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消耗品OEM商品の価格帯設定と利益確保のための交渉術

目次
はじめに:消耗品OEM市場における価格帯設定と利益確保の重要性
日本の製造業では、消耗品のOEM(相手先ブランドによる製造)ビジネスが年々拡大しています。
とりわけ、緻密な品質管理とコスト管理が求められる現場では、OEM商品によるコストダウンの恩恵が大きい一方で、サプライヤー側の利益確保も大きな課題です。
昭和時代からの取引慣行や、未だに根強いアナログ商習慣の中で、いかにして適正な価格帯を設定し、健全な利益を確保できるか――それは製造業に関わるバイヤー、サプライヤー双方にとって永遠のテーマとも言えるでしょう。
ここでは、20年以上製造現場で得た知見をもとに、現場目線の実践的な価格設定方法と交渉術について解説します。
消耗品OEMビジネスの特徴を再整理
消耗品OEMとは何か、その特有の難しさ
消耗品OEMとは、顧客ブランドで使用される消耗品(たとえば工業用フィルターや小型部品など)を受託製造・供給するビジネスモデルです。
消耗品は製造プロセス全体で使用頻度が高く、多品種小ロット、短納期、コスト重視という特徴があります。
しかも「どこでも手に入る」汎用部材が対象になりやすく、差別化が難しくなっています。
この環境下では、価格交渉力の差が利益率の差となり、サプライヤーは「ただ安く請け負うだけ」の消耗戦に陥りやすいのです。
利益を失いやすい価格競争の構造
生産現場では「一円を削る努力」が美徳とされ、バイヤーサイドからは容赦ないコストダウン要請が続くことも少なくありません。
また、昭和時代から続く「付き合い重視」の商習慣が根強く残っており、「値下げ要求を断れば、長い付き合いが終わる」と考えがちです。
この構造のままでは、サプライヤーもバイヤーも共に疲弊していきます。
現代の製造業に必要なのは、納得感ある価格帯の設定と、利益確保へのラテラルな発想、そしてそれを実現する交渉術です。
ステップ1:原価を徹底的に”見える化”する
原価構造を知り尽くすことが価格交渉の出発点
現場の”肌感覚”で価格設定を行いがちな業界において、まず最初にやるべきは「正しい原価の把握」です。
材料費・加工費・間接費・物流費・事務費…一つひとつを精緻に“見える化”し、ボトルネックとなっているコストを洗い出します。
ここで重要なのは、「このコストはどこまで圧縮できるのか」「圧縮すると品質や納期に影響は無いか」と徹底的に現場と対話することです。
アナログな記録や“なんとなく”での値決めから脱却し、社内データやデジタル化を積極的に取り入れることがカギとなります。
付加価値と“作業のムダ取り”のバランス
原価を削減するだけが正解ではありません。
消耗品OEMの場合、品質保証や特殊なアフターサービス、小ロット対応といった“付加価値”もまた重要なコスト構造の一部です。
バイヤー目線に立って「ムダなコストだけにメスを入れ、必要な価値は維持・強化する」ことが価格帯設定の土台となります。
ステップ2:相場・競争環境を見極めて価格帯を設定する
業界相場の調査と見積りのロジックづくり
価格設定で陥りがちなのが「他社がこれくらいだからウチも合わせないと」という無批判な相場追随です。
ですが、同じような原材料・仕様でも、各社の原価構造や商流は異なります。
バイヤーの購買行動は、見積り根拠やコスト合理性にしっかり目線が向いています。
「なぜこの値段なのか」を問われたときに、材料相場、工程コスト、管理コストそれぞれの裏付けが説明できるロジックを事前に用意しましょう。
また、単なる値下げでなく「仕様を調整すればこの金額になります」といった、“選択肢付きの提示”も効果的です。
価格帯に幅を持たせ、交渉の余地を残す
消耗品は定型のカタログ品だけでなく、「若干のカスタマイズ」「ロットごとに仕様変更」などイレギュラーが発生しやすい商材です。
したがって価格にも“幅”を持たせ、「標準仕様なら低価格、特殊対応ならオプション付き」といった二段階設定を意識します。
価格帯の幅を持たせることで、交渉のたびに赤字になる事態や、筋の通らない値下げ要求を未然に防ぐことができます。
ステップ3:現場目線の交渉テクニック
「断る技術」で無理な値下げを回避する
約束できない安値を即答で受けてしまうと、以降の取引もその価格が“当たり前”の基準になります。
