投稿日:2025年10月7日

仕上げ工程での滑脱トラブルを防ぐ柔軟剤濃度と乾燥温度調整

はじめに:製造業の現場で頻発する滑脱トラブルの現状

現在、製造業の多くの現場では「仕上げ工程」における滑脱トラブルが後を絶ちません。特に繊維・フィルム・シート・ゴムなど表面処理や加工作業を伴う分野では、滑脱不良が商品の歩留まり低下や品質クレーム、さらには歩留り悪化によるコスト増加に密接に関係しています。

滑脱トラブルの根本的な原因として、柔軟剤(離型剤や滑剤を含む)の濃度管理不徹底、そして乾燥温度条件の最適化不足が挙げられます。日本の製造現場では未だに「経験則」や「昭和型の職人勘」に頼ったプロセス調整が強く残っています。しかしグローバル競争が激しさを増すいま、失敗を前提としたやり直しやアナログ現場での場当たり的対応は、現代のサプライチェーン最適化や品質保証という観点からは致命傷になりつつあります。

そこで今回は、仕上げ工程における滑脱トラブルを現場目線で徹底的に分析し、柔軟剤の適切な濃度管理と乾燥温度調整による未然防止策、さらには今後の業界標準となりうるデジタル活用事例まで踏み込んで解説します。

滑脱トラブルとは何か:発生メカニズムの理解

仕上げ工程の「滑脱トラブル」とは製品表面のすべり特性、あるいは製品同士の貼り付き・くっつき・はがれに関する不具合を総称します。

典型的な症状とリスク

・フィルム等のシート状原反がロール間で滑らず通板不良、シワの発生
・裁断や折り返し時のブロッキング(付着物が離れない)、二次加工ラインでの詰まり
・最終製品での静電気帯電や汚れ付着によるクレーム
・指定摩擦特性/すべり性規格を満たせず納入不可

滑脱不良は多様な要因が絡み合って生じますが、その7割以上が“柔軟剤濃度不足”または“乾燥温度過剰”に収束することが多いのです。

なぜ発生するか?

現場では「とりあえず多めに塗っておけばいい」「乾いた感触を優先」といった主観的な判断、また「機械任せの一律運転」などがトラブルの温床となります。柔軟剤(滑剤)の量が多すぎれば残留し品質問題に、逆に少なければ加工中の摩擦抵抗・静電気の増大、異物付着、製品同士の固着に直結します。

一方、乾燥温度が高すぎれば柔軟剤が焼けて分解または飛散し、低すぎれば十分に定着できません。これらパラメータの“最適化”こそ、昭和の勘と近代的科学の融合が求められている領域と言えます。

柔軟剤濃度と乾燥温度の正しい管理法

柔軟剤濃度―「多すぎず、少なすぎず」の黄金比を探る

柔軟剤を塗布することで表面の摩擦係数や帯電性を低減し、スムーズな取り扱いや後工程への負荷を下げることができます。

・適正な濃度とは
製品ごと、あるいは用途や下工程によって求められる滑り性が異なり、その度に最適な柔軟剤濃度は変動します。たとえばフィルム業界であればμ=0.2~0.4(摩擦係数)程度が規定値の場合が多いですが、これを実現するにはメーカー指定値の下限または上限ギリギリを狙い撃ちにする必要はありません。

最大のポイントは“現場固有の実ラインテストと顧客要求事項のすり合わせ”です。具体的には、以下のようなプロセスを推奨します。

1. 最小~最大濃度でテストピースを作成
2. 一次条件(ロール巻き付き・反射光加減)で仮評価
3. 二次評価として用途別加工テスト(印刷・切断・ラミネート等)を現場で実施
4. 最終的に摩擦係数・帯電量・仕上がり感触(目視・手触り両面)を定量・定性で対比
5. 顧客現場でも相互検証し、「ちょうどいい」点をダブルチェック

