投稿日:2025年11月29日

自治体のリスク分析支援を活かした供給途絶シナリオの事前対策

はじめに:供給途絶リスクと製造業の現場感覚

サプライチェーンの混乱——
この数年、私たち製造業従事者にとって決して人ごとではなくなりました。
世界的な半導体不足、地政学リスク、パンデミック。
かつて経験した「部品が入らない、作れない、出せない」苦い現場体験は、調達担当者だけでなく生産管理や工場運営、品質保証部門にも広くストレスを与えました。

一方で、自治体や公的機関では、災害対策をはじめとしたリスクマネジメントのノウハウが蓄積されています。
民間でも「BCP(事業継続計画)」に注目が集まっていますが、供給途絶リスクへの現実的なアプローチはまだ道半ばです。

本記事では、自治体のリスク分析支援手法や観点を取り入れ、アナログが根強く残る製造業現場で「供給途絶シナリオ」をどう事前対策できるか、実践目線で深掘りします。

リスク分析の基本と自治体モデルの強み

リスク分析のステップ

まず、リスク分析は単なる「危ないかもしれない」という予感や想像ではありません。
以下のステップが重要です。

1. リスクの洗い出し(リストアップ)
2. 発生確率と影響度の評価(定量化・定性評価)
3. 発生した場合にどうなるか(シナリオ作成)
4. 優先順位付け(リスクマトリクス化)
5. 具体的な対策立案

現場では、納期遅延や不良品混入、物流途絶などをなんとなく意識していますが、これを「見える化」し、構造化することがポイントです。

自治体型リスク分析の特長

自治体やインフラ事業者は、自然災害や社会インフラの断絶など「命に関わる」事態を想定しています。
特徴的なのは、以下の3点です。

・平時の連携強化:他機関との情報共有、シミュレーション訓練を重視
・全体最適の追求:部分最適ではなく「地域社会全体」を考慮
・脆弱性評価の深堀り:小さな弱点が累積的に大問題になる着眼点

このノウハウを製造業の「供給リスク管理」に応用できます。

現場が見落としがちな“供給途絶リスク”の本質

なぜ供給途絶が発生するのか

多くの現場では「サプライヤー何社かに振り分けていれば万全」と感じがちです。
しかし、次のような落とし穴があります。

・川上の原材料調達は1社依存
・同じ地域集中による大災害時の同時被災
・共通物流網や同一システム、通信インフラへの依存
・デジタル化の一方で現場作業の“紙運用”残存

バイヤーの皆さま、現場で納期遅延が発生した時、
「なぜA社もB社も同時にだめなのか?」
こう問い詰められた経験はあるのではないでしょうか。

人・組織の“昭和的”思考パターンの罠

アナログ管理が根強い現場では、「今まで大丈夫だったから」「一度も切れたことないから」という心理が強く働きます。
しかし、災害や国際問題が現実になった時、その“常識”はあっけなく瓦解します。

自治体が重視する「たられば」シナリオを、企業でも「これでもか」と深堀りしてみましょう。

自治体発想のシナリオづくりと現場実践法

シナリオシンキング:3段階の事例

1. ロジカル想定:例えば主要サプライヤーの受注過多、工場火災、道路寸断
2. フォローアップ連鎖:緊急時連絡網の混乱、代替品同品質化困難、納期交渉決裂
3. ワーストケース:高額な特急輸送コスト、出荷停止、本業以外の風評被害

この3段階で“具体的な関係者名・場所・手順”まで落とし込むのが自治体流です。

現場に根付かせるための工夫

・年1回の「供給途絶シナリオ」机上訓練の定例化
・サプライヤーとの合同リスクワークショップ実施
・現場のベテラン(冗長確認の達人)から知恵を掘り起こす

アナログ企業の場合、難しく考えすぎず、
「うちの町内会総出で防災訓練」の感覚で、小さく始めることが肝要です。

バイヤー・サプライヤー双方の視点から読み解く

バイヤー側:発注先多様化だけでは弱い理由

部品やサービスを複数社に割り振っている場合でも、「下請けの下請け」が一本化されているケースがしばしばあります。
表層をなぞるだけではリスクの本質に辿り着けません。

自治体の多層的なネットワーク概念——
これを調達に持ち込むことで、「川上層」の再調査や緊急時の共同交渉網など現実的な仕組みにつながります。

サプライヤー側:取引先の危機意識を読み解く

サプライヤーの皆様も「なぜあのバイヤーはリスクに過敏なのか」と思うことがあるでしょう。
自治体発のリスク分析では「最悪を想定し、最善を尽くす」マインドセットが標準。
このバイアスを理解することで、長期的な信頼関係・新規商談時の差別化ポイントとなります。

アナログ業界だからこそ実行できる“泥臭さ”の価値

製造業現場では、ベテラン職人の「勘」と「ネットワーク」が災害時に威力を発揮します。
デジタル一辺倒では拾い切れない“ヒューマンインテリジェンス”を、自治体型リスク分析に融合させること——
これが、日本製造業の次元上昇のカギです。

・地方自治体の現地ネットワークを持った調達担当との会合
・地元サプライヤー組合との合同BCP勉強会
・災害シナリオを反映した現場改善提案の推奨

こうした泥臭い活動こそが、アナログ企業の「新しい強み」になる時代です。

まとめ:供給途絶とどう向き合うか、その先を考える

令和になり、サプライチェーンのレジリエンス強化が叫ばれています。
しかし現場レベルの泥臭さと、自治体型リスクマネジメントの冷静さをかけ合わせることで、日本型ものづくりは新たな一歩を踏み出せるはずです。

・自治体発のリスク分析を分解し “現場視点” で噛み砕くこと
・平成・昭和型マインドセットから勇気を持って一歩踏み出すこと
・バイヤー・サプライヤー双方で“供給途絶シナリオ”を語り合う土壌づくり

これらを続けていくことが、時代を超えて安定した生産・調達を実現し、製造業の明日に貢献する近道だと確信しています。

読者の皆様も、ぜひ今日から自社のリスク分析に「自治体型」の視点を一つ加えてみてください。
新たな発見と未来への備えが、必ずや見えてくるはずです。

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