- お役立ち記事
- 製造業におけるスコープ3排出量削減の実践的アプローチ
製造業におけるスコープ3排出量削減の実践的アプローチ

目次
はじめに:スコープ3排出量とは何か
製造業の現場では、カーボンニュートラルやESG経営への注目が年々高まっています。
その中でも「スコープ3」というワードが、経営層や現場の購買担当、バイヤー、サプライヤーなど、すべての関係者の間で存在感を強めています。
スコープ3とは、「間接的な温室効果ガス排出量」を指す言葉です。
具体的には、自社が直接排出するスコープ1、購入した電力などに由来するスコープ2以外に、仕入先・販売先・物流・廃棄物処理など、サプライチェーン全体で発生するCO2などの温室効果ガス排出量を指します。
このスコープ3への対応が、今や取引先認定はもちろん、企業の生き残りまで左右しかねない時代が本格化しています。
ここでは、製造業におけるスコープ3排出量削減の実践的なアプローチについて、20年以上現場を渡り歩いた筆者の目線で解説します。
なぜスコープ3が重要視されるのか
グローバル企業・大手の基準が下流にも押し寄せる
もともと環境経営は、欧州や北米の大手企業から始まりました。
サステナビリティへの関心が厚く、「サプライチェーン全体でCO2削減を」というプレッシャーが末端の企業にまで広がっています。
TOYOTA・HONDAなど自動車業界や、電機・通信業界なども国際的な競争力確保のため、取引先にもスコープ3対応を求める時代に突入しました。
半導体や電子部品、樹脂・鋼材メーカーも同様です。
サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量=企業の評価
顧客や投資家は、単なるコストや品質だけでなく、「温室効果ガス排出の全体最適か、取組姿勢」に注目しています。
たとえば自社でクリーンエネルギーを使っても、原材料が別の国の石炭火力で作られていれば、評価は下がります。
また、圧倒的に排出量が大きいのがスコープ3──全体の8割以上を占めるケースもあります。
これを無視した経営・現場運営はもはや時代遅れと言えるでしょう。
スコープ3排出量の算定方法とその実態
サプライヤーにも問われる「算定根拠」
これまでスコープ3は、かなり大ざっぱな計算が主流でした。
たとえば材料調達で「平均的なCO2原単位」を掛ける、物流では「輸送距離×トン数=CO2排出量」など、推定値ベースが多かったのです。
しかし最近は国際標準(GHGプロトコル)、ISO14064などを基準に、
・原材料別(樹脂・鋼材・電子部品ごとの原単位)
・工程ごとの実排出量計測(電力消費量・使用燃料による計算)
・廃棄物処理やリサイクルによるCO2換算
など、より確かなデータの提示を求める顧客が増えています。
購買・調達部門や取引先サプライヤーは、この根拠づくりをどう実現するかが大きな挑戦です。
日本の中堅・中小製造業現場はここが弱い
日本の製造業、とくに中堅・中小企業では
・自社排出量の算定ができない
・業界平均の原単位の知見が乏しい
・生産現場と総務・経営管理が連携できていない
など、昭和的でアナログな企業体質が色濃く残っています。
たとえば「どの設備が、どの材料をどれだけ使い、CO2をどこで何グラム排出したか」が分からない。
材料伝票も紙で処理、工程ごとのエネルギー消費量も見えない──
こうした課題が多数です。
現場では「また新しい帳票が増えるのか」「旗だけ振って、誰も協力してくれない」などの声も出がちです。
製造業の現場でできるスコープ3削減の実践例
調達・購買の現場で考えられるアプローチ
調達購買担当者がスコープ3削減に実効性を持たせるには、
1. 仕入先選定で「環境負荷」の数値化を重視
2. サプライヤーへの情報開示要請(CO2原単位・使用エネルギー等)
3. 共に取り組みを進める「パートナー化」
などが有効です。
例えば、樹脂や鋼材の仕入れ先に対して「製造段階のCO2排出量報告書」の提出を必須化する。
