投稿日:2025年7月8日

PPセルロースフィラー発泡サンダルと海洋漂流分解試験

PPセルロースフィラー発泡サンダルと海洋漂流分解試験の現場から

はじめに ~製造業で持続可能性が問われる時代~

製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。
特に、脱炭素化やサステナビリティが社会全体で叫ばれる昨今、開発現場や購買・調達部門、サプライヤーにも従来型アナログ思考からの脱却が求められています。

本記事では、新素材であるPPセルロースフィラー発泡サンダルが注目される背景と、海洋漂流分解試験の意義について、20年以上の工場現場管理経験者の視点で解説します。
単にエコだから、SDGsに役立つからと表面だけを追うのではなく、根底にある業界の事情や、バイヤー・サプライヤー間の本音、現場の実践的な工夫まで踏み込みます。

PPセルロースフィラー発泡サンダルとは何か

まず、PPセルロースフィラー発泡サンダルとは、プラスチックの中でも比較的リサイクル性が高いポリプロピレン(PP)に、再生可能な植物由来のセルロースをフィラー(充填剤)として加え発泡させた素材で作るサンダルのことです。
従来のEVAやPVC発泡サンダルに比べ、石油依存度とカーボンフットプリントを削減できる点が評価されています。

セルロースフィラーを活用したPPフォームは、軽く・成形容易・加工後の寸法変化が少ないメリットがあります。
加えて、サンダル自体の使用感や耐久性も損なわないよう開発が進められています。

サンダルが直面する環境問題

漂流ゴミ、特にサンダルや靴類が世界中の海岸に打ち上がる現状は、製造現場にいる私たちも日々痛感する課題です。
「海に流れ着いたサンダルやスリッパは何十年も変化しない」
という報告もよく聞きます。

これは素材そのものが石油由来で自然分解されにくいことに加え、処分方法が未整備な文化・地域も多いためです。
私たちバイヤーや開発担当は、単に素材を選ぶだけでなく、ライフサイクル全体を見る視点がこれまで以上に重要になります。

海洋漂流分解試験の現場最前線

こうした課題意識から、近年多くのメーカーが「海洋漂流分解試験」に本腰を入れるようになりました。
通常の分解試験(コンポスト分解や土壌分解)以上に、海水という過酷な環境下で本当に分解性があるかどうかを科学的に検証する必要があります。

現場では、次のようなステップで試験が行われています。

分解試験の手順とチェックポイント

1. サンダル材料を調達し、サンプル成形
2. 海洋に近い塩分濃度・温度で再現できる試験槽に投入
3. 規定期間ごとにサンプルを回収
4. 重量減少率、目視評価(割れ、剥離、形状崩壊など)、分子量分析
5. ガス発生分析(二酸化炭素、メタン等)

特に最近では、漂流を模した“動的試験”、つまり波の動きや紫外線照射も加味する試験が増えてきました。
サンダルは実際の環境では常に「動いている」ものだからです。

これらの試験データは、バイヤーがサプライヤーを選定する判断材料となり、逆にサプライヤー側でも訴求力のある“エビデンス”となります。

バイヤーとサプライヤーの本音:分解性素材採用の現実

「分解性素材を採用すべきだ」との声は経営層や調達部門に高まっています。
しかし実際の現場では、単純な“エコ性能”だけで切り替えを決めるわけにはいきません。

・発泡成形時の歩留まりは落ちないか
・品質安定性とコストは釣り合うか
・量産化した場合のトラブル履歴
・流通経路や端材・不良品の回収
・最終顧客(消費者)が本当に求めているか

こういった課題を一つずつ丁寧に詰めていくのが、現場とバイヤー・サプライヤーが一緒にモノづくりを高めるプロセスです。
特に昭和的な“カンコツ”に頼りがちな業界風土では、「前例がないから…」「使い慣れた材料じゃないから不安」という空気が根強いです。

PPセルロースフィラー発泡材のメリット・デメリット

これを踏まえ、PPセルロースフィラー発泡材のメリット・デメリットを整理します。

【メリット】
・原料の一部が植物起源
・燃焼時有毒ガスが発生しにくい
・従来のPPより軽く、かつ適度な柔軟性
・資源循環型社会に貢献
・“海洋分解性”試験によって、マイクロプラスチック排出懸念の低減訴求が可能
・環境志向ブランドへの差別化アピール

【デメリット】
・天然フィラー混合による成形条件のシビアさ
・安定供給体制の課題(原料調達リスク)
・分解速度が遅い or 実フィールドとラボ試験で相関がとれない場合がある
・従来材料より歩留まりや耐久性でバラツキが生じやすい

これらを現場で理解し、最適な素材・プロセス設計をバイヤーが主導していくのが“令和型ものづくり”の姿です。

調達購買の視点:標準化か、個別最適か

調達購買担当として、「標準化」と「個別最適化」のバランスは常に悩ましいテーマです。
特に、PPセルロースフィラー発泡サンダルのような新素材の場合、各社の試験データや分解性能、コストパフォーマンス、納期全てがバラバラです。

現時点では「どれも正解」「どれも正解でない」というのがリアルな現場の声です。
調達担当は、目先の価格や帳票整合だけでなく、社内外の専門家とつながり、「常にリスク評価軸をアップデート」する力が求められます。

サプライヤーの思考:なぜバイヤーの本音を知るべきか?

サプライヤーの立場なら、「なぜバイヤーは“面倒くさい書類”や“繰り返し同じような質問”をしてくるのか?」と考えたことがあると思います。

その根底には、エンドユーザー側に“持続可能性”を求める社会的圧力が強まっている事が大きいです。
分解試験一つ取っても、「本当に御社の材料はこの試験で分解するエビデンスがあるか?」という裏付けを常に問われます。
これは単なる“お役所仕事”や“お役所仕事”の延長ではありません。
欧州・アメリカ発の規制対応や、グローバルチェーンの強化が急務となっているからです。

昭和から令和への転換点:調達購買と現場力の進化

PPセルロースフィラー発泡サンダルのプロジェクトを通じ、私たちは従来型のアナログ購買から
・調査力
・判断力
・業界横断的なコミュニケーション力
が強く求められるようになりました。

私は、工場現場で人と人が「小さな不具合」に気づき、翌日には素早く対策会議を開く―
そんな昭和型現場の良い文化を生かしつつ、最新の分解試験やサプライチェーン管理手法を柔軟に取り入れる「ハイブリッド」な現場づくりが大切だと感じています。

まとめ:未来のバイヤー・現場を担う人へ

PPセルロースフィラー発泡サンダルと海洋漂流分解試験は、単なる“新しい材料”や“エコな話題”で終わるテーマではありません。
むしろ、真にサステナブルな社会を支えるために、材料選定・プロセス開発・調達購買・すべての現場で「正当な疑い」と「ラテラルな視点」を持ち続ける必要があります。

現場でも、サプライヤーの立場でも、バイヤーの考えるバックグラウンドやエビデンス重視文化を理解し、形だけの「分解性」ではなく本当の価値につながる“モノづくり”を目指しましょう。
アナログな業界風土に愛着を持ちつつ、デジタルと最新試験の知見で地平線を広げていく―
それこそが、これからの製造業の進化の道筋ではないでしょうか。

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