投稿日:2025年9月22日

現場の社員に伝わらない「専門用語だらけ」の資料問題

はじめに:なぜ「専門用語だらけ」の資料が問題なのか

製造業の現場で働く多くの方が、日々何十枚もの資料や指示書を目にしていると思います。
しかし「専門用語だらけ」の資料が現場でどれほど伝わっていないのか、実感していますか?

調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化――。
これらすべての現場に通じるのが、「正しく伝わる資料」の重要性です。
本記事では、なぜ専門用語だらけの資料が問題なのか、その根本理由と現場で生じる弊害、そして今製造業が直面している「アナログ文化」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の狭間で起こるコミュニケーションのギャップについて、現場経験者の視点から深掘りします。

よくある「専門用語だらけ」の資料の例

1. 資材調達現場の用語例

調達部門で作成された資料には「LT(リードタイム)短縮」「E-CAT」「LOT(ロット)」などの用語が頻出します。
これらは調達担当やバイヤー、サプライヤーとの間では日常会話ですが、現場作業者や新入社員、他部署にはピンときません。

2. 生産管理現場の用語例

「MRP」「ジャストインタイム」「アウトプットインターバル」「カンバン方式」などがそれにあたります。
現場にとっては「いつ、なにを、どれだけ作ればよいか」が知りたいだけなのに、資料が専門用語で埋め尽くされていることが少なくありません。

3. 品質管理現場の用語例

品質部門では「PPM」「FMEA」「QC工程表」「CAPA」などの略語や、国際規格的な言い回しが多用されがちです。
現場リーダーやパート従業員には、「何をどう気をつければ不良が減るのか」だけを明確に伝えたいはずです。

なぜ「伝わらない」資料が生まれるのか

1. 上流での「慣れ」と「思い込み」

ベテラン社員や管理職ほど、「みんな知っているはず」という思い込みで専門用語を多用してしまいがちです。
特に昭和の時代から続く大手メーカーでは、専門用語・略語・業界言語を使いこなすこと自体が「できる証」とされてきました。

2. アナログな情報伝達文化

紙の資料、口頭説明、ホワイトボード。
こうした伝達手段がいまだ現場の主流である企業では、最新の業界用語やグローバル用語が現場に浸透していないにもかかわらず、上流ではそのまま「書かれて」流れてきます。

3. DX推進の断絶

近年のDX推進によりERPやMES、IoTといった新しい用語・概念が現場に導入される反面、実際に使う現場では「意味も使い方も理解できない」というギャップが拡大しています。
システム導入の説明会や資料は大半がIT・業界専門用語で埋め尽くされ、現場社員は「結局何が変わるのか分からない」と戸惑うのです。

現場で起きる「伝わらない資料」による誤解とトラブル

1. ヒューマンエラーの増加

資料の意味が伝わらず、現場担当者が「多分こうだろう」と自己判断で作業することが増えます。
これが不良、納期遅延、事故といったヒューマンエラーに直結します。

2. モチベーションと品質の低下

分かりにくい資料ばかりが上から降ってくると、現場は「どうせ分からないし…」とやる気を失います。
個々の判断が均一でなくなり、品質にもバラツキが生じやすくなります。

3. 責任のなすりつけ合い

「やり方、意味が分からなかった」「ちゃんと書いてあるじゃないか」という責任の押し付けあいが生まれ、部署間の信頼が損なわれる結果につながります。

なぜ「現場に伝わる資料」が必要なのか――アナログ業界の今と未来

製造業は、昭和の高度成長期から続くアナログな仕事観・現場主義が根強く残る一方で、DXの大波にさらされています。

現場に伝わる資料を作ることは、「現場力」を最大化し変化に柔軟に対応する会社をつくるための基盤です。

現場が自律的に判断・行動できる環境を整えることで、製造品質もスピードも競争力も高まります。

IT推進=道具。伝える努力は不可欠

どんなにITやシステムが進化しても、「現場が理解できていない」なら業務は停滞します。
逆に、現場までしっかり伝わる資料や言葉に置き換えることで、ITの恩恵が初めて最大化されるのです。

現場に伝わる資料への6つのアプローチ

1. 専門用語には必ず「日本語の一言説明」を添える

資料上で「LT(リードタイム:部品納期)」というようにすぐ後に日本語の一言説明を添えます。
これが「読む人に寄り添う姿勢」となり、理解のハードルを下げます。

2. 「なぜ」「何に気を付ければよいか」を冒頭に明記

「なぜこの資料が必要か」
「現場で何をどう変えるべきか」
この二点を最初に簡潔に記すことが極めて重要です。

3. 機械や工程番号ではなく「実際の作業ロケーション」「現物写真」を活用

現場の人にとっては「A工程」や「1号機」よりも、「左奥のブルーライン機」や「写真」のほうが直感的に分かります。

4. ピクトグラム(絵文字アイコン)やチャートを積極活用

安全教育や品質注意点などは、文字ばかりでなく「禁止マーク」や「〇×」「フローチャート」を多用することで現場に刺さります。

5. 「現場オーダー」をヒアリングしてから資料を作る

机上の理論や上流の都合だけで資料を作らず、実際に現場の担当者から「今困っていること」「言われても分からない点」をアンケートやヒアリングで拾います。

6. 用語集・言い回し集の作成と現場配布

新たな用語や略語が導入される際は、小さな冊子や掲示物として「用語集」をまとめて現場全体に浸透させます。

バイヤー志望・サプライヤーの方に伝えたい「伝達力」の本質

バイヤーや供給側は、「価格競争」や「スピード」以前に「伝える力=現場で結果を出す力」が問われます。

サプライヤーの立場からも「納品仕様書」「作業手順書」などが分かりにくいまま納品されては、現場での混乱・返品・クレームにつながり、信頼を損ないます。

バイヤーとして上流で物事を考える人も、「専門用語」に頼った資料では真に現場を動かせないと認識すべきです。

入社したての若手、海外スタッフ、多国籍メンバーにも伝わるドキュメント作成をこころがけることで、企業全体の底力が大きく変わります。

結論:用語の壁を超え、「真に伝わる資料」で現場が変わる

製造業のアナログ的伝統と、急速なDX化。
その狭間には必ず「用語の壁」が立ちはだかっています。

これを放置すれば、せっかくのIT投資も、現場知恵の蓄積も、業界変革へのうねりも実を結びません。

一方で「現場の社員に本当に伝わる資料」を追求し続ける企業こそが、これからの時代、真に強い現場力と競争力を手にします。
専門用語を易しく翻訳し、現場に寄り添う資料作成――。
これは地味で面倒に見えて、組織を作り直す“最もコスパの高いDX”です。

ぜひ今一度、自分たちの資料や伝達手順を見直し、一歩踏み込んだ変革にトライしてみてください。

読み手と現場が変われば、「失敗の出発点」だった専門用語の資料は、「現場力の起爆剤」に必ず変わります。

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