投稿日:2025年9月9日

電力系統運用に貢献する需要家機器活用法と経済性評価の実践ノウハウ

はじめに

製造業の現場において、近年ますます重視されているのが電力系統運用への貢献です。
この背景には、電力需要の変動に柔軟に対応する必要性や、政府主導の省エネ政策、さらにはカーボンニュートラルの流れなど、複数の社会的要因があります。
本記事では、工場・事業所で使われる「需要家機器」を活用した電力運用への貢献方法、そしてその経済性評価を、昭和由来の現場的視点も交えて実践的に解説します。
調達・購買部門はもちろん、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーがバイヤーの思考に迫りたい方にも役立つ内容です。

需要家機器とは何か? 製造業現場での役割

需要家機器の基本と位置づけ

需要家機器とは工場やオフィスなど「電力を消費する側」で使われるさまざまな生産・業務機器を指します。
代表的なものとしては、生産ラインのモーター、コンプレッサー、空調設備、冷凍機、LED照明、電気炉、自動搬送装置などが挙げられます。
従来、これらの機器は“消費するだけ”でした。
しかし、スマートファクトリー化やIoTの発展により、今や需要家機器は電力系統を「支える」主体にもなりました。

アクティブ需要家とは?

政府や電力会社は、負荷調整に協力的な需要家を「アクティブ需要家」と呼び歓迎しています。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)やデマンドレスポンス(DR)といった新技術によって、工場現場の機器群が一斉に“賢く”動くことで、地域や国全体の電力安定化を後押ししています。

電力系統運用へ貢献する需要家機器の活用パターン

デマンドレスポンス(DR)とその実際

DRとは、電力需給がひっ迫した際に電力会社の要請等に応じて、需要家側が消費電力量を一時的に減らす(または供給する)仕組みです。
工場では、「ピークシフト」「ピークカット」「バッファリング」などの手法が具体的に採られます。

たとえば、夏場にコンプレッサーの稼働タイミングを調整して総消費電力を抑える、空調設定温度を一時的に緩和する、大型冷凍庫の蓄冷能力を使って電力消費をオフピークタイムに移動する――といった運用です。

自家発電・蓄電池のシナジー

非常用やBCP(事業継続計画)観点から導入が進む自家発電設備(ディーゼル発電機、ガスコージェネ等)や蓄電池は、DR運用でも極めて有効です。
電力会社からの調整要請時に、これら“電力リソース”を活用することで生産活動への影響を最小限に抑えつつ、外部に対しては安定的なリソースとして提供することができます。

業界特有のアプローチ:昭和的「現場裁量」へのメス

日本の製造業は、今なお現場単位の属人化・職人技が生きる業界です。
「古い空調や圧縮機は壊れる前にフル稼働させよう」などの昭和的マインドからICT化シフトが進まず、リアルタイム最適運用に二の足を踏む現場も散見されます。
しかし、逆にこうした現場知見こそが、DR等の需給調整参加において、「どの号機を止めるべきか」「何分間なら対応できるか」といった意思決定に活きています。
IoTやAI導入の際は、現場ベテランの具体的な“癖”や“裏技”と新技術とを繋げるラテラルな思考が不可欠です。

需要家機器による電力系統貢献の経済性評価

経済的インセンティブの構造

DRに協力した企業には、契約内容や調整量に応じてインセンティブ報酬(kW/h単価)が提供されます。
加えて、自家発電や蓄電池を運用する場合には、ピークカットによる基本料金の圧縮、実質電力コストの低減といった「副次的効果」も生まれます。
その一方、DR対応による生産性低下リスクや、追加の設備投資・運用負担も無視できません。

評価モデルと現場的な試算ポイント

現場で重要なのは、机上のROI(投資回収率)だけでなく「現実に即した評価」だと考えます。
このため、以下の観点を重視しました。

  • 生産ライン・設備ごとの単位費用とインセンティブとの損益分岐点
  • 休止・出力制御による品質影響(不良率の変動・在庫過多の発生)
  • 労働者への負荷(再起動に伴う手間、残業や夜勤対応増加など人件費含む)
  • ピーク時の「やり繰りノウハウ」(現場判断・担当者スキルの平準化)

昭和的な現場文化が根付く会社の場合、新しいエネルギー管理ルールの導入には、「誰が号令をかけ」「現場がどのように受け入れるか?」というヒューマンファクターも加味する必要があります。

最新トレンド事例:需要家リソース活用の先端

VPP(バーチャルパワープラント)と製造業の国外事例

欧州や米国では、工場・ビル・家庭内の機器をインターネット経由で束ねて一つの“仮想発電所”として電力市場に参加するVPPの実証が進んでいます。
日本でも、2022年度以降、大手メーカーが空調制御や冷温水生成設備、電気炉などをVPPに活用しています。
この仕組みを導入した場合、企業は本業に支障をきたさずに新たな収益源を得ることが可能です。

サプライチェーン全体での横断的展開

先進的な製造業では、単独の工場単位だけでなく、サプライチェーン全体でのエネルギー最適化にも取り組んでいます。
バイヤーの立場からすると、調達先(サプライヤー)がどの程度エネルギー分散運用やDR対応に参加できるかは、調達先選定の新たな評価軸として注目されています。

現場実践に向けた導入ステップと成功のヒント

1. 現場ヒアリングの徹底

まずは「電気の見える化」だけでなく、実際にフロアで働く担当者やオペレーターの意見を徹底的に聞くことが大切です。
古い設備や独自改造マシンはデータ取得が困難です。
こうした現場特有の「困りごと」や「回避ノウハウ」も漏れなく洗い出しましょう。

2. 段階的な導入とPDCAサイクルの徹底

初期導入では、影響度が小さいラインや付帯設備から始め、習熟度・効果を見つつ段階的展開が肝要です。
また、経済性に関するPDCA(計画・実行・評価・改善)を現場・管理部門・経営層が一体で回す仕組みづくりがポイントです。

3. サプライヤー/バイヤー間の情報共有

サプライヤーとしては、需要家リソース活用に関する自社実績を積極的に発信し、バイヤーへ透明性ある情報提供を行うことが求められます。
バイヤー側も「環境負荷」「エネルギー柔軟性」を調達基準に組み込みつつ、サプライヤーの現場事情への理解を持つことで、Win-Winの関係構築ができます。

まとめ:昭和の現場知見×現代技術=新たな競争力

電力系統運用への貢献は、省エネやコスト削減という従来目標にとどまらず、「エネルギーを賢く使い、社会的責任を果たす」新たな企業価値の源泉となっています。
現場に根付いた経験や知恵をラテラルに活かし、最新の機器・IT技術や官民連携スキームと組み合わせることで、今後ますます厳しくなる外部環境にもフレキシブルに対応できるでしょう。

現場目線とマクロな視点を両立した“実践知”を持つことは、バイヤー・サプライヤー双方にとって大きな強みとなります。
製造業の未来をともに築く皆さまの一助となれば幸いです。

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