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投稿日:2025年9月1日

B/Lのサレンダーとテレックスリリースを誤ると発生する滞船費を未然に防ぐ実務ガイド

B/Lのサレンダーとテレックスリリースを誤ると発生する滞船費を未然に防ぐ実務ガイド

はじめに:製造業サプライチェーンに潜む「見えないコスト」

製造業の現場では、日々大量の部品や原材料、完成品が国内外を問わず輸送されています。
そのグローバルな物流の中核を成すのが、船舶輸送におけるB/L(Bill of Lading: 船荷証券)です。
この地味だが極めて重要な書類の取り扱いひとつで、数十万円、時には百万円単位の「滞船費(Demurrage)」が発生するトラブルに発展してしまうことは、決して珍しいことではありません。

とりわけ、現場でありがちな「サレンダードB/L」と「テレックスリリース」の誤解。
長年製造業の現場を見てきた筆者ですが、これらのミスで卸先も現場も痛い目を見るケースが後を絶ちません。
昭和時代から根強く続くアナログな慣習すら影響するこの問題を、現場目線から深掘りし、実践的な解決策を提案します。

B/Lサレンダーとテレックスリリースの違い

サレンダードB/L(Surrendered B/L)とは、荷送人(シッパー)がB/L原本を船会社に返却し、原本なしでの貨物引き取りを可能にする手続きです。一方、テレックスリリース(Telex Release)とは、船会社が積地側の代理店から揚地側の代理店へ電子的に「B/L原本提示不要」と通知する方式で、いずれもOriginal B/Lの郵送を省略し、T/T送金ベースの取引やCIF・FOB条件下で迅速な貨物引き取りを実現する実務手法です。

サレンダードB/L vs テレックスリリース 比較表

比較項目 サレンダードB/L テレックスリリース
定義 荷送人がB/L原本を船会社へ返却し、原本不要で引き取り可能にする手続き 船会社が積地代理店から揚地代理店へ電子通知し、原本提示不要とする方式
手続き シッパーがB/L原本3通を船会社カウンターに返却し「SURRENDERED」スタンプを受領 シッパーが船会社にテレックスリリース依頼、船会社が揚地代理店へ電子連絡
原本の扱い 船会社に物理的に返却・回収される 原本は発行されないか、発行後に無効化処理
リスク 原本返却漏れ・タイミング遅延で揚地引き取り不可。L/C決済では原則使用不可 揚地代理店への通知遅延・情報伝達ミスによる引き取り不可。L/C取引では原則不可
所要日数 原本返却後1〜2営業日(国内取引・近海航路向き) 依頼から数時間〜1営業日(遠洋航路・時差がある取引で有利)
コスト 追加費用なし〜少額の事務手数料 船会社によりテレックスリリース手数料(USD 30〜100程度)が発生する場合あり
適用地域 日本・韓国・東南アジアで広く普及。中国内貿易でも一般的 欧米・中東・アフリカ向け遠洋航路で多用。グローバルに通用

B/Lとは何か?正しい理解がコスト削減の第一歩

B/L(船荷証券)の基礎知識

B/Lは、貨物の所有権を証明する書類です。
荷渡しの際、輸入者がこれを提示して初めて貨物を引き取ることができます。
B/Lには主に三つの形態があります。

  • オリジナルB/L(Original B/L)
  • サレンダードB/L(Surrendered B/L)
  • テレックスリリース(Telex Release)

この中で、現代の海上輸送では「紙のB/Lを国際メールや航空便で送受信し、発行者に返還する」という物理的なプロセスを簡略化するため、サレンダーやテレックスリリースを活用する場面が増えています。

サレンダードB/L・テレックスリリースの違いと現場の誤解

サレンダードB/Lとテレックスリリースは、どちらも「本来B/Lが必要なところを、電子的な通知や船会社の指示でB/L無しで貨物を引き取れる」方式です。
しかし、実務現場では微妙な扱いの違いがあるため、曖昧な理解のまま手続を進めるとトラブルの火種となります。

