投稿日:2025年10月21日

国際規格を理解して海外調達案件に対応する設計・品質部門の準備

はじめに〜グローバル調達と国際規格の関係性

近年、日本の製造業においてもグローバル化の波はますます強まっています。
人件費の高騰やサプライチェーンの多様化を受け、海外調達案件は珍しいものではなくなってきました。
こうした時代の変化の中で、設計部門や品質管理部門に特に求められるようになったのが、国際規格への理解と運用力です。

昭和時代の国内中心・経験重視のモノづくり文化から、世界共通の“ものさし”である国際規格(ISO、IEC、ASTMなど)を駆使したグローバルなものづくり文化への移行。
ここに戸惑いを感じている現場担当者、管理職の方は多いでしょう。
ですが、この壁を越えることができれば、調達の選択肢は飛躍的に広がり、企業競争力は確実に高まります。

本記事では、海外調達案件において設計・品質部門が実践すべき国際規格対応のポイントと、アナログ文化の強い業界でも乗り越えられる実践策を、現場目線で深掘りしてご紹介します。

国際規格と製造現場〜なぜ今“ものさし”に注目すべきなのか

国内規格(JIS)と国際規格(ISOなど)の違い

日本国内では長らくJIS(日本工業規格)が中心となってきました。
カタログや設計図面にもJIS番号が頻出し、それがものづくりの共通言語でした。

一方、海外ではISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)、ASTM(米国材料試験協会)といった団体が発行する規格が主流です。
同じ材料、同じ製品であっても、設計単位・検査手法・許容差などが異なることが多々あります。
この「規格の違い」は、部材調達時の品質不良、納期遅延、最悪事故やリコールの要因にもなりかねません。

調達案件における“国際規格の壁”の実態

昭和型の現場では、「いつもの仕入れ先」「勘と経験」「自社内基準」で意思決定が進みがちです。
ところが、海外調達になると、現地標準が違う、検査方法が分からない、溶接の規格が合わない…。
こうして、調達・設計・品質部門が何度もやりとりを繰り返し、納期やコストだけでなく、現場の士気までも低下する現象が多発します。

海外調達案件の成功に不可欠な設計・品質部門の準備

海外サプライヤーと円滑に仕事を進めるには、設計・品質部門が現場の最前線で国際規格を正しく理解し、使いこなすことが不可欠です。
具体的にどのような準備が求められるか、現場で痛感した必須アクションを整理します。

1. 調達品目ごとに求められる国際規格の特定と理解

まず、調達対象となる部品・材料・製品について、どの国際規格が適用されるのかを明確にします。
たとえば、鋼材ならISO 9001(品質管理)、ASTM A36(材料仕様)、機械部品ならISO 2768(公差)、IEC 60204(電気安全)などです。
ここで注意すべきは、「原産国によって規格名が違う」「見た目は同じでも合格基準が異なる」場合が多いことです。
必ず調達品目ごとに、図面や仕様書で「準拠すべき規格名」「許容差」「試験方法」「証明書の種類」まで細かく明記しましょう。

2. 海外サプライヤーとの共通言語を作る

海外サプライヤーに“任せきり”は禁物です。
仕様書や契約書に、必ず「どの国際規格の何条項まで要求するのか」を英文で明記しましょう。
また、検査成績書(Mill Test Certificateなど)も発行フォーマット、内容チェック、トレーサビリティ要件まで定めておくことで、品質不良や後工程でのトラブルを極力減らせます。
その際、現地スタッフやバイヤーと直接やり取りする担当者が規格の細部まで理解していれば、曖昧なやり取りがなくなり、結果的に調達・生産全体がスムーズに流れます。

3. 自社内設計・品質管理体制の見直し

海外調達品の多様化にあわせ、社内規程や設計標準も国際規格ベースに刷新する必要性があります。
設計変更時や新規部品の立ち上げ時、図面や部品表(BOM)に「JISとISO両方の対応可否」を明記したり、不適合品の処理基準も国際規格に則った形へ変更するなど、昭和型のローカルルール偏重型から、グローバルスタンダード型へのシフトが求められる時代です。

昭和から抜け出せない現場でも実践できる国際規格対応のヒント

現場教育と“規格理解力”の底上げ

現場最前線ほど、「面倒ごと」「慣れたやり方で十分」「英語は苦手」と感じがちです。
ですが、小さくても“規格ベース”の成功体験を積むことで現場の意識は驚くほど変わるものです。

例えば、QCサークルや現場勉強会で「ISO規格のここだけは抑えよう」「JISとの違いはここ」というミニ学習を地道に積み重ねてみてください。
図面に規格名をしっかり記載する、チェックシートを国際規格基準に合わせて改定する、英語の検査証明書サンプルを現場に掲示する——。
これだけでも現場の属人性は大幅に減り、誰でも一定水準の調達対応が可能になります。

シニア技術者の“知見”と若手の“デジタル力”のハイブリッド型推進

ベテラン層の豊富な現場ノウハウと、若手社員のITリテラシーや語学力を掛け合わせた「ラテラルシンキング型組織運営」も有効です。
今まで形式化されていなかった非公式ルールや“現場の勘”を見える化し、規格解釈マニュアルやQAチャートなど自社独自のグローバル対応ツールを開発することも現場力向上につながります。

バイヤー・サプライヤーの視点〜相互理解がもたらすメリット

バイヤー(調達担当者)の考えること

バイヤーにとって、なによりリスクとなるのは「品質不良による納期遅延」「コストアップ」「偶発事故」です。
その多くは、規格違い・検査ミス・書類不備など“現地メーカーとのすれ違い”が火種になっています。
設計・品質部門がしっかり国際規格で仕様を固め、チェックシートや検査証明書のやり取りを標準化できれば、全体最適型の安心な調達ネットワークが構築できます。

サプライヤーの立場から理解すべきこと

サプライヤーにとっては、「なぜそこまで厳密な規格や書類が必要なのか?」という感覚も生まれがちです。
ですが、日本の製造業が築き上げてきた“品質第一主義”は、グローバル調達においても大きな信頼の礎となります。
バイヤーの要求事項にしっかり応え、国際規格ベースの品質保証体制を構築することで、日本市場・海外市場の双方でビジネスチャンスが拡がるはずです。

まとめ〜グローバル調達時代に問われる次世代設計・品質力とは

製造業の現場で働くすべての方へ。
国際規格を正しく理解し、現場の実務に地道に反映させ続けることが、地味に見えても持続的な企業発展の本質だと私は考えています。
設計や品質管理は、これからの製造業競争力の大黒柱。
「なぜその規格なのか」「なぜその手順が必要なのか」と問い続け、自社内で議論・吸収し、現場目線での仕組み化につなげてください。

グローバル時代でも、“現場力×国際規格”を最大限に活かすことで、日本のものづくりは必ず進化できます。
新たな地平線を共に切り拓きましょう。

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