、装置設計後の素早いシミュレーションが可能になります。

ケース2:液冷プレートでの温度分布予測

液冷式では、冷却水の流量L/min、入水・出水温度、プレート長さ、ごく単純なパラメータだけで主要温度推算が行えます。

「出口温度=入口温度+発熱量÷(流量×比熱×密度)」という一次式を使います。
これに、パワーモジュールからプレート伝導部、流路全体の温度損失を足し上げいくことで、全体の許容温度上昇を簡易的に見積もります。

バイヤー・サプライヤー必読:協働のための「見える化」推進とは

属人性排除のための“設計思想の共有”

バイヤー/購買担当にとって、サプライヤー評価時に気になるのは「仕様バラつきリスク」「温度不良による事故再発」でしょう。

簡易温度計算の“見える化”ツール化は、あいまいな「実力」や「経験」依存からの脱却だけでなく、「なぜこの部品を選ぶ?」「どこまで余裕がある?」という問答の透明性・納得性アップに直結します。

サプライヤーからの提案価値向上ツール

サプライヤー側からも、「自社のヒートシンクはこれだけ放熱できる」「この液冷プレートなら実測温度はここまで下がる」といったエビデンスを実測データ+簡易計算式で提示できれば、設計者・バイヤーの信頼獲得が容易になります。

現場でのトラブル時も、“計算ツールで振り返り→どこで温度予測が外れたか?”をスピーディに議論できるため、問題解決のスピードが劇的に向上します。

アナログから抜け出し、新しい設計文化を作るために

強制空冷液冷設計の温度計算を簡易化することは、「手抜き設計」に陥るためではありません。
設計→調達→製造→現場運用と、ものづくりの一連の流れのなかで、「現場が使える数字」と「机上設計の再現性」をつなげる知恵と標準を作るための打ち手です。

現場・設計・バイヤー、すべてにメリットがある

1. 設計部門は、短期間で設計条件に合った熱対策を選択できる
2. 製造現場は、設計意図に即した温度予測ベースで不具合対策が可能
3. バイヤー/購買は、仕様根拠の明確化で調達交渉や品質要求が容易に
4. サプライヤーは、提案力強化・事故予防で顧客信頼向上
こうした好循環が、ものづくりの「次世代標準」を生み出します。

まとめ:知恵と道具でパワエレ熱対策の“地平線”を広げよう

昭和から続くアナログなものづくり・熱設計に、新たな風を吹き込むのは「現場目線の仮説検証」「見える化」「多部門連携」の三拍子です。
強制空冷液冷設計における温度計算の簡易化・標準化は、製造現場でも、サプライヤーでも、バイヤーでも、現代のモノづくりに不可欠なテーマとなっています。

属人的な神話やカンを“強み”から“仕組み”へ。
知恵と工夫で、新たな熱設計の地平線を共に開拓しましょう。

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