サレンダードB/L:輸出者(シッパー)がB/L原本を発行元に返却し、「B/L無しでOK」という指示(=サレンダー)を出してもらう方式。
テレックスリリース:サレンダーの指示自体を、船会社が現地代理店などに電報(telex)で連絡し、B/L無しで貨物引き取りOKという承認を与える方式。

両者はほぼ同義で使われることもありますが、船会社や地域によって手続きや必要書類が異なるケースがあるため、必ず現地代理店に事前確認しなければなりません。

アナログな慣習が招くリスク:なぜ滞船費が発生するのか

昭和のやり方が今も?サプライチェーン全体で陥りやすい罠

多くの製造現場では、購買担当者が忙しい業務の合間に輸入実務も兼任しています。
商社経由の取引やベテラン物流担当者による「いつものやり方」に頼り切り、B/Lの最新運用ルールや各港での実情にまで目が行き届かないことも少なくありません。

輸送リードタイムが極限まで短縮されている昨今、「B/L原本が届かない」「サレンダー指示の連絡が遅れる」「現地代理店がテレックスリリース情報を受け取っていない」など、ごく些細なミスが、港での「貨物引き取り待ち=滞船費」の発生に直結します。

滞船費(Demurrage)とは?現場が知るべきコスト構造

滞船費(デマレージ)は、決められた港でのフリータイム(一定期間)を超えて貨物が引き取られない場合に発生する追加費用です。
この金額はコンテナ1本当たり1日数千円~数万円に上ることもあり、数日遅れるだけで大きな損失となります。

サプライチェーンを司るバイヤーや調達・物流部門が「デマレージ費用は経費だから仕方ない」と片付けてしまう場合、現場でのコスト意識が希薄になり、本来回避できる損失を毎年反復してしまうのです。

調達購買・物流担当者が知るべきデマレージのコストインパクト

  • デマレージ(滞船費)はフリータイム超過後1日あたり20フィートコンテナで5,000〜15,000円、40フィートで10,000〜30,000円が一般的な相場であり、1週間の遅延で7万〜21万円のコスト増となる
  • CIF条件では荷受人(バイヤー)側に引き取り責任があるため、B/L処理遅延のリスクは直接購買コストに跳ね返る
  • FOB条件でも揚地での通関・引き取り手続きはバイヤー負担となるケースが大半で、サレンダー/テレックスリリースの確認漏れは即座にデマレージ発生要因となる
  • L/C(信用状)決済の場合はOriginal B/Lが銀行経由で必要なため、サレンダー・テレックスリリースは原則使用不可。決済条件とB/L処理方式の整合性チェックが必須

トラブル事例:見逃しがちな「B/L取り違え」の現実

実際に多い「手続き遅延」のケース

-中国のサプライヤーから輸入した部品で、現地担当者がB/Lサレンダーを完了したと思い込んでいたが、実際は原本B/Lで送付されていたため、日本で貨物が通関できず1週間コンテナヤードに置きっぱなし。
-海外の代理店がテレックスリリースの通知を受信したものの、港の現場スタッフまで情報が行き渡っておらず、通関業者がB/L不備と判断してストップ。

このような「ちょっとした確認不足」が、納期遅延や不要な滞船費用発生の元凶です。

現場で起こり得る混乱の連鎖

B/Lの取り扱いに誤ると、実際には以下のような悪影響が連鎖的に発生します。

  • 物流会社→工場への納期遅延連絡とトラブル対応で業務負荷増加
  • 現地サプライヤーとの責任のなすり付け合い
  • 経理部門から「なぜこんなコストが発生するのか?」と管理職への問い詰め
  • 現場現物の不足による生産ラインの停止、納入先への言い訳対応

