投稿日:2025年6月27日

熱設計に必要な伝熱計算と熱回路網を活用した放熱対策の実践ノウハウ

はじめに 〜熱設計の重要性と業界事情〜

製造業の現場において、製品の品質や信頼性を左右する大きな要素の一つが熱設計です。

デジタル変革(DX)やスマートファクトリー化が叫ばれる一方、実際の工場現場では未だに多くの工程でアナログな試行錯誤が繰り返されています。

特に熱にまつわるトラブルは、試作段階や現場立ち上げでは「現物あわせ」や「経験則」のみで解決を図られることも少なくありません。

ですが、製品の高機能化や小型化が進み、電子機器を中心に熱流束が劇的に増加している現代では、
正確な伝熱計算や熱回路網を活用した論理的な放熱対策は、もはや品質確保の根幹技術と言えます。

本記事では、熱設計の現場で本当に役立つ実践ノウハウについて、現場目線から分かりやすく解説します。

また、バイヤー職を目指す方、サプライヤーでバイヤー視点を学びたい方にとっても、調達や品質保証の観点から熱問題をどう捉え、対策立案に活かすかのヒントを提供します。

なぜ今、伝熱計算と熱回路網が重要なのか

従来型アナログ設計の限界

かつて日本の製造業を支えた「職人技」や「現場勘」は大きな強みでした。

しかし、グローバル競争や海外協力工場との連携が進む中、再現性や標準化の観点から、こうした属人的な手法だけでは立ち行かなくなる場面が増えています。

「なぜコンデンサーだけ頻繁に壊れるのか」「なぜ樹脂筐体だけ局所的に変色するのか」―

こうしたトラブルを根本から解決するには、物理法則に基づいた伝熱計算や、論理的な熱流路の解析が不可欠なのです。

DX時代の調達・管理職が押さえるべき視点

製品コストダウンやサプライチェーンの最適化を担う調達購買、工程設計や生産性向上を指揮する現場管理職にとっても、
熱設計は「他人事」ではありません。

例えば、コストダウン目的で冷却ファンを安価なものに切り替えた際、局所的な発熱がクリティカルなトラブルを引き起こした例は後を絶ちません。

現場ばかりでなく、調達担当者やサプライヤー視点でも、熱解析の基本的な知見が要求される時代となっています。

伝熱現象の基礎 〜三つの伝熱メカニズム〜

伝導(Conduction)

物体内部での熱の移動を「伝導」と呼びます。

例えば、基板上のICからアルミヒートシンクへと熱が伝わる現象です。

固体の熱伝導率や厚み、面積などからフーリエの法則(Q = kA(ΔT/L))で計算でき、熱管理設計の基礎中の基礎となります。

対流(Convection)

熱が流体(空気や液体)によって運ばれるメカニズムです。

電子制御盤内の局所的な「熱こもり」や、冷却ファンによる熱排出の効率に大きく関与します。

対流は自然対流(温度差で流体が自然に動く)と強制対流(ファン等で流体を動かす)に分かれ、ニュートンの冷却法則で評価します。

放射(Radiation)

物質が発する赤外線による熱移動です。

周囲環境温度が高い場合や筐体表面の温度が著しく変動する場合に重要なファクターとなります。

ステンレスやアルミなど素材の色や表面処理によって放射率が大きく異なる点に注意が必要です。

熱設計の流れ:実践的なステップバイステップ

①熱源の特定と発熱量の見積もり

まずは、どこで・どれだけの熱が発生するのかを特定します。

たとえばパワーICであれば、電圧・電流・効率から損失(発熱量)を計算できます。

このとき、単なる“データシートの値”でなく、実際の稼働条件や負荷パターンを加味することが実務では重要です。

②熱流路の把握とイメージ化

発熱源から周囲へ熱がどの経路で伝わり、どこに“通り道”や“詰まり”が発生しているのかを模式図(熱回路網)として描きます。

PCB→ヒートシンク→筐体表面→外気など、主要な伝熱経路とボトルネックを見逃さないことが肝要です。

③各伝熱経路の熱抵抗計算(熱回路網の活用)

