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B/Lのサレンダーとテレックスリリースを誤ると発生する滞船費を未然に防ぐ実務ガイド

目次
B/Lのサレンダーとテレックスリリースを誤ると発生する滞船費を未然に防ぐ実務ガイド
はじめに:製造業サプライチェーンに潜む「見えないコスト」
製造業の現場では、日々大量の部品や原材料、完成品が国内外を問わず輸送されています。
そのグローバルな物流の中核を成すのが、船舶輸送におけるB/L(Bill of Lading: 船荷証券)です。
この地味だが極めて重要な書類の取り扱いひとつで、数十万円、時には百万円単位の「滞船費(Demurrage)」が発生するトラブルに発展してしまうことは、決して珍しいことではありません。
とりわけ、現場でありがちな「サレンダードB/L」と「テレックスリリース」の誤解。
長年製造業の現場を見てきた筆者ですが、これらのミスで卸先も現場も痛い目を見るケースが後を絶ちません。
昭和時代から根強く続くアナログな慣習すら影響するこの問題を、現場目線から深掘りし、実践的な解決策を提案します。
B/Lとは何か?正しい理解がコスト削減の第一歩
B/L(船荷証券)の基礎知識
B/Lは、貨物の所有権を証明する書類です。
荷渡しの際、輸入者がこれを提示して初めて貨物を引き取ることができます。
B/Lには主に三つの形態があります。
- オリジナルB/L(Original B/L)
- サレンダードB/L(Surrendered B/L)
- テレックスリリース(Telex Release)
この中で、現代の海上輸送では「紙のB/Lを国際メールや航空便で送受信し、発行者に返還する」という物理的なプロセスを簡略化するため、サレンダーやテレックスリリースを活用する場面が増えています。
サレンダードB/L・テレックスリリースの違いと現場の誤解
サレンダードB/Lとテレックスリリースは、どちらも「本来B/Lが必要なところを、電子的な通知や船会社の指示でB/L無しで貨物を引き取れる」方式です。
しかし、実務現場では微妙な扱いの違いがあるため、曖昧な理解のまま手続を進めるとトラブルの火種となります。
–サレンダードB/L:輸出者(シッパー)がB/L原本を発行元に返却し、「B/L無しでOK」という指示(=サレンダー)を出してもらう方式。
–テレックスリリース:サレンダーの指示自体を、船会社が現地代理店などに電報(telex)で連絡し、B/L無しで貨物引き取りOKという承認を与える方式。
両者はほぼ同義で使われることもありますが、船会社や地域によって手続きや必要書類が異なるケースがあるため、必ず現地代理店に事前確認しなければなりません。
アナログな慣習が招くリスク:なぜ滞船費が発生するのか
昭和のやり方が今も?サプライチェーン全体で陥りやすい罠
多くの製造現場では、購買担当者が忙しい業務の合間に輸入実務も兼任しています。
商社経由の取引やベテラン物流担当者による「いつものやり方」に頼り切り、B/Lの最新運用ルールや各港での実情にまで目が行き届かないことも少なくありません。
輸送リードタイムが極限まで短縮されている昨今、「B/L原本が届かない」「サレンダー指示の連絡が遅れる」「現地代理店がテレックスリリース情報を受け取っていない」など、ごく些細なミスが、港での「貨物引き取り待ち=滞船費」の発生に直結します。
滞船費(Demurrage)とは?現場が知るべきコスト構造
滞船費(デマレージ)は、決められた港でのフリータイム(一定期間)を超えて貨物が引き取られない場合に発生する追加費用です。
この金額はコンテナ1本当たり1日数千円~数万円に上ることもあり、数日遅れるだけで大きな損失となります。
サプライチェーンを司るバイヤーや調達・物流部門が「デマレージ費用は経費だから仕方ない」と片付けてしまう場合、現場でのコスト意識が希薄になり、本来回避できる損失を毎年反復してしまうのです。
トラブル事例:見逃しがちな「B/L取り違え」の現実
実際に多い「手続き遅延」のケース
-中国のサプライヤーから輸入した部品で、現地担当者がB/Lサレンダーを完了したと思い込んでいたが、実際は原本B/Lで送付されていたため、日本で貨物が通関できず1週間コンテナヤードに置きっぱなし。