バイヤー側のコストダウン圧力に押されてしまいそうなときは、曖昧な了承を避け、「これが我々の最低ラインです」と毅然と伝えることが、かえってその後の信頼獲得につながります。
現場でよくあるNG対応は、「一度受けてしまって赤字状態から抜け出せなくなった」もしくは「値下げ要求だけに応じてしまい、貴重な付加価値や関係性を損なった」ケースです。
「条件の提示」で主導権を握る
価格交渉は、ただ値切られるだけの“受け身”になってはいけません。
“こうすればこの金額になります”という条件付きでの価格提示――たとえば「まとめて○ロットなら1個あたり○円」や「年間契約でこの価格」等――を用意し、交渉の主導権を握るようにします。
この「条件付き交渉」スタイルは、昭和的“付き合い重視”が強い現場でも有効です。
「○○工場長の顔を立てるためにここは特別価格ですよ」といった、現場同士の人間関係も重視しつつ、論理的な条件提示で利益を確保します。
コミュニケーション重視の関係性構築
「バイヤーはいかにコストを下げるか」「サプライヤーはいかに単価を守るか」という対立図式からは、長期的な信頼関係は生まれません。
普段から現場同士がよくコミュニケーションを取り、工程改善や現場見学などの交流を重ね、お互い何を重視しているかを知っておきます。
そうすることで、「安ければ良い」というだけでなく、「この会社となら長く付き合うために、ある程度一定の利益は確保してもらいたい」と思ってもらえる関係が築けます。
この“現場目線の信頼関係”は、デジタル化や業界再編が進んでも変わらない大切なポイントです。
サプライヤーから見た「バイヤーの本音」
バイヤー(購買担当者)は、単に「安く買いたい」だけではありません。
責任あるバイヤーであればあるほど、「後工程でのトラブルを回避したい」「安すぎると品質トラブルが怖い」といった心理も強く働いています。
また現場の人間関係・稟議・コストダウン目標といった“組織の論理”の中で動いていることも理解しておきたいところです。
サプライヤーが提供できる柔軟な対応(短納期、小ロット、工程改善提案など)が、価格以上の“選ばれる理由”となることも多いのです。
バイヤー志望者・サプライヤー必見の実践的交渉Q&A
「他社はもっと安い」と言われた時の返答例
「御社のご要望を踏まえた場合の標準仕様では、この価格が最適です。
他社様の価格条件も教えていただければ、社内で対応できる範囲を再度精査した上でご相談させていただきます」
QCD(品質・コスト・納期)のどこを重視するかを再確認し、安値では対応できない理由を丁寧に説明しましょう。
「あと10%下げてほしい」と言われた時の対応例
「現仕様・現ロットで現行価格が限界です。
それ以上の値下げご希望の場合は、納期やロット数量、仕様の見直しで再算定する形となります」
“条件とセット”で説明するのがコツです。
「不採算ラインギリギリ」な案件を断る場合は?
「申し訳ありませんが、現状のままでは赤字となり、長期安定供給が難しいと判断いたしました。
御社と長くお付き合いしたいので、現場目線で工程改善やコストダウンのご提案が可能です。
ぜひご一緒に最善策を考えさせてください」
完全なNOでなく、「代替案の提示」で次につなげます。
現場発・昭和的商習慣との上手な付き合い方
昭和的商習慣の“なあなあ”や“顔を立てる”も日本の製造業に根強い文化です。
この文化を全否定するのではなく、合理的・論理的な説明を加え、現場が納得できるバランスで取り入れていくのが現代的な交渉術のあるべき姿です。
“長いお付き合いだからこそ率直に言う”“現場同士で意見交換する”ことが、むしろ信頼感や安心感を高める要素にもなります。
まとめ:利益ある受注が企業・業界の存続を支える
消耗品OEM商品の価格帯設定と利益確保のための交渉術は、「ただ安く受ける」だけでは見えてきません。
現場目線の原価分析、幅広い業界相場の見極め、筋の通った交渉テクニック、そして信頼関係構築――
これらすべてが合わさって、はじめてサプライヤーとして長期的に“選ばれる存在”となるのです。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場で「バイヤーの裏側」を知りたい方にとって、本稿の内容が現場で生きる交渉力・価格設定のヒントになることを願っています。
そして、アナログな業界ならではの“人と人との信頼”を大切にしつつ、論理的に利益を守ることが、製造業全体の発展につながるのです。
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