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難削材加工や鍛造・積層品追加工の高精度化と外注戦略の考え方

目次
はじめに:製造業の現状と難削材・複雑加工の課題
日本の製造業を取り巻く環境は、かつての高度経済成長期やバブル期とは大きく異なっています。
昭和から続く「現場の勘と経験」が今もなお根強く残る一方、グローバル化やデジタル化への対応、熟練工の高齢化による技術継承の課題、多品種少量生産への対応など、現場はさまざまな難題に直面しています。
とりわけ近年、難削材加工や鍛造品・積層造形品といった「追加工が難しい部品」の精度向上と、これらを適切に外注する戦略の重要性が増しています。
本記事では、調達購買・生産管理・品質管理・工場自動化の観点から、現場の実践知と最新業界動向を交えて、難削材加工や追加工にまつわる高精度化のポイント、外注パートナーの選定・管理の勘所、今後の業界の地平線を切り拓くためのアプローチを掘り下げます。
難削材・鍛造・積層部品追加工、なぜ本当に難しいのか
難削材とはなにか?その特徴と加工上のリスク
難削材とは、加工硬化性が高い・熱伝導率が低い・粘りが強い・高強度といった特性を持ち、通常よりも切削や加工が難しい材料群を指します。
代表例は、チタン合金、インコネル、ハステロイ、ステライト、SUS難削鋼、ニッケル基・コバルト基超合金などです。
これらは航空機、医療機器、原子力、半導体、EVモーター部品など、高付加価値分野で不可欠ですが、熱変形による精度不良、工具摩耗・破損、バリ発生、加工変質層問題、コスト高騰といったリスクを常に伴います。
加えて、鍛造品や積層造形(3Dプリンタ)品の「追加工」は、材料特性のみならず、内部応力・密度ムラ・表層硬化・残留粉末など、従来品にはなかった新たな要因が顕在化しやすいのが実態です。
伝統技術と最新テクノロジーの“間”に立ちはだかる壁
昭和のものづくり現場は、ベテラン職人の腕・勘や、現物合わせを重んじた「やればできる」精神が風土として息づいていました。
しかし、高機能・高精度化、自動車・航空機産業の材料厳選(強度・耐熱性重視)、トレーサビリティ強化、DX要請が進む今、従来の「勘と経験」だけでは立ち行かなくなっているのが現場のリアルです。
一方、最新の複合加工機、AI検査、自動工具交換ロボ、IoT活用に目を向ければ、投資回収や現場のスキルアップ、人材不足による活用停滞など“アナログ業界”特有の課題に直面する企業も多いのです。
つまり、伝統と革新の“間”で葛藤が生じており、それが外注パートナーの選定や追加工の精度確保にも大きな影響を及ぼしています。
高精度化への実践アプローチ:現場目線の管理と改善策
工程設計:初期段階から「追加工ありき」の管理
難削材や積層品など、後工程に「追加工」が控える部品では、設計の初期段階から“どの工程でどこまで仕上げるか”の方針を明確にすることが、品質安定化・精度向上の肝になります。
材料特性を考慮して、必要以上にギリギリ精度の寸法指定を避け、各サプライヤーの加工実力や機械・治具の特性を踏まえたGD&T(公差設計)を行うことが極めて重要です。
また、鍛造や積層品の場合は「寸法ムラ」「ねじれ」「反り」「穴位置ズレ」など、一次不良リスクを盛り込んだリスク分析を早期に実施しましょう。
「最後は熟練工が何とかする」という背水の陣ではなく、「工程単位」「外注単位」「素材や付帯条件単位」に精度確保の手綱を細かく分解し、“できないものは最初から要求しない”設計思想が成果を分けます。
現場のノウハウ:第五の品質(プロセス品質)を鍛える
加工工程で高精度を実現するには、「材料の流通履歴・トレーサビリティ」「工具・治具の選定管理」「切削条件(回転数・送り・冷却)」「ワーク固定法」「機械の保守レベル」など、伝統的なノウハウ×データ管理の合わせ技が要されます。
例えば、インコネルやTi合金の難削材追加工では、低送り・高切削油圧・高剛性固定・工具摩耗監視システムの導入など、徹底した条件管理が必須です。
また、鍛造品や積層品では、外観不良や内部欠陥が見逃されやすいため、非破壊検査装置(X線・超音波)やAI画像検査の前工程化と、現場(ライン)の持つ暗黙知を数値化・マニュアル化することで品質の均質化を図りましょう。
高精度への最短ルートは、「伝承できるノウハウの体系化」と「最新計測機器・データの活用」を現場レベルで両立することにあります。
外注戦略:発注側・受注側から考える“強いパートナーシップ”
バイヤー(発注側)の戦略思考:適材適所・信頼の三層構造
バイヤーが外注戦略を描く際には、従来の「価格重視」「リードタイム短縮」だけでなく、
1. 技術力(難削材・追加工のノウハウと設備レベル)、
