投稿日:2025年6月16日

ヒューマンエラーの未然防止と対策への活かし方実践講座

はじめに:ヒューマンエラーと製造業の切っても切れない関係

ヒューマンエラーは、製造業の現場において常につきまとう課題です。
自動化やデジタル化が進む現代においても、人の手が加わる工程が完全になくなるわけではありません。
むしろ人的作業が減少するからこそ、そこに残るミスは目立ちやすく、全体へのインパクトも大きくなりがちです。

今回は、私が20年以上にわたり実際の工場現場で経験した知見と、現場目線の課題認識をベースに、ヒューマンエラーの未然防止と活用術について実践的に解説します。
特に調達購買、生産管理、品質管理など多くの部署で役立てていただける内容です。
また、サプライヤーやバイヤーの立場からも「現場で本当に必要とされている未然防止策」について具体的に考えてみたいと思います。

ヒューマンエラーの基本的なメカニズムと特徴

ヒューマンエラーの主なタイプ

ヒューマンエラーは大きく分けて「スリップ(うっかりミス)」と「ミステイク(判断ミス)」に分類されます。
スリップは、手順自体は理解していても、集中力の低下や慣れから思わず起こしてしまう失敗です。
一方、ミステイクは、そもそも手順や状況判断そのものが間違っている場合に発生します。

なぜヒューマンエラーは起きるのか?

主な要因として、作業環境の悪化、認知過多、コミュニケーション不足、組織文化、マニュアルの不備など多岐にわたります。
昭和期から続くアナログ的な作業やルールが、現代の多品種変量生産や急速な仕様変更に追いついていないケースも多く見受けられます。

昭和から脱却できない現場文化とエラーの深層

「習慣」が生む落とし穴

日本の多くの製造工場では、「長年の慣習」や「阿吽の呼吸」に頼る場面がまだ多くあります。
ベテラン作業員のやり方が「暗黙知化」している場合、新人教育でそこを見落としてしまいエラーが生まれる原因となります。

「このくらい誰でも知っているだろう」「当たり前のこと」と思い込まず、全ての工程と作業方法を棚卸しし、見える化することが不可欠です。

人の善意が事故を招くこともある

「ちょっとした気配り」「急いでいるから手順をショートカット」など、いずれも現場を思う善意から生まれる行動が、逆に大きなヒューマンエラーに繋がる場合もあります。

安全遵守の徹底と、現場でなぜその手順が必要なのかをしっかり説明し納得してもらうこと。
これが円滑なエラー防止文化醸成の土台となります。

ヒューマンエラーを未然に防ぐ3つの実践ポイント

1. 「標準化」と「見える化」の共同作業

マニュアルや手順書を用意することが「標準化」ではありません。
「現場で誰でも再現できる方法で、しかも常に最新化されている」ことこそが本当の標準化です。
また、帳票類やチェックリストも単なる「作業の証拠」ではなく、意思決定やリスク察知にすぐ使える形にしておくことが重要です。

デジタルツールを活用して進捗や異常をリアルタイムで「見える化」すれば、現場・事務方・経営層まで迅速な情報共有が実現できます。

2. エラープルーフ(ポカヨケ)の現場流用

エラープルーフ、いわゆる「ポカヨケ」は日本発の発想ですが、今こそその概念を再度見直す時期です。
例えば「違う部品を取り付けてもはまらない設計」「特定の部品が無いと次工程に進めないシステム」など、アナログとデジタルを使い分けて効果的に活用しましょう。

重要なのは、現場作業者の「ちょっとしたうっかり」や「うまくいかなかったら察知できる」仕掛けをルーチン化することです。

3. 人材教育、チーム連携、現場力の底上げ

ヒューマンエラーの背景には、個人依存の業務や縦割り組織が存在します。
サイロ化した情報や職人気質が強すぎると、エラーが重大事故につながってしまいます。

だからこそ、水平コミュニケーションとOJTによる生きた教育が不可欠です。
経験値が異なる多世代が共存してこそ、新しい気づきや抜け漏れが見つかりやすくなります。

バイヤー・サプライヤーが知っておきたいヒューマンエラーへの視点

調達購買・バイヤーがエラー対策をどう捉えるか

バイヤーの立場として、サプライチェーン全体でヒューマンエラーを未然防止できるかは大きな評価ポイントです。
例えば、「この部品のコネクタは逆挿しできない設計です」「指定ロット管理がバーコード化されているので、抜け漏れがありません」といった仕掛けが提示できれば、自社の信頼性も格段に向上します。