また、二次部材や副資材(段ボール・プラ材等)も同様に調査することで、原材料の段階からCO2削減の意識を定着させます。
調達先の切り替え提案も重要です。
「価格だけで選ぶ時代は終わった」と現場の意識改革を促し、スコープ3削減に積極的なサプライヤーを優遇する仕組みづくりを目指しましょう。
生産現場での改善活動に落とし込む
生産管理・製造現場では「見える化と改善活動」がポイントです。
・消費電力を工程・ロット単位で計測し、原材料との紐付けを行う
・設備の稼働効率、空運転・アイドリングの見直しによる CO2 削減
・加熱・乾燥工程のヒートリサイクル導入
など、「無理のない現実解を一歩ずつ積み重ねる」ことが大切です。
たとえば、設備ごとの電力消費をメーターで計測・データ収集することで、「どの工程で無駄が発生しているか」を把握します。
ベテランオペレーターの経験値や勘だけでなく、定量データに基づいて最適化していくのが、現代の現場改善の姿です。
また、工場のLED化や高効率モーター採用、コンプレッサーの定期点検によるエア漏れ低減も、すぐに効果が分かる取り組みです。
バックオフィス・間接部門も他人事ではない
スコープ3対応は、総務・経営管理、人事・物流・環境部門も一体となった全社活動が欠かせません。
・物流会社と組み、最適配送ルート・積載効率改善でCO2削減
・書類や伝票の電子化、テレワーク活用による移動量削減
・社内セミナーや新人教育で意識啓発
など、間接的ながら大きなCO2削減ポテンシャルがあります。
工場の現場だけでなく、事務所・オフィス自体の省エネ化も見直しましょう。
バイヤー・サプライヤー間の「本音と建前」
バイヤーが本当に求めているものとは
バイヤー(購買企業)は、単なるCO2算定データ以上の「誠実な対応」「信頼できるパートナー」を求めています。
・質問に対し、根拠あるデータで回答できる
・改善提案(再生材活用、製造法の見直し 等)を能動的に行う
・供給リスクやコスト提案も先んじて提示
・長期的なビジョンを描き、協業できるサプライヤー
こうした姿勢は、「選ばれるサプライヤー」への第一歩です。
スコープ3対応は面倒な業務負荷……ではなく、「自社の差別化ポイント」「将来の指名案件を勝ち取る手段」だと考え方を転換しましょう。
サプライヤー側から見た現場の本音
一方サプライヤー側は、
・対応工数が膨大、人手も知識も足りない
・答えることで価格や供給リスクが悪影響を受けるのでは…と不安
・数字だけで機械的に切られるのは納得できない
といった不安も根強いです。
しかし誠実に現状把握し、「短期的には数字が厳しいが、中長期的にこれだけ改善できる」と伝えることで、積極的なパートナーとして評価されるケースも増えています。
バイヤーもまた「現場の実情の壁」を理解し、Win-Winとなる現実解の模索が重要です。
アナログ業界にこそ根付くべき「学習する組織文化」
昭和型の属人的・アナログ業界において、スコープ3削減対応は「数字合わせ」だけでは根付きません。
・小さな目標設定と改善事例を全社で共有
・若手・ベテラン混成チームで新たな改善策に挑戦
・業界の枠を越えた勉強会・情報交換の場を設ける
・失敗やトラブルも率直に共有し、知見化する
こういった「学習する組織文化」こそが、脱炭素の大波を生き抜く真の力となります。
まさに現場で苦労してきたからこそ、こうしたアプローチは説得力を持ちます。
まとめ:スコープ3対応は未来への「企業体質強化」
製造業のスコープ3対応は単なる流行や一過性の負担ではありません。
むしろ、自社の強み作り・市場競争力の確保・新規取引参入の不可欠な一手です。
調達購買や生産管理、現場改善・DX導入・サプライヤー連携など、あらゆる現場実践の積み重ねが、大きな成果につながります。
本記事をきっかけに、目の前の小さな一歩からスコープ3対応に取り組み、会社と業界全体の発展につなげて頂ければ幸いです。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)