投稿日:2025年7月1日

ゼロベース思考で根本解決するなぜなぜ分析実践講座

はじめに:なぜなぜ分析は製造現場の羅針盤

製造業において「なぜなぜ分析」は単なる品質管理手法に留まらず、現場のあらゆる問題を根本から解決するための強力な武器となります。

長年ものづくりの現場に身を置き、調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化を経験してきて痛感するのは、現場が「なぜ」を深掘りできるか否かが、長期的な発展力に直結するということです。

このコラムでは、単に教科書通りのなぜなぜ分析のやり方ではなく、実際の現場あるあるや、アナログな慣習から抜け出せない組織風土の中でも成果を出すための考え方、実践的なポイントを、ゼロベース思考の観点から掘り下げて解説します。

なぜなぜ分析とは何か ― ゼロベース思考を持ち込む重要性

「なぜなぜ分析」とは、発生した問題や不具合について原因を「なぜ?」と繰り返し問い、その根本原因(真因)を特定する手法です。

(例えば、「なぜ機械が止まったのか?」→「給油がされていなかった」→「なぜ給油されていなかったのか?」…と掘り下げていきます。)

ここで大切なのは、現場に強く根付いた既存の思考パターンや、「当たり前」に対する疑いの目を持つことです。

ゼロベース思考とは、「前提をすべて取り払って一から考える」姿勢。

昭和的な慣習や「今まで何とかなった」論理が色濃く残る製造業でも、この思考法を意識してなぜなぜ分析に取り組むことで、「本当に必要な対策」にたどり着けます。

なぜなぜ分析≠単なる形式的な5WHY

形式的に「5回なぜを繰り返しましょう」とだけ指導しても、現場の動きを変えることはできません。

大切なのは、「犯人捜し」ではなく「しくみを問い直す」視点です。

組織の温度感によっては、5回に届く前に“既存の常識”で結論が固定されがちです。

本当に改善すべきポイントは、誰か一人の失敗の責任ではなく、多くの場合は仕組みや習慣、意思決定プロセスの中に潜んでいます。

ゼロベース思考を徹底することで、「そもそもこの仕組みは何のために存在するのか?」という問いにも立ち戻ることができます。

なぜなぜ分析の手順と現場で陥りがちな落とし穴

1. 問題の明確化 ― 事象の棚卸しから始める

まず、起こった問題が「いつ」「どこで」「誰が」「どんな状況で」「どのくらいの頻度で」発生したのか、具体的に洗い出します。

現場目線から言えば、「みんなわかっているつもり」ほど曖昧さが残るものです。

「とりあえずラインが止まった」「品質がばらつく」ではなく、「〇号機、午後3時〇分、A製品1ロット、3/10の確率で寸法NGが発生」といったように事実を“数字”や“事象”で示します。

ここを曖昧なまま進めることで、途中から議論が抽象的になり、責任の所在が分散してしまいがちです。

2. 「なぜ?」を繰り返すコツ ― コミュニケーションの技術

現場によっては、管理職が「なぜ?」を繰り返すと、部下の自己防衛本能が働きやすくなります。

「誰が悪かったんだ?」という色を出してしまうと、途端に正確な情報を引き出せなくなります。

ゼロベース思考では、「しくみ」を問うスタンス=「どうしたら再発防止できる仕組みを作れるか?」が大切です。

たとえば、購買部員が納期トラブルを起こした場合「納期管理の方法」「社内連携」「外部依存度」といった自分たちの“しくみそのもの”を疑うポイントを探し出す意識を持ちましょう。

