投稿日:2025年8月30日

物流のフレート監査で過請求と二重計上を防ぐ実務

はじめに:物流コストが利益を左右する時代へ

製造業の現場では、原材料費だけでなく物流費の高騰が経営に与える影響を無視できない時代となっています。
とくに今、日本を取り巻く物流事情は人手不足、法規制の強化、国際情勢の変化もあり、「物流コストの適正化」がどの企業においても至上命題となっています。

この流れの中、物流費の過請求や二重計上が発生していないかを精緻に管理する「フレート監査(Freight Audit)」への関心が急速に高まっていることをご存じでしょうか。
私自身、製造業で数多くのフレート監査実務に携わってきました。
そこで現場から見たリアルな課題や、帳票とシステムが混在する昭和型体質の中でどう是正し、いかに二重請求や過払いを防ぐか、その実務的なポイントを余すところなく解説します。

フレート監査とは何か?バイヤーとサプライヤーの共通言語に

フレート監査の基本定義

フレート監査とは、運送会社やフレートフォワーダー(物流業者)から提出される物流費用(主に運送料金)の請求内容を、取引契約や実績に基づき正確に検証する業務です。
物流費には、基幹原価以外にも多種多様な付帯料金(例:付帯作業費、待機料、特別手数料など)が混在しやすいため、請求書と実際の物流記録(出荷明細、納品実績、契約書など)が正しく突合されているかを目視・システム両面で精査します。

幅広く応用されるフレート監査の対象範囲

対象業務は国内配送、国際輸出入、不定期便や定期ルート便など多岐にわたります。
また、モーダル(輸送手段:陸・海・空・鉄道)の違いによっても請求原本の記載内容や課金方法が異なるため、契約内容の深い理解が必要です。
とくに家電、自動車、精密機械など部品点数が多く、小口・多頻度輸送が発生する業界では、事務的なチェックだけではカバーしきれません。
このため、バイヤー(荷主の購買担当者)、サプライヤー(輸送業者)の両者が情報をオープンにし、フレート監査を「共通言語」として認識することが近年増えています。

過請求・二重計上の実態と発生メカニズム

実際によくある過請求・二重請求のパターン

現場の感覚でいえば、物流費の過請求・二重計上は決して珍しいことではありません。
以下によくあるパターンを挙げます。

– 同じ運賃明細が2度請求される(二重計上)
– 特別作業費や立替費用など、契約外の名目が加算される
– 輸送距離や重量区分の読み違いによる請求誤り
– 輸出入時の通関手数料や海外側課徴金の重複請求

過請求・二重請求が発生する原因は、主にアナログ処理の残存、システム化の遅れ、現場業務と会計処理担当者との意思疎通不足などです。
とくに帳票処理がいまだ手作業、またはExcelベースで運用されている企業では、ちょっとした記載ミス、伝票紛失でも大きな損失に繋がります。

なぜ「昭和から抜け出せない」物流経理が温床になるのか

なぜ今も製造業の現場でこのような課題が根強く残っているのでしょうか。
要因として、以下の業界構造が挙げられます。

・従来からの慣習(例:FAX、紙伝票による業者間連絡)
・大手メーカーの系列取引重視による「お付き合い請求」
・現場多忙につき細かな業務見直しの後回し
・多重下請け構造による伝票・請求書の多重化

過去20年以上現場に身を置いて感じるのは、こうしたアナログ的な慣習や「決まったルールのなかで淡々とこなす」風土が、一見小さなミスでも組織的には積み重なり、最終的に大きな経営課題となる場合が多いということです。

最新の業界動向とデジタル化の波

EDIやBPOの浸透で何が変わるのか

ここ数年、デジタル技術やアウトソーシングの活用が急速に進んでいます。
特に注目したいのは「EDI(電子データ交換)」の普及と、フレート監査業務の専門アウトソーサー(BPO)の活躍です。
EDI導入により、運送会社との納品情報や請求情報が自動で突合されるため、伝票ミスや二重請求の発見率が飛躍的に高まります。
またBPOでは、専門的な知見をもつ外部スタッフが膨大なフレートデータの突合や不審点チェックを継続的に行うことで、現場の負担を大幅に減らすことができます。

AI、RPAによる自動化の到来

AIやRPA(Robotic Process Automation)の活用も見逃せません。
たとえば、AIによる異常値検出アルゴリズムを用いたフレートデータ突合で、人力検査では見逃しがちなパターンも一目で抽出可能となります。
これにより、毎月何百、何千もの請求書チェックが瞬時に行え、人為的な見落としが格段に減ります。

現場目線の「フレート監査」プロセス構築のポイント

事務担当と現場担当の連携強化

最大のポイントは「社内の物流担当者(出荷・納品)」と「経理・事務担当(請求書処理)」の情報連携です。
ときに両者は担当範囲が異なるため、「現場は忙しくて突合どころではない」「経理サイドは現場フローが見えない」といったギャップが生まれやすいです。
そこで、最低限以下のルール整備を実施しましょう。

– 明細毎に現場担当と事務担当のチェックリストを設ける
– 毎月一度は社内ミーティングで未解決案件を情報共有する
– デジタル化が難しい場合は、伝票の紐付け資料として簡易台帳を必ず作成する

現場ベテランの「目視突合力」を組織知へ

フレート監査の精度向上に欠かせないのが、現場担当者の「何かおかしいぞ?」という肌感覚です。
私の経験でも、目視で「この運賃は高すぎる」「この明細は先月も見たぞ」と直感的に気付く“匠”の技が、結果として大きな損失回避に直結したことが数多くあります。

このノウハウを属人的に終わらせず、組織内でチェックリスト化・ナレッジ共有することが、古い体質の製造業にこそ求められます。

外部パートナーとの「オープンブック」化

サプライヤー(物流業者)との関係性も重要です。
下請けが弱い立場に置かれがちな日本型取引ですが、フレート監査分野については「オープンに情報開示する」「契約単価・ルールを毎年見直し、共有する」など、パートナーシップを築く時代に変化しています。
サプライヤーから見れば「バイヤーはここまで見ている」と理解でき、健全な競争と適正価格に繋がります。

バイヤー・サプライヤー双方にとっての「監査文化」醸成がカギ

経営トップのメッセージが変革の起点

物流費の適正管理、フレート監査の文化定着には、現場任せにせず経営陣からの明確なメッセージが不可欠です。
「物流費は利益に直結する」「監査はコスト削減だけでなく、品質・信頼構築である」という方針を、役員レベルから現場末端まで繰り返し伝えましょう。

小さな“違和感”を見逃さない現場力育成

最先端のシステムや外部BPOの活用も有効ですが、最終的に価値を生むのは「現場の違和感・気付き」を組織知として蓄積できる企業風土です。
日常の簡易監査教育、月次レビュー、ヒヤリ・ハットの共有会など、ナレッジサイクルが回る職場を目指しましょう。

まとめ:新たな地平を切り拓くフレート監査への進化を

物流のフレート監査で過請求・二重計上を防ぐことは、単なる「損失防止」ではありません。
それは業務の高度化・可視化による物流最適化、そして自社とサプライヤー双方の信頼関係強化へと繋がります。

昭和から続くアナログの壁をどう乗り越え、現場知とデジタルを統合していけるかが、今すべての製造業に問われています。

バイヤーを目指す人、現場で直接請求書を扱う方、サプライヤーとしてバイヤーの「本音」を知りたい方――
ぜひ、今日からでも「自分の日常業務の中に監査の眼を持つ」ことからスタートしてみてください。
ちょっとした気付きと改善が、あなたの現場や会社を一歩前進させるはずです。

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