投稿日:2025年8月20日

海上FCLでの“Shipper’s Load & Count”文言と責任範囲の実務理解

はじめに:海上FCL輸送における「Shipper’s Load & Count」の重要性とは

国際物流、とりわけ海上FCL(Full Container Load、フルコンテナ単位輸送)において「Shipper’s Load & Count」(SLC)という用語に触れる機会は非常に多いです。

この文言がB/L(船荷証券)やインボイスなどの書類に明記されているのを見て、「これは一体何のため?」「どこまでが誰の責任?」と疑問を持つバイヤーやサプライヤーも少なくありません。

製造業のグローバル化が進むなか、サプライチェーンの現場でこの“魔法の一文”がどう機能しているのか、そしてどんな点に注意しなければならないのか。

現場経験20年以上の視点から、昭和的な慣習も色濃く残るこの業界での実務のリアルについて深掘りしていきます。

Shipper’s Load & Countとは何か

基本的な定義

「Shipper’s Load & Count」とは、直訳すると「荷送人が積み、荷送人がカウントした」という意味です。

これは、輸出者(荷送り人/Shipper)がコンテナへ自ら荷物を詰め(バンニング)個数をカウントし、運送人(キャリアやフォワーダー)はその内容物や個数を検証せずにそのまま運ぶ場合に使われます。

商流・物流書類での記載例と背景

B/Lや他の物流書類にSLCが記載されている場合、それは海上運送人が「中身の確認はしていません(責任は持ちません)」という姿勢を明確に表しています。

これにより、「もし中身の数量や荷姿に問題があった場合は、船会社にクレームをしても責任は原則発生しませんよ」という合意が形成されているわけです。

SLCが現場に与える実務上の影響

バイヤーの立場から見るリスクと留意点

バイヤーの観点からすると、「本当に頼んだ数量がきちんと入っているのか?」という不安が常についてまわります。

SLCが適用されている場合、万が一内容物の数量過不足や異品種混載、破損などがあっても、運送人に責任追及できません。

問題発生時のやり取りは「Shipper(荷送り人)とConsignee(荷受人)間の責任問題」へとシフトします。

したがって、受け入れ検品体制の徹底、サプライヤーからの積み込み証跡(出荷前写真・シール記録等)の事前取得、荷姿ラベルや封印(Photo seal)の管理が死活的に重要なのです。

サプライヤー側の注意点と品質保証体制の要点

SLCが適用された場面では、サプライヤーが「荷姿・数量検証を誰もしてくれない」状況となるため、全て自己責任で出荷前確認を行う必要があります。

昭和的な「お客様(バイヤー)から言われてから対応します」ではもう通用せず、最新トレーサビリティツールやバーコード管理、クラウド記録等も活かしながら、“自衛策”を日常化することが肝要です。

万一クレーム案件が発生した場合も、出荷記録や写真、積込証明(タイムスタンプ付き写真等)を揃えておかなければ、信頼毀損のみならず取引停止リスクも十分に考えられます。

運送人(船会社・フォワーダー)の責任範囲

運送人(キャリアやNVOCC)は、基本的にコンテナの外観(封印の有無・損壊等)しか確認しません。

“SLC”と明記した書類による出荷であれば、中身に関する一切の責任を回避できるのです。

それゆえ、運送人の視点としては「コンテナ状態(封印、損傷など)の記録」「適切な書類管理」にフォーカスし、内容物の如何には関与しないという政策を一貫しています。

業界に根付く昭和的アナログ文化と現代的アプローチのギャップ

日本の現場でのSLCに関する慣習と“属人化”リスク

特に日本の製造業界、物流現場では、ベテラン担当者が過去の経験則で「あうんの呼吸」で管理している例も多くみられます。

出荷検品や内容物確認を「○○さんに任せておけば大丈夫」という風土が一部現場に残っており、記録化や“万一”のためのエビデンス形成が後手に回ることもしばしばです。

しかし、グローバル競争や多様化したサプライチェーンのなかで、こうした属人化・口約束的な運用はもはや厳禁です。

バイヤーからも「痕跡が残るエビデンスを提出せよ」「システマチックな管理体制を示せ」と要求されるケースが明らかに増えており、既成概念を早急に刷新する必要があります。

