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プリント基板設計の手戻りを防ぐ実践チェックポイント

目次
はじめに:変革期を迎えるプリント基板設計の現場
現代の製造業は、デジタル化・自動化が進む一方で、いまだに昭和時代からのアナログな習慣や属人的なノウハウが色濃く残る現場も多く見受けられます。
とりわけプリント基板(PCB)設計は、高度な専門性と経験が物をいう分野です。
しかし設計段階での「手戻り」が頻発してしまえば、納期遅延やコスト増、サプライチェーン全体の混乱を招き、現場の士気にも影響します。
この記事は、長年製造現場で培ってきた視点から、プリント基板設計における手戻りを防ぐ実践的なチェックポイントを詳しく解説します。
バイヤーを目指す方や、サプライヤーとしてバイヤーの心理を知りたい方にも役立つ内容としています。
プリント基板設計で「手戻り」が多発する背景
まず、「手戻り」とはどんな場面で発生するのか。
現場経験から見ると、手戻りの主な原因は以下に集約されます。
仕様の曖昧さと情報伝達ミス
設計仕様が曖昧なままプロジェクトがスタートすることは、いまだに多くの現場である「あるある」ではないでしょうか。
例えば「量産対応を想定していなかった」「クリアランスの社内基準が設計者ごとにバラバラ」「シルク印刷・部品配置の情報共有が不十分」などが典型です。
さらに海外拠点とのコミュニケーションが英語で統一されていなかったり、図面や仕様書が細分化(サイロ化)されている場合にも、手戻りのリスクが一気に高まります。
工程間コミュニケーションの断絶
設計部門・生産技術部門・品質管理部門など、各セクションで最適化が進みすぎ、全体最適が失われているケースも少なくありません。
どれほど優秀な設計者でも、現場の製造装置や実装工程を実際に見なければ、微妙な段取りやノウハウまでは把握できません。
これが手戻りの根本的な原因となっています。
古い設計ツールと属人化
未だに紙図面やFaxによるやり取りが残っていませんか?
いくつかの現場では、30年前のCADソフトを使い続けている例もあります。
また、特定エンジニアの「勘と経験」頼りの体制も、手戻りリスクを増す要素の一つです。
部材・部品の調達リスク
サプライヤーの視点からすると、設計変更が後工程に波及し、市場在庫の枯渇部品やEOL(End Of Life)部品の採用が最後まで見落とされることも悩みの種です。
設計の初期段階で、部品調達部門との協議が徹底されていなければ、調達難による手戻りは避けられません。
昭和型アナログ製造業の現実と業界動向
製造業界ではデジタル変革(DX)が叫ばれていますが、現実には「失敗できない精神」「阿吽の呼吸」という日本独自の文化が根強く残ります。
失敗を恐れて仕様書を決定しきれず、情報共有を「口伝え」で済ます。
手戻りを人海戦術で取り繕う。
しかし、ますます複雑・多様化する製品要求やグローバル市場では、こうした旧態依然のやり方が限界を迎えています。
今後も成長を続ける企業には、「品質第一」だけでなく、「設計段階からの組織的な手戻り削減」が強く求められているのです。
現場目線で実践!プリント基板設計の手戻り防止チェックポイント
ここからは、筆者の実体験に基づき、現場レベルで実践できるプリント基板設計の手戻り防止ポイントを体系的に紹介します。
(1)設計キックオフ時の情報整理
1.1 最初の30分で「5つのW1H」明確化
設計チームが集まるキックオフ会議の最初の30分は、「誰が、何を、いつまでに、どのレベルで、どのような方法で、なぜ行うのか」を徹底的に洗い出しましょう。
ありがちな「おそらく」「たぶん」「いつも通り」というあいまいな表現を排除し、全員が共通認識を持つことがとても大切です。
1.2 部品サプライヤーも巻き込んだ事前レビュー
初期段階から調達部門やサプライヤーも参加し、「今、この回路・レイアウトで本当に部品が揃うのか?」を具体的にVOC(Voice of Customer)として議論します。
部品選定は予備品も含め2~3社で比較し、BOM(部品表)が漏れなく妥当か現物を目で見て確認しましょう。
EOLや納期遅延のリスクをチェックすることで、調達トラブルに起因する手戻りが激減します。
(2)設計データ・図面の標準化と見える化
2.1 データフォーマットの統一
