投稿日:2025年7月11日

射出成形不良を防ぐ樹脂流動解析活用と事例で学ぶ対策

はじめに:射出成形の現場で今起きている問題とは

射出成形は精密部品から日用品まで、私たちの生活を支えるあらゆるプラスチック製品の製造に欠かせないプロセスです。
しかし現場では、不良品の発生や再発、歩留まりの悪化、原因不明の成形欠陥など、様々な課題が日常的に発生しています。
とりわけ、射出成形のプロセス不良は目視では検出しきれず、量産段階で重大なトラブルを引き起こすケースも少なくありません。

「成形不良の原因が分からず、“過去の勘と経験”頼みで対策せざるを得ない」
「抜本的な改善が進まず、同じ不良を何度も繰り返してしまう」
「不具合対策に追われて設計・開発リードタイムが短縮できない」

これは決して一部の工場だけの話ではなく、“昭和の手法”がいまだに色濃く残る製造現場全体の課題ともいえるでしょう。

射出成形不良の本質:なぜ現場で「流動」が軽視されるのか

射出成形における主な不良事例として、ショートショット(充填不足)、ウェルドライン、ボイド、ヒケ、バリ、銀条、気泡、反りなどが挙げられます。
これら不良の多くは、金型や成形条件の最適化、材料の選定だけでなく、「樹脂の金型内部での流動」がどのように起きているかに直接起因しています。

従来現場では、目視検査やトライ&エラー、或いは型屋や材料メーカーへの相談で“なんとかする”文化が主流でした。
流動現象の可視化や数値化といったサイエンスアプローチは、「難しい」「コストがかかる」「時間がない」と敬遠されがちです。
この姿勢こそが、昭和のやり方から抜け出せない最大の要因となっています。

しかしグローバル化が進み、サプライチェーンの複雑化・短納期化が求められる中で、勘と経験のアナログ手法だけでは工場運営や品質保証は限界を迎えています。
“流動”の科学的理解とシミュレーション(CAE)活用は、もはや業界標準になりつつあるのです。

樹脂流動解析(CAE)とは何か、現場にどう活かすべきか

樹脂流動解析(Plastic Flow CAE)は、金型内を樹脂がどのように流れるか・凝固するかをコンピューター上で再現・数値化するテクノロジーです。
これにより従来は“見えなかった”金型内の現象を見える化し、最適な成形条件・金型設計・材料選定を科学的根拠のもとで行えるようになりました。

流動解析から得られる主なデータと現場でのメリット

– 充填不良(ショートショット)の発生箇所・リスク予測
– ウェルドラインの発生位置と強度ロスの評価
– 保圧や冷却バランスによるヒケや反りの傾向予測
– バリやボイド発生リスクの事前察知
– 金型設計変更前段階での最適なゲート位置・ランナー設計検証
– 材料種や成形条件変更時の成立可否のシミュレーション

これにより、トライ&エラー工程の削減、初回からの不良率低減、歩留まりの維持向上、短納期化など、現場に直結するメリットが多数生まれます。

現場でよく起きる「先入観のワナ」

「解析は設計担当だけでいい」「ウチの工場規模では不要」と思っていませんか?

しかし流動解析は設計だけではなく、生産技術や品質管理、さらには調達部門、二次サプライヤーとも協力し合うことで最大効果を発揮します。
また、国際競争が激化する中で、発注側(バイヤー)の視点でも、「流動解析をどの工程でどう活用しているか」をサプライヤー選定基準やSQCD評価の一つとする企業すら現れています。

導入の壁はどう乗り越える?改善事例で学ぶ現場の変革

流動解析活用の成否は、導入目的・社内浸透・部門連携いずれにおいても、現場目線の“腹落ち感”と“使いこなし力”がポイントです。

事例1:自動車プラスチック部品メーカーの初期流動解析導入

背景:トヨタ系サプライヤーとして長年受注を続けてきたA社。従来は「図面通りの金型」を起点とし、ショートやウェルドライン等発生時もトライ&エラーで対応。しかし近年は納期短縮やコストダウン要求が増大、不良削減も至上命題に。

取り組み:社内検討の末、外部CAE企業と協力しながら流動解析トレーニングを全技術者に実施。「設計部門だけ」でなく「成形現場」「品質保証」までデータを共有する体制へ。

結果:初回試作時の不良発生率が半減。加えて、「材料・圧力条件を変えた場合の成形成立性」についても設計段階で目安を持てるようになり、リードタイムが20%短縮。調達部門も「流動解析で再現できない金型仕様」についてサプライヤーへ具体的な質問ができるなど、部門横断型の改善につながっています。

事例2:家電部品のバリ・反り対策を目指した“部門連携”の成功例

背景:家電向けプラスチック部品量産を手がけるB社。反りやバリの発生で歩留まり悪化、金型追加工や現場リワークが常態化。設計と現場の“責任のなすりあい”も根深い問題でした。

取り組み:不良発生時、「現物検証→流動解析→最適化」のPDCAを現場主導で実施。さらに調達部門が「どの材料・条件なら流動解析上成立するか」を事前にリスト化し、サプライヤーに“数値根拠つき”で仕様調整を依頼。

結果:バリ・反り不良が50%削減。加えて品質保証部もデータ解析に参加し「考察・是正措置の見える化」が進展。
バイヤー案件では「流動解析を現場で活用できているか」がQCD提案力評価の決め手となり、大手企業との追加契約取得にも直結しました。

流動解析の導入で“調達・バイヤー”が変わる、サプライヤーも変わる

射出成形分野において、バイヤーや調達部門の業務は単なる“価格交渉”から「技術力評価」「品質保証」「環境対応」そして「工程信頼性」という新時代の要求へとシフトしつつあります。
とりわけグローバルサプライチェーン構築では「流動解析によるリスク予防」が要求仕様の一部になりはじめています。

バイヤー目線での活用ポイント

– サプライヤー選定・RQCD評価に、流動解析データの開示/実施可否を基準化
– 量産前の工程監査で「どの工程が解析で確認されているか」をヒアリング
– トラブル対応時、「解析上のボトルネック」を基準に改善提案を要求
– 樹脂材料サプライヤーとの連携による材料選定・成形条件の科学的裏付け

サプライヤー(メーカー・加工業)目線での変化

– 「勘と経験」から「数値証拠と根本対策」へのマインドセット転換
– 金型設計・条件出しの段階で顧客と同じ“論理(データ)”でディスカッション可能に
– 小ロット化・多品種対応時の新型立上げリードタイム短縮
– 流動解析技能者の育成が“差別化ポイント”になる時代到来

小規模サプライヤーでも簡易流動解析(低コストソフトや共同利用サービス)から始めることで、“一歩上の信頼感”を獲得できるようになっています。

最後に:アナログ文化から脱却し「科学する現場」へのパラダイムシフトを

射出成形の品質向上・不良対策には、現場で直面するアナログ的課題を“科学的根拠”でひも解き、部門・会社間でデータを共有するラテラルシンキング的アプローチが不可欠です。
樹脂流動解析は決して“高嶺の花”でも“コスト負担”でもありません。
今日からでもtrials版ソフトや外部シェア解析など“小さな一歩”から始めることが可能です。

昭和のやり方を大切にしつつも、新しいテクノロジーを積極的に融合させることで、ものづくり現場の地平線は確実に拡がります。
現場・バイヤー・サプライヤーが流動解析を共通言語とし、真の日本の製造業競争力を高めていきましょう。

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