2. 品質管理体制(Traceability、ISO、SG認証など)、
3. 実際の納期遵守・突発対応力
という三層構造で外注先を体系的に評価しましょう。
特に、難削材や複雑追加工は“外注依存度が高いほどリスクが大きい”ジャンルです。
「言われた通りに加工するだけ」の受け身外注ではなく、「難削のここが難しい」「積層品のここに潜む不良の兆候」を能動的に共有できる、現場力の高いサプライヤーを選ぶことが重要です。
コストダウンありきで外注先を海外や新興企業に振りすぎると、現場との細やかな対話や設変の即応性が失われ、結局トータルコスト増を招くことも多く見受けられます。
業界横断での「同業他社ベンチマーク」、「外注先交代や育成も視野に入れた中長期ポートフォリオ(分野別地場サプライヤーのマップ化)」推進も、令和時代の現場バイヤーには欠かせない視点です。
サプライヤー(受注側)に求められる付加価値と差別化策
受注側=サプライヤーとしては、単なる「指示待ち加工屋」から一歩踏み出した提案型パートナーになることが生き残りの鍵です。
例えば、
・難削材での工具摩耗データや、加工条件最適化のナレッジを可視化し、フィードバックとして提供できる
・3D測定機保有や非破壊検査員の現場常駐など、受注範囲を拡張し“一品一様”の追加工管理に協力する
・積層×切削のハイブリッド対応や、5軸・複合機導入で同時多面加工→工数低減を図る
など、バイヤーが自社では手の届かない「技術・検査・スピード」のいずれかで“持ち味”を磨くことが求められます。
さらに、SDGsやESG投資の文脈で“環境負荷低減” “人権・労働環境の遵守”も加点対象となりつつあり、海外・異業種含めてプラスαの価値提案がサバイバル条件となっています。
現場実例:追加工サプライヤー選定の失敗&成功シナリオ
例えば、航空部品の高強度Ti合金シャフト(鍛造品)の追加工を外注したあるメーカーでは、以下のような挫折と成功が発生しました。
失敗事例では……
納期短縮のため新規外注先へ依頼したが、鍛造品の応力分布を読み違い、追加工中に曲がり・反りが発生し使用不可に。外注間の工程設計連携が薄く、多大なコストと納期遅延を招く羽目に。
一方、成功事例では……
従来の協力会社と共同で、工程設計レベルで鍛造→焼なまし→荒加工→最終追加工の全工程を分業・連携。各工程の寸法・応力変化データを相互共有し合い、不良率が1/10以下に。発注側バイヤーが現場・技術部門とタッグで「現場⇔現場」のサプライヤー連携強化を主導したことが好結果を生みました。
アナログ業界からの脱却とこれからの“現場進化”の方向性
デジタル化・自動化の“現場目線活用”は進化の起点
難削材加工・追加工領域こそ、データ化・自動化の本質的な価値が問われます。
加工データベース構築やIoTセンサーによる機械状態管理、NCプログラム最適化、AI画像認識の測定自動化、現場作業の見える化は本来「勘と経験」に依存していた精度バラツキの解消に直結します。
例えば、道具箱の中の“ヤスリの使い方”や“特殊な押え治具の設計思想”といったアナログノウハウも、失敗事例・成功事例をナレッジ共有サイトとして公開・社内蓄積することで、次世代への技術伝承とDX化の両立が可能です。
「昭和型職人技」と「令和型シェアード現場力」の融合へ
本記事の読者に伝えたいことは、伝統的な「俺しかできない」という個人技偏重から、
「ノウハウを見せ合い、チーム全体で現場力を底上げする」令和型現場文化への転換です。
難削材追加工や高精度化は、マニュアル一冊ではカバーしきれない“生身の現場”の知見と、業界横断のトレンド・データ活用が交わる新しい「ものづくり力」の証です。
こうした文脈のもとで、自社・外注問わずオープンイノベーションや現場横断PJ、産学連携、異業種交流(異分野技術移転)など、固定観念をラテラル(横断的)に打破する行動が自身の成長・業界発展に直結します。
まとめ:今こそ、難削材・追加工領域でも“新たな地平線”を切り拓こう
難削材や鍛造・積層品の追加工は、昭和からの「職人の世界」から、令和の「見える化・チーム化・外注戦略の最適化」への進化が求められています。
高精度化は、「設計—現場—調達—外注」全体の情報連携と、現場力底上げを両立させることで実現します。
発注側は、中長期視点で外注ポートフォリオを見直し、受注側は技術・検査・現場力で差別化を。
昭和型のアナログ文化が根づく業界だからこそ、粘り強く地道なデジタル化・技術伝承を進めることが、未来のものづくりを切り拓く第一歩です。
皆様が、難削材追加工領域の「新たな地平線」を切り拓き、業界の発展に貢献されることを心より応援しています。
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