設計部門が複数ある場合、CADデータや図面フォーマットの違いが手戻りの温床になります。
会社全体で「必ずこの形式」「保存ルールはこう」「部品番号の付け方はこれ」と、データ標準を設けましょう。
もし既存の標準がバラバラなら、現状分析から始め、「どこにどんな不具合が起きているか」棚卸しするクセをつけることが、手戻り撲滅の第一歩となります。
2.2 シンプルな「伝言ゲーム」は絶対禁止
一番危ないのは、上司—中間管理職—作業者—サプライヤーの「言葉のみ」で伝えられる設計変更です。
ローカルルールや暗黙知に頼るのではなく、「設計変更は必ず文書化」「手順書で誰でも追跡できる体制」をつくりましょう。
(3)現場のフィジカルレビュー(実物確認)の徹底
3.1 実物モックアップレビューを設計段階で導入
紙図面とCADデータだけでなく、簡易的なモックアップ(3Dプリンター、紙や段ボールでもOK)で配置や配線の実際がどうなるかを必ず「目視」しましょう。
現場で実際に「触れて、合わせて、確かめる」ことで、パターンの設計ミスや配置間違いが早期発見できます。
3.2 工場側エンジニアとのクロスチェック
設計部門が作ったデータを一度、現場の生産技術や品質管理担当と一緒にレビューする「クロスチェック会議」を設けましょう。
今後はオンラインレビューの活用も重要ですが、「それぞれの職種からの視点が揃うこと」で、従来の『見過ごし』や『思い込み』を防ぎます。
(4)自動化・DXツールの段階的導入
4.1 属人的な業務の撲滅を目指す
手戻りの8割は「人間系ミス」に起因します。
DXツール(自動見積り、BOMチェック、設計妥当性検証ソフト)の導入は、最初は投資がかかりますが、長期的には情報の属人化や作業抜け漏れを防ぎます。
段階的な自動化で、設計~製造~検査部門がシームレスに情報共有できる体制を目指しましょう。
4.2 デジタル活用の落とし穴:現場教育との両立
日本の製造業現場には、シニア世代を中心に「デジタル嫌い」の空気が残っています。
新ツール導入で情報が逆に分断される事例も散見されます。
必ず、現場を巻き込んだ「体験型の研修」や「シャドーイング(OJT)」を同時に実施しましょう。
(5)手戻り要因の「なぜなぜ分析」徹底
5.1 手戻り発生時は「犯人探し」で終わらせない
手戻りトラブルが起きた際、つい担当者を責めて終わりがちですが、それでは本質的な改善にはなりません。
「なぜ、いつ、どこで、どのフローで、どうして発生した?」という『なぜなぜ分析』を必ず全員で実施しましょう。
指摘しやすい雰囲気づくりと組織的な仕組み改善が、本当の手戻り削減につながります。
サプライヤー・バイヤー視点で分かる「裏の心理」
設計現場の“困りごと”と同時に、バイヤーやサプライヤーがどう考えているかも知っておくことが重要です。
バイヤーのホンネ
・「計画がある程度固まってから発注したいが、設計変更に付き合わされやすい」
・「納期遵守だけでなく、現場で突発的に生じた課題にも柔軟対応してほしい」
・「サプライヤーにも設計段階からコスト意識やリスク分析をしてほしい」
サプライヤー側のホンネ
・「設計が固まっていない状態で急な部材調達を求められると困る」
・「イレギュラー案件が頻出し、仕様追加や変更で利益が出にくい」
・「密な情報共有と事前レビューがあれば、より提案型の対応ができる」
このように、お互いが本当に欲しいのは「先回りしたコミュニケーション」と「外部環境も織り込んだうえでの安定供給(安全・安心)」という点です。
まとめ:現場発のイノベーションが日本の製造業を強くする
プリント基板設計の手戻り削減は、単なる「ミスゼロ運動」や「チェックリスト化」だけでなく、設計技術・現場オペレーション・組織力を統合した全体最適の追求が鍵です。
昭和型アナログ精神のいい面(現場の粘り強さ、細やかな気配り)を活かしつつ、最新の標準化・デジタル化を融合させることが、競争力あるものづくりを実現します。
明日から現場で実践できるチェックリストを持ち、部門間・会社間でオープンマインドな情報共有を進めましょう。
それこそが、製造業の“昭和”から“令和”への大きな進化の一歩なのです。
今後も皆さんと一緒に、日本の製造現場を元気にするノウハウを発信してまいります。
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