投稿日:2025年6月18日

クリーン化異物対策の実践ポイントとその事例

はじめに

製造業の現場において、「クリーン化」と「異物対策」は品質管理や顧客満足度の根本を支える非常に重要なテーマです。

昭和の時代から日本の製造業は“匠の技”と“現場力”に支えられてきましたが、グローバル競争、デジタル化の波、顧客要求の高度化に直面する現代では、そのあり方も大きく変容しています。

この記事では、20年以上の現場経験と経営視点を織り交ぜて、クリーン化と異物対策の実践ポイント、成功現場の具体事例を分かりやすく紹介します。

合わせて、今なおアナログ的体質が残る製造現場の課題や、業界の新たな動向にも踏み込み、バイヤー・サプライヤー双方の視点からも読み解きます。

クリーン化とは何か ~昭和的現場からの脱却~

クリーン化の本質と時代背景

クリーン化という言葉は、塵・埃・油分・微細な異物などを除去し、製造環境を清浄に保つ一連の活動を指します。

もともと半導体や医薬品、精密機器など、極めて高い清浄度を求められる業界で先行して発展してきましたが、自動車・食品・部品メーカーなど、あらゆる製造現場で重要視されています。

昭和の現場では「多少の埃、多少の油は当たり前」「異物なんて現場で落とせばいい、管理表なんて役人仕事」と見る向きもありました。

しかし現代の顧客は、グローバルで品質基準が統一されているだけでなく、SNSなどを通じて不具合や異物混入の情報が拡散される時代です。

もはや「現場任せ」「目視頼み」だけでは競争力を維持できません。

なぜ今、改めて「異物対策」なのか

「異物が入っている」だけで、企業の信用やブランドは大きく損なわれます。

特に以下3点が、現代の異物対策強化の背景です。

・グローバル顧客の「異物ゼロ」要求の高まり
・自働化・IoT化により、“見えない異物リスク”の増大
・不具合流出時の社会的影響が拡大(SNS炎上、リコールコスト)

企業間取引でも、クリーン化や異物対策の強化は「取引条件」に記載されるようになり、サプライヤー淘汰の明暗を分けかねません。

クリーン化・異物対策の実践ポイント

ポイント1:現場の“目線”と全員参加の基盤作り

クリーン化に失敗する現場の多くは、「担当者だけ」「掃除当番だけ」の“現場任せ”に終止しています。

工場内での清掃や異物除去は、「全員参加・全員当事者」であるべきです。

具体例:
・出社時、作業前には全員で5分間清掃
・個人ロッカーや持ち物の管理ルール明確化
・清掃・点検の結果を作業日報に記載、相互チェック体制

こうした「意識浸透」と真の実行力がなければ、どんなクリーン化施策も形骸化してしまいます。

ポイント2:異物発生源の“見える化”と重点管理

異物には多くの種類があります。

例えば、埃・糸くず・髪の毛・虫・工具の破片・切粉・油分・紙屑・ラベル片など。

これらは、
・人的要因(衣服、持ち込み物)
・設備要因(老朽化、潤滑油、塗装剥がれ等)
・材料要因(梱包、不適切な搬送、下請工程からの持込み)
など多岐にわたります。

まずは発生源ごとに「異物マップ」を作り、現場を歩いて“本当に異物がどこに発生しやすいのか”を洗い出しましょう。

3現主義(現場・現物・現実)を地で行くことが、根本的な対策に直結します。

ポイント3:五感+デジタルでの多重チェック体制

昭和世代にありがちな「目視で大丈夫」という油断は命取りです。

人間の感覚だけでは捉えきれない微細異物も存在します。

・異物検知用のLEDライト・ブラックライトによる照射
・エアシャワーやイオナイザーの活用
・AIカメラによる異物検出・画像監視
・定期的な異物付着の実態サンプリングとロギング

現場の五感と最新技術の併用こそが、“気づけなかった落とし穴”を防ぎます。

ポイント4:記録とフィードバック、PDCAの徹底

異物対策は一度やって終わり、という性質のものではありません。

・異物の発生件数(日報、異常報告)
・原因調査(部品、工程、人、時間帯別での分析)
・対策効果のモニタリング(前後比較、小集団活動)

