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商流に不透明な仲介業者を挟むことで生じる価格不信

目次
はじめに:なぜ「価格不信」は生まれるのか
私たち製造業の現場では、常に「原価低減」と「品質向上」という二律背反に悩まされてきました。
この両立を目指すうえで、調達購買部門が重要な役割を担っています。
しかし、その調達購買のプロセスには、いまだ「昭和型のアナログな商流」や、「透明性を欠く仲介業者」の存在が根強く残っています。
結果として、「なぜこの価格なのか?」という不信感が取引現場のいたるところで生じているのです。
本記事では、商流に介在する仲介業者が価格へ与える影響に焦点を当て、その課題や原因、対策、現場で求められるバイヤー思考を、管理職・調達責任者・現場バイヤーそれぞれの視点から掘り下げていきます。
さらに、今後の製造業が歩むべき透明な商流改革のヒントも提示したいと考えています。
現場で根強い「多重商流」の構造と課題
製造業に潜む多重商流の罠
多くの製造業の現場では、最終的に部品や原材料を調達するまでに複数の業者が介在します。
元受の商社、その下の専門商社、さらには一次・二次・三次のサプライヤーといった構造です。
たとえば、ある自動車部品1つとっても、メーカーA→商社B→代理店C→加工業者D→下請けE、といった具合に商流が幾重にも連なっています。
結果として、本来なら直接発注できるはずのサプライヤーから届く見積りが、複数の業者を経由することで「本当の原価」が見えない状態になっています。
仲介業者が価格決定力を持つ理由
日本の製造業界はかつて、“系列”や“御用達”の慣習が非常に強く、長年の信頼関係や担当者間の義理人情で商売が決まる文化がありました。
この慣習が「横入り」「口利き」の余地を生み、仲介業者が価格の主導権を握れる土壌となっています。
また、現場での技術情報や需給状況、仕様変更や数量増減の話など、本来は直接のやり取りをすべき細かな調整も、仲介業者が間に入ることで伝言ゲーム化し、不透明なコストが積み重なっていきます。
仲介業者が価格に与える3つの悪影響
1)コストインフレーションの連鎖
当然ですが、仲介業者が段階的に利益マージンを上乗せします。
現場感覚としては、最終的に見積もりが「製品原価+各段階の手数料」となり、気づけば20~30%もの上乗せが発生しているケースも珍しくありません。
時には、仲介業者側の利益率やリスクヘッジ分が実質の部品価格より高くなっている場合もあります。
これが続けば、購買担当者も「一体、本当の価格はいくらなのか?」と価格不信に繋がります。
2)技術・仕様伝達の遅延と誤解
現場で何度も経験するのが、「仕様変更事項」が商流の途中で正しく伝わらず、納入された部品と図面の食い違いが生じる事故です。
仲介業者が入ることで情報伝達の精度が落ち、調整のたびに時間や手間という無形のコストも増えていきます。
3)購買業務の“ブラックボックス化”
「この業者でしか買えない」「見積もりの根拠が不明」など、購買現場がチェックすべきポイントも曖昧になり、価格決定プロセスがブラックボックス化します。
これにより、購買担当がコスト構造や仕事の価値を十分に把握しきれなくなるばかりか、万が一トラブルが起きても原因を特定できないリスクが高まります。
昭和の商流を引きずる日本型調達モデルの現実
なぜ仲介業者による多重商流は残り続けるのか
私の現場経験から言って、仲介業者による多重商流が完全になくならない背景には、以下のような“昭和型日本企業”ならではの事情が影響しています。
- 特定業者との長年の付き合いによる慣性(サプライチェーンの固定化)
- 調達購買部門における「総務的・事務的発想」の残存(コスト解析力や交渉力の欠如)
- 品質問題や納期遅延が起きた際に“責任分散”ができる安心感
- 技術的な難易度が高い商材や、取引数量の小さい部品の集約調達に仲介業者が便利
特に日本では、不透明なマージンや特定の商社への“義理立て”でサプライチェーンが固定化されている現場も多く、異論を唱えにくい空気が蔓延しがちです。
この昭和型の名残が、業界全体のイノベーションやコスト競争力低下の要因となっているのです。
国内外で進む“商流”改革の潮流と日本の出遅れ
欧米メーカーのダイレクト調達モデル
世界に目を向けると、欧米メーカーでは「川下から川上へのダイレクト調達」「オープンBOM(部品表)の情報開示」など、商流の透明化が一層進んでいます。
調達部門は「サプライチェーン最大化=共同体価値創出」の発想でバイヤーの交渉力を強化し、極力マルチソース化と原材料段階での直接取引を推進しています。
