投稿日:2025年8月26日

支給図面のバージョン違いで起きる不適合トラブルの予防策と管理ルール

はじめに:支給図面トラブルはなぜ起こるのか

製造業のバイヤーや生産現場で、しばしば大きな問題に発展するのが「支給図面のバージョン違いによる不適合トラブル」です。

この問題は、単なる現場の作業ミスや確認不足だけが原因ではありません。

昭和から続くアナログな業界体質や、デジタル化が進んだ現場でも避けがたい基本的なコミュニケーションのズレ、ルールの曖昧さが複雑に絡み合って発生しています。

ここでは、20年以上製造業現場とバイヤー業務に携わり、多くのトラブルと対策を経験してきた立場から、どのような原因があり、いかにして予防・管理すべきかを具体的かつ実践的に解説します。

支給図面バージョン違いでよくあるトラブル事例

生産現場の混乱:正しい図面がどれかわからない

生産現場には、設計変更や顧客からの要望で何度も修正版の図面が支給されます。

しかし、バージョン管理が徹底されていないと、古い図面で仕事が進み、
納品した製品が仕様を満たさず納入不適合となる事態が起こります。

特に大手サプライヤーと中小サプライヤー間では、図面管理のシステム化に大きな差があり、「どの図面が有効なのか」が現場担当者レベルで把握できていない場合が多いのです。

顧客との信頼関係の崩壊

納品した製品が最新設計とは異なる規格で作られていた場合、顧客からの厳しい指摘だけでは済まず、再発防止策の提出や、場合によっては取引停止、損害賠償問題へと発展することも珍しくありません。

一度信頼を失うと、元に戻すのは非常に困難です。

現場担当者の心理的ストレスとモチベーション低下

製造現場の担当者が「またミスをした」と責められる構図になりますが、本来はルールや仕組みの不備が原因です。

この負のスパイラルは、現場力や会社全体の生産性まで悪化させてしまいます。

なぜ支給図面のバージョン違いは発生するのか

メールや紙ベースによるアナログなやりとりが根強い

国内の多くの製造業では、未だに図面や仕様書のやりとりをPDFやFAX、場合によっては郵送で行っている企業が多数派です。

これでは、受信・管理者個人の感覚や手書きメモ、ホルダー分けの”なんちゃって管理”に頼る文化が残り、バージョン違いが発生しやすくなります。

図面番号やリビジョン(版数)記載ルールがそもそも曖昧

図面への図番・リビジョン記入がルール化されていなかったり、「リビジョンA→B」としていても、関係者すべてがその意味を本当に理解できているとは限りません。

バイヤー・現場双方で改定履歴の共有意識が低いと、食い違いを生みます。

設計部門、調達部門、現場の間での情報断絶

設計で図面変更があっても、調達(バイヤー)を経て現場へ正しく伝達されない場合が多々あります。

特に大手企業では部門間の壁が厚く、変更情報の”伝達漏れ”や”周知不足”が習慣的に起こりやすいのです。

バージョン違いトラブルの実践的な予防策

1. 図面番号とリビジョンを厳格にルール化し絶対遵守する

まず最初に「図面管理の徹底的なルール化」が必要です。

図面番号とリビジョン(改定記号・番号)は必ず全ての図面に記載し、「このルールだけは死守する」といった社内文化を作りましょう。

例えば、「図番-リビジョン記号(例:123456-Rev.C)」までを一つの図面識別子にする方法が確実です。

どんな細かな変更も必ずリビジョンアップし、改定内容・改定日・担当者を記録します。

社外サプライヤーを交えた場合も共通の認識を徹底しましょう。

2. 支給図面の管理台帳(出図・配布管理リスト)の活用

ExcelやAccessでも構いません。

図番・リビジョン・配布日・配布先・備考などを記録する管理表を必ず作成します。

図面を外部サプライヤーに支給するバイヤー担当者は、この台帳をもとに「いつ、誰に、どのバージョンの図面を渡したか」を記録しましょう。

現場への掲示やイントラネットでの社内共有も有効です。

3. 受領・納品の際は図面リビジョン番号の照合を厳守

現場では、サプライヤーや調達先から納品される際、現物と図面、そして図番・リビジョンが一致しているかを必ずチェックします。

不一致の場合は受領せず、「追加指示なく現場判断で進めない」ルール作りが重要です。

現場での”暗黙の了解”による対応はトラブルの温床です。

4. 図面共有は紙・メールに依存せず、デジタル管理システムを導入

できるだけ早くPDM(製品データ管理)やPLM(製品ライフサイクル管理)システムなど、クラウド型の図面データベース管理に移行します。

最低限、ファイルサーバーのバージョン管理機能を活用し、「最新版しかダウンロードできない・旧版はアクセス制限をかける」運用を目指しましょう。

中小企業の場合も「Google Drive」「Box」などのクラウドストレージと、誰が・いつ・何を見たかのログを必ず残す運用が現実的です。

5. 図面改定時は「必ず電話連絡+書面」でダブル通知を徹底

社外バイヤーやサプライヤーへの設計変更は、メール一本で終わらせず、必ず電話での口頭確認とF A Xまたは郵送、もしくは改定履歴付きPDFにて書面連絡を同時に実施しましょう。

「そこまでやるの?」と思われるかもしれませんが、大きなトラブルを防ぐためには必須です。

バージョン違いトラブル管理の社内ルール作成例

ルール1:バイヤー主導による図面一元管理

図面のバージョン管理は、バイヤー(調達)部門が主導で一元管理すると明文化しましょう。

現場やサプライヤーが勝手にダウンロードした図面で作業を始めないよう、出図申請―承認―配布というワークフロー管理機能の導入も不可欠です。

ルール2:サプライヤーとの合意締結

図面の支給手順や管理方法については、必ずサプライヤーとの間で明文化した合意書(協定書)を交わします。

図面番号・リビジョン管理、改定時の周知方法、トラブル時の責任範囲まで、明確なルールとしましょう。

ルール3:現場対応のFAQマニュアル整備

現場では様々なイレギュラーが発生します。

リビジョン不一致に気づいた時、どこに、どう報告し、どう対応するのかをFAQ方式のマニュアルで可視化しましょう。

日々の朝礼やミーティングで定期的に運用を確認・周知することも重要です。

アナログからデジタルへの転換、昭和的習慣からの脱却へ

製造業、特に下請け・中小製造の現場では「前からこれでやってきた」という昭和的な習慣が残りやすい傾向にあります。

しかし、グローバル競争の激化や、訴訟リスク増大の現代において、アナログな運用ではむしろリスクが高まっています。

デジタル化・標準化は、敷居が高いように感じますが、「ミスが絶えない状態を”人の責任”にしない、仕組みで守る」という新しい現場文化への第一歩でもあります。

最後に:製造業界の未来を守るのは“現場主導の仕組みづくり”

支給図面のバージョン違いによるトラブルは、「他人事」「現場だけのミス」と片付けず、バイヤー・現場・サプライヤー全体で見直すべき経営課題の一つです。

アナログな習慣を見直し、ルール化・デジタル化・チェック体制の徹底を進めることで、手戻りのない品質保証と、顧客・サプライヤー双方との信頼関係強化につながります。

現場経験者こそが主役となり、日々のオペレーションの中から防止策・仕組みを磨き上げることが、製造業全体のレベルアップにつながると確信しています。

「図面違いは防げる時代」。共に強い現場力を作りましょう。

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