これは単なる物流上のミスにとどまらず、顧客信頼の失墜、サプライチェーン全体の再編リスクにも発展しかねません。

主要港・コンテナ種別ごとのデマレージ・ディテンション費用目安

港湾/地域 フリータイム 20ft Dry/日 40ft Dry/日 40ft Reefer/日
東京・横浜 4〜5日 ¥5,000〜8,000 ¥10,000〜16,000 ¥18,000〜25,000
大阪・神戸 4〜5日 ¥5,000〜7,000 ¥10,000〜14,000 ¥16,000〜22,000
上海・寧波 7〜10日 USD 30〜60 USD 60〜100 USD 100〜150
釜山・仁川 5〜7日 USD 25〜50 USD 50〜80 USD 80〜120
シンガポール・バンコク 3〜5日 USD 40〜80 USD 70〜130 USD 120〜180
ロッテルダム・ハンブルク 5〜7日 EUR 30〜60 EUR 60〜100 EUR 100〜160
ロサンゼルス・ロングビーチ 4〜5日 USD 75〜150 USD 150〜275 USD 200〜350

※上記は2025〜2026年の一般的な相場目安。船会社・契約条件・時期により変動します。ディテンション(コンテナ返却遅延料)は別途発生する場合があります。

業界の「昭和的アナログ」から脱却せよ:根本的な防止策

誰もができる「仕組み化」の大切さ

サレンダーやテレックスリリースがミスなく運用されている現場の共通点は、一人の担当者への属人化を避け、必ず「手順書」と「ダブルチェック制度」を導入している点です。

-海外サプライヤー側のB/L発行条件・提出期限を明文化
-担当者間でサレンダーおよびテレックスリリース指示内容の確認表(チェックリスト)を共有
-国内の通関業者やフォワーダー、現地代理店とも「誰が・いつ・何を・どこへ」送付したか進捗管理

これらはどれも特別なIT投資や新システムが不要な、業務プロセスの見直しだけで実現できます。

トラブル防止の実務ポイント

  1. 船積み前にB/L処理方式を合意する — T/T送金ならサレンダーorテレックスリリース、L/C決済ならOriginal B/Lを明確に。P/O(注文書)に記載する
  2. サレンダー完了の確認書(メール)を船会社から取得 — 「SURRENDERED」スタンプのコピーまたは完了通知メールを保存。口頭確認は不可
  3. テレックスリリースは揚地代理店への到達を確認 — 依頼だけで安心せず、揚地側のフォワーダーまたは通関業者に「リリース通知受領済み」を確認する
  4. ETA(到着予定日)の5営業日前までにB/L処理を完了させる — 近海航路(中国・韓国・東南アジア)は船積み後すぐ着くため、出港日にサレンダー手続きを開始する
  5. フリータイムの日数を事前に確認・交渉する — 主要港のフリータイムは通常3〜7日だが、船会社やコンテナの種類により異なる。必要に応じてフリータイム延長を交渉
  6. B/L処理チェックリストを社内共有し、担当者の休暇時も引き継ぎ可能にする — 属人化が最大のリスク要因

情報のサイロ化を防ぐには?部門間の壁の打破

アナログ業界の残る「縦割り」の風土が、混乱の元です。
調達・生産・物流・経理それぞれが「自分たちの業務範囲」を正確に理解し、人任せにせず相互に協力する。
たとえば、調達部門がB/Lの原本にサイン・判子を押すだけでなく、「サレンダーorテレックスリリースがどのタイミングで行われたか」を共有会議で速報するなど、クロスファンクショナルな情報連携が不可欠です。

バイヤー、現場担当者、そしてサプライヤーへ伝えたいこと

バイヤーの視点:リスクヘッジとして「確認フロー」を徹底

購買・バイヤーは、価格交渉や納期管理ばかりでなく、B/Lの最終処理まで責任を持つべきです。
とくにサレンダー・テレックスリリースの運用では、「輸出地から書類が届くまでの全プロセス」に対して、どこかで予期せぬ滞船リスクが潜んでいないか自分の目でチェックしましょう。