仕様変更や納期短縮といったプレッシャーが発生しても、「現場がエラーを起こしづらい文化や仕組み=強いサプライヤー」を選ぶバイヤーが今後ますます増えていくはずです。

サプライヤーは「エラーに強い現場」をアピールしよう

一方サプライヤーとしては、自社の現場でどのようにヒューマンエラーの未然防止活動をしているか、具体的に説明できることが受注や信頼構築につながります。

・生産、検査、出荷工程での未然防止策
・過去発生したエラーと、その教訓を活かした改善事例
・部品など納入先での取扱いを簡単にする工夫(デジタル管理・色分け・形状工夫)

こうした取り組み事例の提出は、「単なるコスト勝負」から脱したサプライヤー選定に空気を変えるきっかけになります。

未然防止を根付かせるための組織運営5つのヒント

1. 「エラー報告=悪いこと」ではない雰囲気作り
エラーやヒヤリハットを自由に報告、話し合える環境を作ります。
叱責や問い詰めではなく、次につなげるプラス思考の体質改革が大事です。

2. 毎日現場で使い続ける「リアルマニュアル」の整備
フォーマットや手順だけでなく、現場からの改善提案が反映される「動的なマニュアル」を推進します。

3. シンプルな標語による意識喚起
「二度見・声掛け・指差し呼称」「一人で完了する仕事はゼロ」など、覚えやすいルールを掲げましょう。

4. 組織横断的なエラー事例の共有
調達、設計、生産、品質、物流の枠を超えて事例を共有し、「ウチだけのことじゃない」を実感させます。

5. エラー情報のデジタル化および再利用
エラー発生情報や事例をデータベースやチャットツールで蓄積。
AIや統計によるパターン分析も今後の強力な武器になります。

デジタル化・自動化時代の新しいヒューマンエラー対策

IoT×ヒューマンエラー防止

IoTセンサーやAIカメラを用いれば、現場の作業進捗や異常の「見える化」が加速します。
例えば、「部品の入れ間違いをAIが検知する」「工程抜けや未検査品をIoTでリアルタイム通知」といった使い方が拡大中です。
ただし、導入ありきではなく「人のクセや心理を分析した上で、どの段階のエラーに有効か」を見極めて適材適所で使うことが大切です。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)で「人」の再定義

DXが進んだ現場こそ、「人間=最終判断者」「機械=ルーチン担当」という役割分担が重要になってきます。
人が判断する業務、機械がやるべき業務、それぞれの境界線を徹底的に洗い直しましょう。

DXの本当の価値は、「人にしかできない独自判断」や「現場力」を磨くことにフォーカスする点にあります。
単なるペーパーレスや自動化で満足せず、「人間の強みを発揮できる現場設計」に知恵を使いたいものです。

まとめ:ヒューマンエラー“ゼロ”で描く製造現場の未来

ヒューマンエラーは“ゼロ”にはできないものの、「起きても大ごとにならない」「必ず次に活かす」文化が根付けば、現場力やサプライチェーン全体の強靭化にもつながります。
そのためには、「人」と「仕組み」、アナログとデジタル、多様な立場や部門連携が不可欠です。

バイヤーとしてもサプライヤーとしても、「ヒューマンエラー未然防止への具体的な取り組み」を評価基準やプレゼンテーションに積極的に組み入れてください。
強い現場、強いサプライチェーンは日々の地道なエラー防止活動から始まります。

「人は間違うことがある」という前提を出発点としつつ、現場・サプライヤー・バイヤーみんなで協力し合い、新しい地平線を一緒に切り拓いていきましょう。

You cannot copy content of this page