これらをデータで“見える化”し、現場ミーティングや経営報告へフィードバックしていくことで、「なぜ発生したか」「どう改善したか」を全員参加型で共有できます。

これにより、現場の自信や誇りが培われ、クリーン化風土が育ちます。

現場でのクリーン化・異物対策事例

事例1:樹脂部品工場におけるエアシャワー導入とユニフォーム管理

某樹脂部品工場では、出入口・休憩室・更衣室の動線上にエアシャワーを設置し、直前の衣服からの異物付着をシャットアウト。

また、徹底したユニフォーム管理を実施し、個人所有の上着や私物を製造エリアに一切持ち込ませない仕組みを導入しました。

これにより、髪の毛・埃・糸くずなどの混入クレームが年間40件から3件まで激減し、主要自動車顧客の監査評価も大幅に向上。

作業者の異物意識も劇的に高まりました。

事例2:金属部品加工現場におけるIoTカメラ監視と即時アラート体制

微細な切粉、工具破損片による異物混入が絶えなかった現場。

ここでは、IoTネットワークカメラを各製造ラインに複数配置し、定期的に画像を自動キャプチャ。

AIアルゴリズムにより「いつもと違う」異物サインを素早く検知・警報化し、ラインストップや二次流出を未然防止。

従来は目視検査で見逃していた微細異物流出をほぼゼロに抑えることに成功し、バイヤー企業との信頼関係も強化できました。

事例3:食品製造工場でのパート従業員全員参加型の現場改善活動

パート・アルバイト比率が高く、“流れ作業”中心の食品工場で導入された取組みです。

毎月、現場ワーカー自ら「異物混入リスク」に気付いた事例をイラスト・付箋紙で掲示し、1週間以内に改善策を現場全員で検討。

また「ヒヤリ・ハット」の事例を可視化し続けることで、異物ゼロ運動が“やらされ感”ではなく“現場から出てくる改善活動”へ進化。

顧客クレーム数は3年で約90%減少し、従業員定着率の向上、現場の一体感形成にも寄与しました。

今後の異物対策動向とバイヤー・サプライヤー双方の視点

バイヤー(調達部門)が重視する「見えざるリスク」

調達部門は、サプライヤーを選ぶ際に「異物発生率」「クリーン化ルールの有無」「現場リーダーの管理レベル」などを細かくチェックしています。

特に最近では、監査対応だけでなく実際の現場取材で“日常の隙”を重視するバイヤーが増えています。

サプライヤー側は、現場作業者―中間管理職―経営層が一体となった“異物ゼロ本気度”を見せなければ、継続取引が危ぶまれる時代です。

アナログ体質の壁と、現場カルチャー変革の必要性

一部の中小製造業や、昭和型のベテラン現場では、「口頭指示」「慣習的掃除」「属人的清掃」に頼る例が今でも見受けられます。

こうした現場体質を少しずつ変革するには、
・デジタル化ツール導入(記録の自動化、監視カメラ、IoT清掃管理)
・若手/女性ワーカー参加による新風注入
・現場発の「なぜやるのか」の研修や共有会

がカギとなります。

クリーン化・異物対策を“業務”ではなく“文化”に変えていくこと。
トップダウンでもボトムアップでもなく、“全員参加型”で取り組むことで、根付くことができます。

まとめ:クリーン化・異物対策は現場力の未来である

クリーン化や異物対策は、単なる「掃除」「形式的な管理」ではありません。

製造業にとっては、競争優位性と顧客信頼の基盤を支える最重要業務の一つです。

昭和の“匠の技”と現代のデジタル技術、双方を活かした現場力が求められる時代。

バイヤー視点では、「流出ゼロ体質」を持つサプライヤーが選ばれ、生き残ります。

サプライヤー視点では、全員の意識改革と続ける力、アナログから脱却した“リアルで泥臭い改善”こそが、次のビジネスチャンスを生み出します。

この記事が、現場リーダー、現場ワーカー、管理職、バイヤー―すべての製造に関わる皆さまの明日へのヒントとなれば幸いです。

製造業の発展に向けて、クリーン化・異物対策に、一層の磨きをかけていきましょう。

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