見積もり段階で「滞船費が発生した場合のコスト負担区分」も契約書に明記する。
これが製造業バイヤーの新しいスタンダードです。

B/L処理方式の選択フローチャート

判断基準 Original B/L サレンダードB/L テレックスリリース
決済条件 L/C(信用状)取引 ★必須 T/T(電信送金)・D/P・D/A T/T(電信送金)・D/P・D/A
航路/リードタイム 長距離(原本郵送に余裕あり) 近海(中国・韓国・東南アジア)★推奨 遠洋(欧米・中東・アフリカ)★推奨
取引先との信頼度 初回取引・信用リスクが高い 継続取引・信頼関係構築済み 継続取引・信頼関係構築済み
貿易条件(Incoterms) CIF・CFR(B/L原本で権利移転) FOB・EXW(バイヤー手配で迅速処理) FOB・CIF(時差対応で迅速処理)
貨物の転売可能性 洋上転売あり ★必須 転売予定なし 転売予定なし
揚地の制度対応 全港湾で有効 日本・アジア圏で広く受容 グローバルに通用(ただし一部新興国で要確認)

サプライヤー側の立場:バイヤーの痛みを理解せよ

自社がサプライヤーの立場であっても、バイヤーが抱えるリスク意識を理解し、B/L発行やサレンダーフローを迅速・正確に行う姿勢が信頼構築に繋がります。
「納期確約ですが、B/Lの作業ミスで再び納期遅延」が重なると、いずれバイヤー自身が取引先を変えることは現場でよくある実話です。

実践的なコツ・Q&Aと今後の展望

忙しい現場でいますぐチェックすべきポイント

  • B/L種別(原本・サレンダー・テレックスリリース)、発行状況を日次で可視化する
  • 通関業者や船会社との連絡窓口を明確化、休暇中の担当交代をルール化
  • B/L取り違いや遅延フォローの「緊急時連絡網」を社内外で整備

業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)はここから始まる

今後、B/Lの電子化(e-B/L)が進めば更なる効率化が期待できますが、現実には「紙文化」や「現場の慣習」がすぐには変わりません。
だからこそ、まず現場担当者による「小さな意識改革」から始め、ITと標準化プロセスを並走させましょう。

まとめ:B/Lの地味な管理は、企業競争力を支える

B/Lサレンダー・テレックスリリースは、サプライチェーンの中で軽く見られがちですが、滞船費という「目に見える損失」の種です。
現場目線で地道にプロセスを仕組み化し、サプライヤーとバイヤーが相互理解のもと一体となってリスク負担とコスト低減に取り組むこと。
これが、アナログ業界の「昭和的失敗」に終止符を打ち、製造業のグローバル戦略を強化する最短の道なのです。

現場から管理職まで、全員でB/L管理の見直しを進め、日本のものづくりサプライチェーンを「強く、しなやかに」進化させましょう。

B/L処理チェックリスト(デマレージ防止)

発注時 — P/O(注文書)にB/L処理方式(サレンダー/テレックスリリース/Original)と決済条件(T/T/L/C)を明記
船積み確認時 — B/Lドラフトの記載内容(荷受人・通知先・貨物明細)を確認。誤記があればアメンド依頼
出港後即日 — サレンダー手続き開始またはテレックスリリース依頼。近海航路は出港日中に完了を目指す
手続き完了確認 — 船会社からのSURRENDERED確認書または揚地代理店のテレックスリリース受領確認を取得
ETA 3日前 — 通関業者・フォワーダーにB/L処理済みを連絡。必要書類(インボイス・パッキングリスト・保険証券等)の送付を完了
入港日 — D/O(Delivery Order)発行を確認。フリータイム開始日を記録し、社内カレンダーに期限をセット
引き取り完了 — コンテナ搬出・返却完了日を記録。フリータイム内での引き取りを確認し、デマレージ・ディテンション発生の有無をチェック

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