投稿日:2025年9月1日

冷蔵・冷凍の霜付きによる熱交換低下を避けるプリクール・積載率

はじめに:冷蔵・冷凍設備における霜付きが抱える問題

冷蔵・冷凍倉庫や物流現場、あるいは製造ラインにおいて「霜付き」は避けて通れない課題です。
冷凍食品、医薬品、精密パーツといった温度管理が求められる製品を扱う現場では、温度変化による商品品質の低下や装置のトラブルは経営リスクに直結します。

特に冷気循環の要である熱交換器への霜付きは重大です。
熱交換率が落ちることで、庫内温度の維持や商品の品質保持が困難になる場合が多々あります。
さらに、増加した消費電力や除霜・メンテナンスによる稼働停止など、コスト増加の原因となります。

私は製造業の現場で20年以上、設備のトラブル対策や改善に携わってきました。
その経験や知識から、プリクール(予冷)や適切な積載率が霜付きを抑制し、熱交換効率を維持するうえで極めて有効な手段であることを痛感しています。

本記事では、「冷蔵・冷凍の霜付きによる熱交換低下を避けるプリクール・積載率」と題し、現場の具体的な課題と打開策を交えて深掘りしていきます。

冷蔵・冷凍設備における霜付きの要因

霜付きが発生するメカニズム

霜は、冷蔵・冷凍庫内の空気中、または庫外から運び込まれた空気中の水蒸気が熱交換器や冷却装置の低温部表面で凝縮・凍結し付着することで発生します。

この現象を引き起こす大きな要因には以下があります。

・開閉作業や搬入・搬出による外気侵入
・庫内への高温・多湿品の搬入
・過積載や荷物の積み方による空気流動の阻害
・庫内換気不足や古い冷却設備の性能不足

このうち、実務で特に多く見られるのが「予冷不足状態の商品(=庫内より温度が高い商品)の搬入」と「積載率が高すぎる・低すぎることで発生する空気流路の乱れ」です。

熱交換器の性能低下のリスク

冷却設備の心臓部である熱交換器に霜が付着すると、以下の問題が生じやすくなります。

・冷却効率の大幅な低下
・冷却サイクルの頻繁なオーバーロード(=電力消費の増加)
・商品温度のムラ・品質リスク
・除霜作業の頻度、メンテナンスコスト増加
・最悪の場合、装置の故障・停止事故

意外と軽視されがちですが、冷蔵・冷凍庫の稼働コストのうち、除霜工程や熱交換損失によるエネルギーロスは決して無視できません。
事業継続やコスト競争力の観点からも、根本的な対策が求められます。

対策①:プリクール(予冷)の実践的運用方法

プリクールとは何か?

「プリクール(pre-cool)」は、冷蔵・冷凍庫へ荷物を搬入する前に、商品・パレットごとに事前冷却を行い、庫内温度差や湿度差が極力発生しないようにするプロセスです。

これにより、搬入時の急激な空気温度上昇や水分の持ち込みを抑え、熱交換器の霜付きリスクを効果的に減らせます。

プリクール運用の具体的ステップ

プリクールを現場に根付かせるには、「設備」「現場運用」「物流設計」といった多面的観点が必要です。
次のような具体策が有効です。

1. 専用プリクールゾーンの設置
荷受け場や一時保管エリアに、温度調整可能な専用ゾーンを確保します。
流通センターの一部スペースや仮設の冷却室を利用する方法もあります。

2. プリクール開始タイミングの最適化
受入リードタイムや生産計画と連携し、適切なタイミングで予冷工程を発動。
受け入れから本格的な冷蔵・冷凍エリア搬入まで「待ち時間によるロス」や「予冷不足」を最小化する現場ルールを整備します。

3. 荷姿・単位ごとの温度管理
パレット単位・箱単位で温度センサーを設置するなど、高温・多湿品の庫内持ち込みを防止します。
実務上は、表面温度×インジケーター運用やAIによる画像チェックで効率化も図れます。

