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カットソーのねじれを防ぐバイアス取りと裁断方向の基礎

目次
はじめに:製造業で求められるカットソーの品質
カットソーは、Tシャツやスウェットなど私たちの日常に欠かせない衣服の基礎となるアイテムです。
カジュアルウェアやユニフォームとしても需要が高いこの商品は、安価で大量生産される一方で、品質への要求も年々高まっています。
その中でも、カットソーの“ねじれ”は永遠の課題といえるでしょう。
着用や洗濯を繰り返すうちに脇線が回り、ねじれることで商品の美観や着心地が悪くなる…。
これは消費者だけでなくバイヤー、サプライヤーにとっても避けたいトラブルです。
この記事では、昭和から令和まで変わらぬ業界の悩みである「カットソーのねじれ」について、根本対策となるバイアス取りや裁断方向の基礎を、現場で培った観点・最新動向も交えて解説します。
なぜカットソーはねじれるのか?~素材と工程の基本原理~
カットソー素材の特性
カットソーは主に「編み物」、つまりニット生地で作られています。
横方向に糸がループしながら編まれ、伸縮性に優れるこの素材は、動きやすさや柔らかさを製品にもたらします。
しかし、この“編み物”という製法が、裏側でねじれやすい構造的弱点を抱えているのです。
特に広く使われる「丸編み機」で作られる生地は、どうしても生産時に糸の「撚れ(より)」が加わります。
この撚れが生地にテンション・歪みをもたらし、カットや縫製、そして着用・洗濯後に“ねじれ”として表面化してくるのです。
工程ごとの要因
カットソーのねじれ発生には、主に以下の3つの工程要因があります。
- 原糸段階での撚り方向(S撚り・Z撚りなど)
- ニット生地の編成時に生じるループの歪み
- 地の目(裁断方向)の誤りやズレ
この中でも、裁断工程で“地の目”に沿って生地を正確にカットできているかが、最もコントロールしやすく効果的な要素となります。
バイアス取りとは何か ~裁断現場が担う品質の要~
「地の目」を読むスキルが鍵
バイアス取りとは、生地の“地の目”を正確に見極めて、それに従って生地をカットする技術です。
カットソー生地は、通常「縦方向=ワープ(経糸)」と「横方向=ウェフト(緯糸)」の目があります。
しかし、丸編みニットではこれが複雑化し、目視では縫い目や筋(コース)を頼りに読み取る必要があります。
現場では、生地端(耳)の巻き込みや縦筋を頼りに、生地全体の「ねじれ」を補正しながら裁断位置を決めます。
多少のテンション差や歪みは、洗い加工や仕上げ工程で元に戻る可能性もあるため、現場の経験と勘が大きくものを言います。
裁断方向でなぜ「ねじれ」が変わるのか
例えば、ねじれをそのままにした生地を地の目に合わせずに裁断したとします。
すると、縫製後や洗濯後、生地本来が戻ろうとする力が働き、脇線が大きく後ろまで巻き込んでしまうことがあります。
これが「ねじれ」の正体です。
逆に、裁断段階で地の目通りに布地を戻し正しい方向でカットできていれば、製品化後もねじれの発生を著しく低減できます。
実践的な対策:現場でできるねじれ防止策
1. 生地仕入れ段階での事前チェック
大手バイヤーや調達担当者にとっては、“ねじれやすい生地”を事前に識別することが重要です。
サプライヤーや繊維メーカーの能力に依存せず、自らの目で地の目・耳のズレや布地の歪みをチェックしましょう。
最先端の現場では、AI画像解析で生地の「ねじれ角度」を測定する技術も登場していますが、手作業での確認技能は依然欠かせません。
2. 生地巻き戻し(リラクセーション)の徹底
編み上がった生地にはテンションが残っています。
そのまま裁断すると、生地が後で縮む(スパイラル変形)リスクが高まるため、事前に「巻き戻し」や「寝かせ」を最低12~24時間は行いましょう。
現場が忙しいと省略されがちですが、これがねじれ防止には非常に重要です。
3. 正確な地の目取りと裁断技術
裁断時には、生地の耳や縦筋を頼りに、テンションを均等に保ちながら広げます。
必要に応じて、レーザーマーカーや裁断プレートなどを用いて裁断方向をガイドするのも有効です。
また、ベテランの職人は手で“引いて戻して地の目を見る”という作業を繰り返し、裁断のわずかなズレも見逃しません。
ここまで注意深く工程を踏むことが、バイヤー側がサプライヤーに求める“本物の現場力”です。
4. 洗い・仕上げ工程での“戻り”把握
縫製後にガーメントウォッシュやタンブラー乾燥などを行う場合、ねじれが強調されたり逆に補正されたりすることがあります。
最終製品でのねじれ発生状況をラボ検査やオフラインサンプルで逐次確認し、全体の工程設計や仕様書にフィードバックしましょう。
デジタル化と人の技の融合 ~昭和から令和への業界変革~
アナログ業界の課題と先進事例
カットソー製造は「人の目」と「勘」の要素が依然大きい分野です。
特に素材ロットごとやサプライヤーの生産ラインごとに品質バラつきが激しく、完全オートメーションとは言い難い現実があります。
しかし近年では、海外では自動検反機やAIカメラを使った「地の目」認識と裁断工程の自動補正技術が進みつつあります。
日本でも一部大手ファブリックメーカーが自動地の目補正ラインを導入し、人為的ミスを省く事例が出ています。
それでも、最終的にすべてを網羅するのは「現場の観察力」と、設計・裁断・縫製まで工程全体を把握する経験知です。
“ラテラルシンキング”で現場力を革新する
昭和的な「とにかく人が頑張る」現場主義から一歩進めて、工程間の壁を越える「ラテラルシンキング(水平思考)」が、これからの製造現場では有効です。
たとえば裁断現場と原材料調達、品質保証部門が連携し、現物サンプルを用いて地の目判定ガイドラインを作成する。
またICT技術を活用し、生地手配から裁断、縫製、仕上げの各工程で「ねじれ度」を“見える化”するKPI管理を行うなど、全体最適化を図る方法も有力です。
バイヤー・サプライヤーが知るべき「ねじれ」への共通理解
バイヤー側の視点
仕入先管理や調達段階で、「ねじれに強いプロセスが確立されているか」を重視し、工程見学やQMS(品質マネジメントシステム)の有無を確認しましょう。
価格競争だけでなく、“ねじれクレーム”の再発率・対応力も見極める必要があります。
サプライヤー側の視点
単なる「コストカット」ではなく、技術力・現場観察力で“ねじれゼロ”を目指す努力が差別化要素になります。
特に、現場が抱えるねじれ要因をデータ化・標準化し、クライアントに分かりやすく説明することで、信頼獲得と受注拡大に繋がります。
まとめ:ねじれゼロのカットソーは“現場に根ざす”
カットソーのねじれ問題は、製造工程すべてに潜む“見えない品質”への挑戦です。
バイアス取りや裁断方向の基礎を徹底し、現場力とデジタル技術の融合で、これまでにない高品質な製品作りが可能となります。
バイヤー、サプライヤー、現場管理者のすべての立場で「ねじれ対策」への理解と地道な取り組みが、業界全体の持続的な進化を生み出す鍵です。
今こそ、昭和から続くアナログの智慧にICTや水平思考を掛け合わせ、世界に誇る日本の製造業をさらに強く発展させていきましょう。
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