ラテラルシンキングで発想転換!DXや自動化がもたらす変革

“数量が違った”“中身が壊れていた”というトラブルの本質的な解決策として、IoTや画像解析技術、エッジコンピューティングを活用した自動記録・画像認証・AI活用といったDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進んでいます。

例えば、積み込み現場にAIカメラを設置してシール封印・箱数確認を自動で記録できる仕組み、バーコードと画像をサーバに即時送信し出荷先とリアルタイム共有できるSaaSサービスも登場しています。

従来の“人が見て覚えておく”から“デジタルで証跡を残す”新時代への移行は、現場力向上とトラブルリスク分散に直結します。

SLCトラブルあるある ー ケーススタディから学ぶ

ケース1:荷姿不一致(カートン破損、内容物不足)

出荷したコンテナには「Shipper’s Load & Count」の文言が記載。

到着後、バイヤーが受け付け検品を行うと「20箱中2箱が破損、3箱が数量不足」という事態が発覚しました。

この場合、運送人に問い合わせても「SLC適用なので弊社は関与しません」と事務的な回答。

証拠写真や積み込み記録など、サプライヤーがエビデンスを事前に確保していなかった場合、補償交渉は非常に困難になり、長期化や関係悪化に繋がるリスクがあります。

ケース2:サプライヤー-バイヤー間の信頼問題

SLC文言によって「運送人は関係ない」となるため、バイヤーはサプライヤーに直接補償や再送を要求することになります。

しかし、お互いにエビデンス(証拠や記録)が希薄だった場合、「本当に入れたのか?」「いや、確かに入れました」と平行線のやり取りに終始。

このトラブルを契機に、商流全体の信頼関係が大きく損なわれる例は、実はとても多いのです。

FCL輸送の新たな地平線を拓くには?ラテラルシンキング的提案

デジタル証跡の標準化で信頼チェーンを構築

今後重要となるのは、物理的な管理以上に「透明性」「可視化」「証跡管理」の仕組み構築です。

積み込み時に立会人が複数いる場合でも、写真・動画・バーコード等で記録を残し、クラウド等で共有。

バイヤー、サプライヤー双方で「リスク共有」「責任範囲の明確化」を先に合意しておく契約プロセスが肝要です。

スマートロック・IoTで運送人も巻き込んだ責任分散

産業用スマートロックなど最新IoTを活用し、コンテナの開封履歴や移動中の状態変化を自動で記録・伝達する仕組みも登場しています。

運送人も巻き込んだこの新たな情報連携エコシステムは、SLC文言の“ブラックボックス化”を防ぎ、全体最適な輸送品質改革の起爆剤となるでしょう。

まとめ:SLC取引で覚えておきたい7つの実践アドバイス

1. SLC適用時は「事前の出荷数量確認・エビデンス取得」が鉄則です。
2. 「頼んだ数が本当に入っているか?」は人任せにせず、デジタル記録を活用しましょう。
3. 荷姿・シール封印・バーコード・出荷前動画記録など、多重チェック体制を構築しましょう。
4. サプライヤー・バイヤー間で“共通認識の契約書”を細部まで詰めましょう。
5. デジタル化(DX)、IoT、画像解析など新技術の導入・運用を積極的に推進しましょう。
6. 昭和的属人主義を脱却し、誰もが判る透明なプロセスを意識しましょう。
7. 何かあった時も“感情論”ではなく、“証拠ベースで冷静に協議”する姿勢を持ちましょう。

SLCでの取引は「自分の出荷は自分で守る(バイヤーは受け入れ記録を自分でチェック)」が基本です。

ですが、それを“現場力で闇雲にやる”のではなく、現代のテクノロジーと契約力を駆使し、業界全体を先進的・スマートにアップデートしていきましょう。

この実務理解と新しいアプローチこそ、製造業の国際競争力強化に不可欠な一歩なのです。

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