4. スタッフ教育の徹底
予冷の重要性を、管理・作業者双方に定期的に研修することで「現場感覚」として根付かせます。
アナログ管理や現場の習慣が根強い現場ほど、省力ルールや分かりやすい管理方法の導入が不可欠です。

プリクールの導入効果

上記対策を徹底した現場では、

・霜付きによる熱交換器異常が80%減
・除霜回数が1/3に減少
・装置のトラブル件数が約半減
・温度逸脱によるクレームや返品、再検査コストが削減

といった効果が現れています。

製造現場だけでなく、バイヤー・供給者双方にとって保管・流通品質面で「見えないコスト」を下げる鍵がプリクールにあると言えるでしょう。

対策②:積載率の最適化と業界の現実

積載率と庫内空気循環の関係とは

冷蔵・冷凍設備の効率を維持するうえで、「適正な積載率」は最重要ポイントです。
これは過積載(庫内をいっぱいに詰める状態)がNGというだけではありません。
空間がスカスカすぎても冷気が滞り、適切な温度管理ができなくなります。

理想的な積載率(目安)は70〜80%とされ、「荷物どうしや庫壁・床面に最低10cm〜20cmほどの隙間を設ける」ことが推奨されます。

現場のアナログ管理ルールや商習慣のなかで、面積を最大活用しようと過積載を起こしがちな傾向がありますが、その実、霜付きだけでなく次のようなリスクが増大してしまいます。

・冷気が荷物の裏や奥まで届かず、温度ムラ発生
・過剰な庫内湿度から霜付き増大、除霜回数増
・棚割やパレット荷姿崩れ→商品の破損・再作業
・装置の冷却負荷オーバーで電気代増加

積載と物流効率確保のジレンマ:現場目線の課題

物流コスト圧縮と倉庫スペース削減のため、積載率を上げたい圧力は根強く残っています。
特に「昭和」的な現場風習では、空きスペースがあると「もったいない」と捉えがちです。

しかしバイヤー目線では、製品品質や効率維持の観点から過積載NGを厳守したい一方、サプライヤー側ではいかに効率よく運ぶかが求められます。

このジレンマを打開するには、

・積載率の最適バランス(数量・効率・品質)の社内基準化
・パレットやコンテナの規格化、荷崩れ防止措置の徹底
・温度ロガーの導入や輸送管理システムによるモニタリング
・荷主・サプライヤー連携で「適正積載・品質維持」の共通理解

が実効性あるアプローチとなります。

最新トレンドとDX活用例

近年はIoTやDXの流れを活用して、

・倉庫管理システム(WMS)
・自動積載計画アルゴリズム
・温湿度監視システム
・AIカメラ/センサーによる異常検知

などを導入し、ヒト依存や職人気質からの脱却も進んでいます。
積載・霜付き抑制の傾向値解析もDXでは見逃せないメリットです。

まとめ:プリクールと積載最適化で実現する付加価値

霜付きを未然に防ぎ、熱交換性能を最大化するには、以下の2本柱が欠かせません。

・プリクールによる温湿度の適正化
・最適積載率による庫内流通の確保

これにより、

・エネルギーコスト削減(カーボンニュートラルへの貢献)
・設備寿命の延伸と保守工数の低減
・商品品質クレーム削減と顧客信頼の向上
・作業現場の生産性アップとスタッフ負荷減少

など多様な効用が得られます。

今後の製造業は、高い品質管理と効率的運営、さらに持続可能な社会構築へ進化が求められています。
現場の知恵と最新のテクノロジーを融合し、「昭和的な現場力」と「令和のデータ活用」を組み合わせる新たな地平線を切り拓きましょう。

製造業、バイヤー、サプライヤーといった立場を超え、共通の価値基準のもとに「強い現場」が育ち、アナログ業界からデジタル革新への大きな一歩につながります。

付加価値の本質を見極めた対策が、激動の時代を勝ち抜く要となるはずです。

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