仕入先の保全計画レビューで突発停止起因の値上げを予防

仕入先の保全計画レビューで突発停止起因の値上げを予防

なぜ今「仕入先の保全計画レビュー」が重要なのか

昨今、製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。

原材料価格や物流コストの高騰、サプライチェーンの複雑化、そして新型コロナウイルスによる世界的な生産・供給の停止は、現場力に頼りきった従来型の「昭和の調達購買業務」には大きな試練となりました。

この中で深刻化しているのが、仕入先（サプライヤー）工場の設備故障や突発停止による納期遅延、品切れ、果ては値上げ要請の増加です。

設備トラブルによる生産停止や緊急対応は、仕入先のコスト増だけでなく、最終的には自社の調達コストや信頼にも直結します。

そのため仕入先の「故障・突発停止対策」、すなわち保全（メンテナンス）計画の中身と実行状況を、バイヤー側でしっかりレビュー（評価・指導）することが、今や調達・購買の新しいミッションになってきています。

昭和型サプライヤーマネジメントの限界

日本の製造業は長らく、現場力重視の「属人的管理」や「協力会社への任せっぱなし」が当たり前でした。

仕入先の設備管理についても、「納期さえ守っていれば口を出さない」「文句が出た時だけ応急対応」といった慣習も根強く残っています。

しかしこのやり方では、サプライヤー側の老朽設備やメンテナンス未実施、熟練作業者の退職など、見えないリスクが静かに蓄積されていきます。

そしてある時、突如としてライン停止・納期遅れ・コスト増が「値上げ要因」となって表面化します。

現場の泥臭い経験則だけではもはやリスクコントロールが追い付かず、体系的な仕入先保全部分の管理とレビュー力が今後ますます問われていきます。

サプライヤー設備保全の現状と課題

では、実際に仕入先の設備保全計画はどの程度進んでいるのでしょうか。

私の経験から言えば、中堅・中小サプライヤーほど「マンパワーや予算の都合で定期点検・部品の事前交換が不十分」「計画書や記録が属人化・アナログ化したまま」「トラブル発生後の場当たり対応が中心」といった課題が山積しています。

また、IoTやデジタル技術を活用した保全（予兆管理やリモート監視）は大手サプライヤーでも進捗はまだ道半ばです。

こうした現状を「見て見ぬふり」をするのではなく、バイヤー自身も仕入先の設備保全・保守計画に積極的に関与し、定期的にレビュー・助言を行う姿勢が次世代調達に求められています。

仕入先の保全計画レビュー　成功のポイント

保全レビューは単なる監査や「検査官」の役割ではなく、「共にリスクヘッジし、競争力あるサプライチェーンを維持するためのパートナー活動」です。

以下に、現場目線で重要と思われるポイントをまとめます。

1. レビューの目的を明確に説明する

バイヤーが急に「保全計画を見せてほしい」と言えば、サプライヤーは警戒します。

まず「ランニングコスト抑制と品質安定のため、設備トラブルを一緒に未然防止したい」「突発停止による納期遅れや値上げリスクを予防したい」という目的を明確に伝えましょう。

共生・共存の姿勢を示すことが肝心です。

2. 定量的な質問と現場観察を組み合わせる

保全計画レビューは書類だけでは見抜けません。

例えば
– 最重要設備リストと、それぞれの予防保全・修繕履歴は？
– 過去3年のトラブル件数と主因は？
– 保全担当者の人数・スキルと引継ぎ体制は？
– 予備部品の在庫状況や調達リードタイムは？

など、具体的な数字でヒアリングします。

同時に、現場を訪問して設備の外観、清掃状況、点検表への記入状況などを「五感」で観察し、現場スタッフの意識・雰囲気にも注意を払いましょう。

3. 設備更新やIoT化の必要性、金融・補助金情報も助言

老朽化が深刻な場合、「あなたの工場は危ない」と責めるのではなく、IoT診断や設備投資の補助金、設備リースなど資金調達ノウハウも一緒に提供すると、サプライヤーの信頼が高まります。

仕入先が自力で情報入手しきれない場合も多いため、バイヤー側からも積極支援する姿勢が重要です。

4. 緊急対応手順・連絡体制・納期見直しの合意

突発停止が発生した場合の「最優先対応の仕組み」「バイヤーへの即時連絡体制」「納期や出荷手配の迅速な見直し」など、事前合意事項を取り決めておくと、いざという時も慌てず済みます。

BCP（事業継続計画）とも連携した整備が求められます。

突発停止→納期遅延→値上げ　悪循環を断つ「仕入先×バイヤー」の共創

保全計画レビューを通じて根付く「協働型サプライチェーンマネジメント」は、突発設備停止による納期遅延や、そこから発生する「値上げ要因」の芽を早期に摘み取る最強の予防策です。

多くの場合、サプライヤー側での突発トラブル発生後、
– 仕入先：納期遅れや追加コストの拡大
– バイヤー：調達コスト増、リカバリー発生、取引先からのクレーム
– 会社間での不信感・責任押し付け合い

といった負の連鎖に陥ります。

これを断ち切るためにも、日頃からバイヤーが仕入先スタッフや現場マネージャーと「現状把握・見える化→計画的予防→早期是正」というサイクルを共に回すことが決定的に重要です。

事例：保全レビュー導入で突発停止ゼロ化・値上げ回避

私の在籍していた大手電機部品メーカーでは、かつて基幹サプライヤーのコア設備が老朽化し、突発停止に伴う大規模納期遅延と生産ラインストップを引き起こしました。

この教訓から「仕入先現場保全レビュー」の定着をスタート。

– 四半期ごとに現地で保全会議を開催
– 設備リストと保全計画・実績を見える化して共有
– 重点設備にはIoTセンサーを導入し、異常予兆の自動通知
– 新設備投資への共同出資プランも検討

これらを継続したことで、2年で突発停止由来のトラブル・納期遅れはほぼゼロ。

「突発停止が減少した分、追加コストや値上げ要請も消滅し、双方の信頼関係が明確に向上」という実例を体感しています。

サプライヤー目線のホンネ：バイヤーに期待していること

サプライヤーの現場から見ても、設備・保全の課題は「本当は何とかしたいが、目先の仕事で手が回らない」「コスト申請のハードルが高い」「最新技術や補助金の情報が不足」といった悩みが根底にあります。

バイヤー側から
– 客観的な目で現場を評価し、課題を整理してくれる
– 改善への投資・技術導入の情報協力や支援をしてくれる
– 保全投資によるコスト低減策や、共同提案型モノづくりの伴走者として接してくれる

このような関わりには大きな期待を寄せています。

未来志向の仕入先マネジメントへ

製造業の現場は未だにアナログな習慣や「現場優先主義」が支配的ですが、これをDX（デジタルトランスフォーメーション）やパートナー型調達へ進化させる時です。

仕入先保全計画レビューを通じてバイヤー自身が現場と深く関わり、単なるコストダウンや価格交渉ばかりでなく、「共創」と「リスク最小化」という現代的な調達力を発揮してください。

突発停⽌起因の値上げリスクは、保全計画の見える化と適切なレビューで着実に予防できます。

現場のリアルに根差しつつ、未来を見据えた「攻めのサプライチェーンマネジメント」の旗を一緒に掲げていきましょう。