投稿日:2025年10月14日

縫製時の糸切れ・スキップを防ぐ針番手・糸調整の最適化

はじめに:縫製現場で頻発する糸切れ・スキップ問題の本質

縫製業に携わる方なら一度は、縫製中の「糸切れ」や「スキップ」に頭を悩まされた経験があるのではないでしょうか。

どれだけ腕の良いオペレーターが丁寧に作業しても、糸が頻繁に切れたり、ステッチが飛んでしまうと、納期遅延や品質トラブルにつながります。

また、これらのトラブルが発生すると、現場のストレスが増加し、設備や部材への余計なコスト増加を招くおそれもあります。

その裏に潜むのは、「ミシンの針」「糸」「糸調子(テンション)」といった基本事項の選択ミスや調整不十分が大半です。

この記事では、20年以上の現場経験と管理職視点から、糸切れやスキップを激減させる針番手・糸調整の最適化手法について、実際のトラブル事例や業界動向も交えて解説します。

昭和時代から引き継がれたアナログな現場作業の中にも、最新技術を取り入れながら現場改善を進めるヒントが隠されています。

針番手の選定がもたらす縫製品質へのインパクト

針番手選定の重要性

針の番手は、生地の厚さや特性、糸の太さに合わせて適切に選ぶことが重要です。

よくある現場の失敗例として、「在庫管理しやすいから」と汎用的な針を使い回して製品ごとに細かい見直しを怠り、結果的に糸切れやスキップを多発させてしまうケースが挙げられます。

ミシン針は「NM(ナンバー・メトリック)」や「#(番手)」で規格が表記され、数字が大きいほど太くなります。

生地よりも針が細すぎると針の貫通力が足りずスキップや生地傷が発生しやすく、反対に太すぎると縫い目が荒れるだけでなく、生地を痛め、見栄えや耐久性にも影響します。

オーダーメイドの針選定フロー

実務では、「サンプル縫製時に問題が無いから」といって量産時も同じ針・設定で走り切ろうとする傾向が根強いですが、日常の現場変動(気温、湿度、部材ロット差など)や生地の個体差を加味して柔軟に針選定を見直す習慣が不可欠です。

私が工場長として心がけていたのは、最終加工品質だけでなく、「生地の伸縮・厚み・特殊加工(撥水、コーティングなど)」まで日常的に現場で触れてもらい、その都度スタッフ自身が針の太さや先端形状のバリエーション(標準針、ボールポイント、三角針など)を検証してもらう方式です。

社内マニュアルでは「定番針番手」の一覧作成とともに、「サンプル縫いテスト→針痕・縫い目チェック→不良発生時のフィードバック」まで一連のPDCAを現場に徹底的に根付かせることで、糸切れ・スキップを激減させました。

縫い糸選定の”現場的セオリー”と最新動向

生地と糸の”マッチング”が肝心

糸切れやスキップの発生を未然に防ぐうえで、針だけでなく「糸選び」も同じくらい重要です。

糸の材質、太さ、撚り(より)の強さ、染色方法、コーティング有無によって特性は千差万別になります。

厚手の帆布生地に細いポリエステル糸を用いると高確率で破断し、逆に極細の生地に分厚いミシン糸では針穴が目立つ仕上がりやスキップの原因となります。

また近年は「リサイクル原料使用糸」「高強度ナイロン糸」「滑り性・静電気対策コア糸」など選択肢が広がっています。

ただし、新素材や特殊糸は適正な針・糸調子との組み合わせを検証しないまま導入しても逆にトラブルが増えがちです。

昭和的”常識”からの脱却:糸の選定と調達の最適化

以前は、「ずっと使ってきたメーカー糸だから」「前任者から言われた通りだから」といった属人化した選定が一般的でした。

しかし時代は変わり、バイヤーやサプライヤー双方の立場からも「品質・コスト・調達安定性・サステナビリティ」にまで目を向けた糸選びが求められています。

現場リーダーとバイヤーが共同で糸メーカー・サプライヤーと現場テスト・実証評価を繰り返し、糸の使い分けや品質照査、また複数サプライヤーとの関係構築まで含めてプロアクティブに動くことが不可欠です。