IT化・デジタル化の進展も、商流透明化の強力な武器となっています。
ERPやSCMシステムの導入で在庫情報、過去実績・予測需要、取引履歴、価格情報が統合・可視化され、マージンやコスト構造の不明瞭さが是正されつつあります。
日本の製造業が“出遅れる”本質的要因
一方、日本国内では「関係性重視」「現場担当者の担当替え回避」「内向き文化」などが障壁となり、ダイレクト調達への移行が一向に進みません。
また、商流を整理しようとしたとき、既存取引先とのしがらみや、社内稟議・合意形成の時間的ロス、現場バイヤーの経験ノウハウ不足が足かせとなる場合も多く見受けられます。
バイヤーが抱く「価格不信」のリアルと、サプライヤー視点の対応
購買現場での“本音”と価格交渉バトルの心理
私自身、実際にバイヤーとして複数のサプライヤーから見積もりを取った際、同一スペック・同一ロットでの金額差に愕然とした経験があります。
「同じモノなのに、なぜA社とB社でここまで差がつくのか」、「どこにどれだけの利益が乗っているのか」という不信感はごく自然な購買担当者の本音です。
また、現場担当者レベルでは「上からコストダウン命令が繰り返し降ってくるが、本当の元値が分からないまま交渉し続けなければならない」ジレンマも、決して珍しいことではありません。
サプライヤーとして考えるべき「バイヤー心理の可視化」
サプライヤー側から見ると、バイヤーのこうした不信感や情報不足・比較検討不足は大きなビジネスチャンスでもあります。
たとえば、「価格のブレイクダウン資料をしっかり開示する」「工程の見学や納入前立ち合いを積極的に提案」「物流・加工や品質保証コストを明確に提示」など、価格の透明化にオープンな姿勢をアピールできれば、他社との差別化や新規取引獲得につながります。
このようなバイヤー目線での「価格透明化」は、今後サプライヤーにとって重要な営業・技術提供活動となります。
アナログ業界でも明日からできる「商流透明化」実践例
現場バイヤー・サプライヤー双方が始められる取り組み
たとえば以下のような現場主導の商流改革は、アナログな業界であっても今日からでも進められます。
- 部品ごとの「原価分解表」をサプライヤーと一緒に作成・精査
- 決まった商社・仲介業者を一度リセットし、「直取引」のテスト実施
- サプライヤー現場への定期訪問で工程を目視・コスト構造を理解
- 調達部門と技術部門、品質管理と三者面談を行い、技術・コスト・品質の情報を一元化
- 価格に疑問が残る場合は、納入元を指定変更し、実勢価格を実験的に比較検証
- 月次・年次で「価格透明性レビュー会議」を設置し、各部門が持ち寄る
地道な活動に見えますが、確実に「業者本位」から「現場本位」へ体質を変え、商流透明化の素地を作る力があります。
商流透明化の最終ターゲット:バイヤー自身の価値創造
消費されるだけのバイヤー“から”イノベーターへ
今後の製造業調達バイヤーは、ただ見積もりを取る作業者から、サプライチェーン全体の最適化・新たな価値創造に貢献できるイノベーターへと進化する必要があります。
なぜなら、商流が透明になればなるほど、「価格勝負」から脱却し、「技術提案」「共創開発」「納期短縮」「SDGs調達」など、多面的なバイヤー能力が重視される時代になるからです。
サステナブルな商流へ:最後に問われるのは現場の“覚悟”
商流透明化は言うは易し、行うは難しですが、市場競争力の源泉を現場主導で築くには欠かせないテーマです。
仲介業者の不透明マージンに依存し続けるのか、それとも取引現場を見える化して働き方や生産性を根本から変えていけるのか。
現場のバイヤー、サプライヤー、管理職が一丸となり、少しずつでもアクションを積み重ねていくことが、閉塞しがちな日本型製造業に新たな地平線をもたらすはずです。
まとめ
商流に不透明な仲介業者を挟む構造が生み出す価格不信は、過去の日本型調達モデルから脱却しきれずにいる現場の象徴といえます。
しかし、バイヤー・サプライヤー双方が透明性、コスト構造の可視化、デジタル活用、現場主導の商流改革に“一歩”踏み出せば、新たな調達競争力と「共創の価値」を手に入れることができます。
今後の製造業は、「価格の見える化」から「価値の創出」へとパラダイムシフトが求められています。
今日からでも始められる“小さな一歩”が、明日の業界全体の革新に繋がると確信しています。
現場で悩んだその経験を勇気に変え、ぜひ透明な商流づくりを牽引してみてください。
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