これにより、単なる規格値追従型から「顧客とともに作る真の最適化」へ進化できるのです。

乾燥温度―「分解・揮発NG」vs「未乾燥・残渣NG」

柔軟剤は、揮発性溶剤型・水系分散型・樹脂型・ワックス型など様々な化学系統があります。それぞれの加熱乾燥特性を理解したうえで以下2点に注視します。

・高温での過乾燥リスク
柔軟剤は本来製品表面に極薄のコーティング膜として残留させる必要がありますが、過度な高温乾燥を行うとそれが揮発消失したり、化学的に分解したりします。とくに有機溶剤型・低分子量ワックス型は200℃を上限とする場合が多く、現場に「焼け臭」や変色が発生する場合は要注意です。

・低温での未乾燥リスク
一方で、乾燥温度・時間が不足すると未反応分や溶剤分が残留し、「べたつき」や「異臭」、後工程での界面混入・ブロッキングの引き金になります。「表面が乾いたからOK」ではなく、内部残留溶剤分析(ガスクロ・重量減法など)も時には推奨されます。

最大公約数的な現場基準値例(フィルム業界)
・柔軟剤塗布後 乾燥温度:120~180℃
・乾燥時間:1~2分
・仕上がり面温度:実ラインで実測(赤外測温計など使用)
推奨は「昇温→保持→冷却」の三段階制御とし、定期的な濃度・残留溶剤のクロスチェックを行うことです。

アナログ伝承からデジタル管理へ:現場改革の推進力

昭和型現場の「勘と経験」からどう脱却するか

多くの現場ではいまだに「手元の感触」「ライン作業者の経験談」が仕上げ工程の微調整に活かされています。しかしこれには以下のような重大なリスクが潜んでいます。

・ベテラン不在時の再現性低下
・異物混入・原材料バッチごとの「ばらつき」を吸収できない
・実データに基づくPDCAサイクルの構築困難化

だからこそ、これからの時代は「個の知恵」を組織的な「標準」としてデジタル基盤に載せることが不可欠です。

IoT・品質管理ツールの活用例

・ライン上流部にオンライン濃度計を設置し、毎ロット自動記録
・乾燥炉毎にサンプル熱履歴を自動収集、AI型規格外アラームによる未然防止
・現場作業者の「仕上がり指先感覚」も定期的に定量化(5段階評価など)

これらを積み上げることで、現場・本部・顧客を横断する「サプライチェーン全体最適型モニタリング」が完成します。いまや「デジタル×現場知×IoT」が品質安定と効率化の最重要ファクターとなっています。

調達・購買担当、サプライヤーが知るべき実務ポイント

バイヤーやサプライヤー担当者にとっても、この領域のノウハウは必須スキルです。

・サプライヤー側観点

・顧客の滑脱・摩擦指示が「なぜそうなっているのか」を深掘り
・自社柔軟剤のライン適応性(泡立ち・分散・ローラー粘着)など現場課題も提案
・納入仕様書だけでなく、現場実証・共同検証データを常備
・ライン立ち会いや現場検証を通じた信頼構築

・バイヤー(購買担当)観点

・仕上げプロセス工程の現場ヒアリングを徹底
・柔軟剤・乾燥炉メーカー/現場オペレーターと三位一体の仕上げ値検討
・トラブル発生時の検証力、デジタル管理への投資判断
・安易なコストダウン品採用による“見えない品質コスト”にも警戒

これからは「滑脱」という一見地味な工程にも多面的な視点が求められます。顧客目線、現場目線、グローバル品質目線で現場改革力が問われる時代です。

まとめ:滑脱トラブル“ゼロ”を目指して

仕上げ工程での滑脱不良は、アナログな現場伝承が強い日本製造業の弱点である一方、柔軟剤濃度や乾燥温度管理といった“可変要素の最適化”という力強い改善余地も秘めています。

・勘や経験だけに頼らず、現場データ×デジタル×定量分析で最適値を追究
・柔軟剤の「ちょうどいい濃度」と「焼けない乾燥温度」を現場ごと、用途ごとに見直す
・バイヤー、サプライヤー、現場オペレーターが一体となった“現場起点型サプライチェーン連携”の構築

現場でやれることはたくさんあります。新たな地平線を開拓するラテラルシンキングで、一つ一つの改善を積み上げましょう。皆様の現場改革・品質改善の一助となれば幸いです。

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