糸調子(テンション)の”見える化”と継続的最適化

糸調子の重要性と調整ポイント

糸調子は縫い目の美しさや、糸切れ・スキップの発生率を左右する根本要素です。

「上糸と下糸の引き合い」が適切でないと、下糸が浮き上がったり、逆に裏面で糸環になったりします。

糸調子は、ミシンの機種や部材コンディションごとに設定方法や変動幅が異なるため、現場スタッフごとに極端なクセがつきやすい点に注意してください。

また、近年の生産現場では、熟練オペレーターの高齢化・退職やジョブローテションが進むなか、「手の感覚」だけに頼る評価から「標準値化」「点検・記録の見える化」への転換が社会的にも急務となっています。

テンションメーター活用:現場改善の切り札

設備自動化が進んだ大手メーカーでは、テンションメーター(糸張力計)や、IOT連動で糸調子を常時監視できるミシンも普及し始めています。

これにより、原因特定しづらかった「日々の糸切れ・スキップ変動」も、管理職・オペレーター・バイヤーが同じ指標をもとに原因分析と改善策の立案が可能となります。

さらに「デジタルチェックリスト(QRコード管理)」や「ライン日報」など、異常発生時のデータ蓄積とトレーサビリティを強化すれば、調達部門・サプライヤー連携も強化でき、品質保証・顧客満足の向上にもつなげることができます。

バイヤー・サプライヤーが知るべき”現場本位”のリスクマネージメント

現場と調達部門の連携で未然防止策を強化

縫製現場の不良対策=現場オペレーター任せ、という発想だけでは高い水準の品質保証は実現できません。

バイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場にいる方は、「実際の現場で困るのはどんな部材・資材なのか?」「なぜ変更・代替が現場でストレスになるのか?」といった現場のリアルな声を常に汲み取ることが必要です。

また、原材料やサプライヤー変更時の試験縫製、トラブル事例や改善プロセスを担当者同士で共有・記録しておくことで、緊急時のリスクも迅速に対処できます。

昭和から令和へ:進化する調達と現場管理

昔ながらの「現場=オペレーターの勘」「調達=コスト最重視」の壁は徐々に薄れつつあります。

多能工化やデータベース化が進む令和の現場では、現場・調達・品質・開発部門がフラットに知見やノウハウを連携し、課題ごとのジャストな対応が求められるようになりました。

工場長経験を経て感じるのは、現場の悩みやサプライチェーンの弱点は「点」ではなく「線」として現れる、ということです。

現場が小さな異常を感じた時に、部材調達、工程管理、品質保証の全段階で情報共有の回路ができていれば、過剰コストや納期遅延前に安定供給・品質担保が実現できます。

まとめ:現場発・最適化実践のポイント

糸切れ・スキップ問題を最小限に抑えるには、針番手や糸調整以前に、「現場に即した選択肢」を理解し、現場―バイヤー―サプライヤーが三位一体で能動的に改善サイクルを回す文化が大切です。

1. サンプル縫製を形骸化せず、現場スタッフ・バイヤーが一緒に最新版を検証する
2. 標準化・記録(デジタル化)による属人化排除と、トラブル時の履歴参照・迅速共有
3. 新素材・新技術への挑戦意識と、リスクアセスメントを調達計画・現場教育に落とし込む

これから縫製部門やバイヤーを目指す方、サプライヤーでバイヤー視点を知りたい方は、現場起点のボトルネック発見力と、業界横断の気づき(ラテラルシンキング)を持つことが、自社の信頼や付加価値を高めることに直結します。

縫製現場はアナログの世界のようでいて、最新技術やデータ活用への可能性が大きく広がっています。

ぜひ日々の業務改善に、現場×調達の知恵を融合させ、新たな地平をみなさん自身の手で切り拓いてください。

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