熱回路網とは、熱移動の現象を電気回路と同じ方式(熱流=電流、熱抵抗=電気抵抗)でモデル化する解析手法です。

個々の部分(半導体〜PCB間、PCB〜ヒートシンク間、ヒートシンク〜外気間など)を熱抵抗(K/W)値で分け、合成して全体設計に落とし込みます。

熱回路網を用いることで、設計者のみならず関係部門(購買や品質部門)でも“論理で議論できる共通言語”が持てるのです。

④冷却方式の選定と最適化

自然空冷で良いのか、それとも強制空冷が必須なのか。

ヒートシンクの素材・形状・取り付け方法、周囲環境(密閉・開放・高温下など)も含めて総合的に判断します。

このとき、安易に「大型ヒートシンク」や「高価なファン」を投入するのではなく、熱回路網で算出した必要スペックに基づき合理的な最小構成を追求することが肝になります。

⑤熱対策の実装と効果検証

設計値だけで満足せず、必ず現場での温度測定(サーモグラフィや熱電対など)や、量産ラインでの再現性確認を行います。

ここで得られた実測値をフィードバックし、設計値との差や“現場固有のムリ・ムダ”に目配りすることが、熱トラブル撲滅への近道です。

熱回路網の作り方と、すぐ使える現場ノウハウ

熱回路網の基本型:串型と並列型を使い分ける

例えば、ICから基板へ、基板からヒートシンク経由で外気へ…という単一経路なら「シリーズ(串型)」接続が適用できます。

一方、例えばPCBの上下両面にヒートパスがある場合などは「パラレル(並列型)」で計算し、熱流が分散する分だけ合成熱抵抗が低減します。

この時、Excelや手書きで簡易的な「熱抵抗分布図」をつけて設計書に添付することで、開発や購買など多部門間で設計の意図を共有しやすくなります。

熱抵抗値の取得方法(理論値とカタログ値の使い分け)

部品単位の熱抵抗値は、材料ハンドブックや部品メーカーのカタログから取得できます。

一方、現場では周辺構造物や筐体取り付け方法による「実効値(実際の熱抵抗)」が大きく変わるため、余裕を持った設計値でシミュレーションしておくのがポイントです。

また、主要経路ごとに「最大熱抵抗値」と「最小熱抵抗値」を二通りで計算しておくと、実機立ち上げ時のばらつきにも即対応が可能です。

現場でよく効く、簡易な熱対策アイデア

ヒートシンクの材質を見直す、通風ダクト形状を改善する、熱伝導性パッドを追加するなどは定番ですが、しばしば意外な盲点として見落とされがちな点もあります。

たとえば、「基板取付ネジを熱伝導性が良い金属製に変えるだけで、局所温度が大幅に下がる」「マスキングテープの貼り位置ひとつで対流効率が変わる」など、小さな工夫の積み重ねが大きな効果を生み出します。

実際、経験則だけで済まそうとせず、必ず熱回路網にその効果を織り込み直してみましょう。

よくある現場トラブルと、その解決アプローチ

ケース1:設計通りなのに現場で放熱不足?

往々にして「設計値はクリアしていたが、現場配線や隣接部品が“熱ショート”を起こして局所的に温度上昇」ということがあります。

この場合、「熱的シールドの追加」「配線経路の最適化」「排気口の増設」などを混ぜて総合的に解決する必要があります。

ケース2:コストダウン部品で、熱バランス崩壊?

安易なヒートシンク・ファンの変更が全体バランスを崩し、かえって余計な補強工事やスペース確保にコストが膨らむ・・・。

こうした事案は、必ず「熱回路網で新旧案の比較評価」を事前に行い、調達選定時にバイヤー・エンジニア・現場の3者でリスク共有しておきましょう。

調達・購買・管理職が身につけたい熱設計の視点

調達担当(バイヤー)ならではのポイント

候補部品の熱抵抗値や放熱性能を正しく評価できる知見を持つことで、単純コスト比較から一歩進んだ総合バリュー評価が可能となります。

また、サプライヤーとの協議や折衝でも「熱という物理現象」を共通言語にすることで、理詰めで品質/コスト/納期バランスを最適化できる体制が築けます。

サプライヤーから見えるバイヤー像

熱設計に理解がある購買担当者は、ただ価格提示を待つだけでなく、「なぜこの放熱仕様が必要か」を共に考え、生産現場や最終エンドユーザーのための “価値創出”に貢献します。

サプライヤー側もこうした知見を持つことで、“丸投げ”のリスクを回避でき、共創的なパートナー関係を築きやすくなるのです。

まとめ 〜熱設計の深化が現場の働き方・調達変革をリードする〜

昭和から続くアナログ重視の現場文化と、デジタル時代の効率化要求――。

熱設計における伝熱計算と熱回路網の活用は、この両者をブリッジする強力な武器です。

単なる「温度トラブル撲滅」にとどまらず、「全員で論理的に最適解を導く現場力」と「技術を言語化してサプライチェーン全体へ波及させる調達力」の両輪で、製造業ならではの“知的現場力”を高めていきましょう。

本記事が、熱設計に悩むすべての方の“新たな地平線”となり、現場の変革・価値向上の一助になれば幸いです。

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