-海外の代理店がテレックスリリースの通知を受信したものの、港の現場スタッフまで情報が行き渡っておらず、通関業者がB/L不備と判断してストップ。
このような「ちょっとした確認不足」が、納期遅延や不要な滞船費用発生の元凶です。
現場で起こり得る混乱の連鎖
B/Lの取り扱いに誤ると、実際には以下のような悪影響が連鎖的に発生します。
- 物流会社→工場への納期遅延連絡とトラブル対応で業務負荷増加
- 現地サプライヤーとの責任のなすり付け合い
- 経理部門から「なぜこんなコストが発生するのか?」と管理職への問い詰め
- 現場現物の不足による生産ラインの停止、納入先への言い訳対応
これは単なる物流上のミスにとどまらず、顧客信頼の失墜、サプライチェーン全体の再編リスクにも発展しかねません。
業界の「昭和的アナログ」から脱却せよ:根本的な防止策
誰もができる「仕組み化」の大切さ
サレンダーやテレックスリリースがミスなく運用されている現場の共通点は、一人の担当者への属人化を避け、必ず「手順書」と「ダブルチェック制度」を導入している点です。
-海外サプライヤー側のB/L発行条件・提出期限を明文化
-担当者間でサレンダーおよびテレックスリリース指示内容の確認表(チェックリスト)を共有
-国内の通関業者やフォワーダー、現地代理店とも「誰が・いつ・何を・どこへ」送付したか進捗管理
これらはどれも特別なIT投資や新システムが不要な、業務プロセスの見直しだけで実現できます。
情報のサイロ化を防ぐには?部門間の壁の打破
アナログ業界の残る「縦割り」の風土が、混乱の元です。
調達・生産・物流・経理それぞれが「自分たちの業務範囲」を正確に理解し、人任せにせず相互に協力する。
たとえば、調達部門がB/Lの原本にサイン・判子を押すだけでなく、「サレンダーorテレックスリリースがどのタイミングで行われたか」を共有会議で速報するなど、クロスファンクショナルな情報連携が不可欠です。
バイヤー、現場担当者、そしてサプライヤーへ伝えたいこと
バイヤーの視点:リスクヘッジとして「確認フロー」を徹底
購買・バイヤーは、価格交渉や納期管理ばかりでなく、B/Lの最終処理まで責任を持つべきです。
とくにサレンダー・テレックスリリースの運用では、「輸出地から書類が届くまでの全プロセス」に対して、どこかで予期せぬ滞船リスクが潜んでいないか自分の目でチェックしましょう。
見積もり段階で「滞船費が発生した場合のコスト負担区分」も契約書に明記する。
これが製造業バイヤーの新しいスタンダードです。
サプライヤー側の立場:バイヤーの痛みを理解せよ
自社がサプライヤーの立場であっても、バイヤーが抱えるリスク意識を理解し、B/L発行やサレンダーフローを迅速・正確に行う姿勢が信頼構築に繋がります。
「納期確約ですが、B/Lの作業ミスで再び納期遅延」が重なると、いずれバイヤー自身が取引先を変えることは現場でよくある実話です。
実践的なコツ・Q&Aと今後の展望
忙しい現場でいますぐチェックすべきポイント
- B/L種別(原本・サレンダー・テレックスリリース)、発行状況を日次で可視化する
- 通関業者や船会社との連絡窓口を明確化、休暇中の担当交代をルール化
- B/L取り違いや遅延フォローの「緊急時連絡網」を社内外で整備
業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)はここから始まる
今後、B/Lの電子化(e-B/L)が進めば更なる効率化が期待できますが、現実には「紙文化」や「現場の慣習」がすぐには変わりません。
だからこそ、まず現場担当者による「小さな意識改革」から始め、ITと標準化プロセスを並走させましょう。
まとめ:B/Lの地味な管理は、企業競争力を支える
B/Lサレンダー・テレックスリリースは、サプライチェーンの中で軽く見られがちですが、滞船費という「目に見える損失」の種です。
現場目線で地道にプロセスを仕組み化し、サプライヤーとバイヤーが相互理解のもと一体となってリスク負担とコスト低減に取り組むこと。
これが、アナログ業界の「昭和的失敗」に終止符を打ち、製造業のグローバル戦略を強化する最短の道なのです。
現場から管理職まで、全員でB/L管理の見直しを進め、日本のものづくりサプライチェーンを「強く、しなやかに」進化させましょう。
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