3. 「認知の歪み」を見抜く ― “作業者のせい”にしすぎない

よくある落とし穴が、「ヒューマンエラー」を安易な全解決ワードにしてしまうことです。

「なぜミスが出た?→作業員の確認ミス→注意不足→教育が足りなかった」で終わらせてしまうことが少なくありません。

しかし、真の根本原因は「人がミスをしやすい設計」「ミスに気付きにくい工程」「多重作業や無理な納期」といった構造的な部分に潜んでいます。

特に、デジタル化が進んでいない現場ほど“アナログなまま”の工程設計やチェックフローが温存されています。

ゼロベースで「本当にこの工程はヒューマンエラーを許容しない仕組みか?」を問い直す癖をつけましょう。

昭和的アナログ組織の壁を突破するためのラテラルシンキング

「なぜなぜ分析なんて机上の空論だ」という現場意識

製造業の現場は、“現場勘”や“経験則”を重視する文化が根強いです。

「なぜなぜ分析で現場が変わるのか?」と懐疑的な人も少なくありません。

ここで必要なのが、ラテラルシンキング=既存の枠組みを越えて問題の見方自体を変える力です。

たとえば、不良品の発生原因追及を現場レベルで終わらせず「調達先の選定基準」「工程レイアウト」「自動化の余地」など視野を大胆に広げてみることです。

品質管理や生産管理、調達購買など自工程に閉じず、「前後の工程ごと再構築できないか?」という観点が新たな道筋を生みます。

「組織のサイロ化」を壊す問いかけを

購買部が「品質は生産部の仕事」、生産部が「材料のことは購買部」、という分断が強い現場は未だに多いです。

なぜなぜ分析の「なぜ?」を現場単位で終わらせず「そもそもこの情報共有フローでいいのか?」と振り返ってみましょう。

ラテラルシンキングで“調達–生産–品質–上流の設計”という壁を超えた原因分析と改善の場をつくることが、真の意味での多能工化、組織の垣根を低くするきっかけとなります。

実践!なぜなぜ分析が導いた現場改革の事例

事例1:サプライヤー納期遅延 ― 再発防止の本質を追う

ある中堅自動車部品メーカーで、主要サプライヤーからの納期遅延が頻発。

かつては「サプライヤーの工程管理が甘い」と決めつけて終わっていました。

しかし、真の「なぜなぜ分析」を実施した結果、
1. 見積り要求が営業から調達部に伝達される際、情報の粒度がバラバラ
2. 購買側の発注タイミングがバッファ管理に依存しすぎて手配が遅れがち
3. サプライヤー側も、発注書のフォーマットごとに内容の読み取り違いが発生
4. さらに、生産計画の急激な変更も度々事後連絡になる傾向が
など、円滑な納期コントロールには「社内外の情報伝達・可視化・計画精度」など複数の前提見直しが必要であることが明らかになりました。

その後、工程ごとの打合せフォーマット統一・ITを活用した発注〜納品進捗の可視化システムを導入し、納期遵守率が大幅に改善しています。

事例2:現場トラブル“見える化”でヒューマンエラーゼロへ

精密部品メーカーの工場で、仕上げ工程の検査時に「部品の向き間違い」が頻出。

初期の分析では「ベテランの教育で対応」あるいは「作業手順書の追記」で終わろうとしましたが、ゼロベースで「工程設計そのものを問う」ところからやり直しました。

この時、現場スタッフも交えて
・部品形状の類似性が高く、目視識別が困難
・良品と異品の“違い”が検査員ごとに微妙に異なって伝わっていた
・作業場所の照度や配置も人によって見え方や気付き方に差が出る
と、“工程設計そのもの”に疑問を投げかけ、現場からアイディアを募りました。

結果、工程ごとに専用治具を製作し、「間違えること自体ができない」仕組みに変更。ヒューマンエラーがゼロとなり、不良品流出はほぼ皆無に。

なぜなぜ分析の現場運用を定着させるポイント

“やらされ感”から“自発的な文化”へ

なぜなぜ分析は、「報告書を書くこと」が目的化されると形骸化します。

経営層や管理職が「失敗を責める」よりも、「失敗から何を学び、どう改善したか」にスポットライトを当て、「なぜなぜ分析の結果を現場が主導で活用していく文化」を醸成する必要があります。

そこには「失敗事例共有会」や「現場横断チームによるプロジェクト型改善」など構造的な後押しが効果的です。

現場リーダーが意識すべきポイント

・「なぜ?」を問い詰める口調ではなく、“ともに考える”姿勢
・失敗事例を積極的に肯定し、メンバーに分析や提案を委ねる
・部門を超えた「なぜなぜ会議」を小規模でも始めてみる
これらを意識することで、現場主導・ゼロベース型改善の土壌が整い始めます。

おわりに:なぜなぜ分析は製造業の“未来思考”を生み出す

“なぜなぜ分析”は、単なる問題解決のテクニックに留まらず、現場が持つ可能性を最大化し、時代や技術の変化に柔軟に適応できる“思考のクセ”を育む原動力です。

変化の激しい製造業の中で、「なぜ?」を繰り返し、ゼロベース思考で現状を見直す力は、デジタル化時代・サプライチェーン複雑化時代の中でも生き抜く組織の底力に直結します。

バイヤー・サプライヤー双方の視点で「なぜなぜ分析」を実践していくことで、“伝統の継承”と“革新”をバランス良く両立し、製造業全体の発展に寄与できるのです。

さあ、あなたの現場でも「本質を突くなぜなぜ分析」をぜひ、今日から始めてみませんか?

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