投稿日:2025年8月29日

社内設計と連携する「価格レビュー会議」アジェンダ例

はじめに:価格レビュー会議の重要性

製造業に携わる方なら、「価格レビュー会議」という言葉を一度は耳にしたことがあると思います。
特に近年、原材料価格の高騰やグローバル競争の激化が進む中、企業の利益を守るためのコストコントロールは、調達・購買部門だけでなく設計、生産管理、品質管理、さらには経営層全体にまで密接に関わる重要なテーマです。

価格レビュー会議は、調達部門のみならず、設計部門、製造部門、場合によっては営業部門までもが横断的に参加し、製品や部品の妥当なコスト、さらには機能や品質のバランスを議論・見直しする会議です。
この会議が適切に設計・運用されることで、現場視点を交えた最適調達と、部門間連携の深化、最終的な企業競争力の向上が実現します。

この記事では、昭和的な“どんぶり勘定”から脱却し、現代製造業に求められる“見える化・納得感”のある価格レビューを進めるためのアジェンダ例と、実務で押さえるべきポイントを解説します。

価格レビュー会議とは? 目的と実務現場での背景

会議の目的

価格レビュー会議の主な目的は、
– 調達先(サプライヤー)からの見積もり価格が適正か
– 製品や部品の要求仕様(QCD:品質、コスト、納期)とのバランスが取れているか
– 他社比較(ベンチマーク)やコストダウンの余地があるか

を多角的に検証し、組織として最適な意思決定を下すことです。

現場の課題・背景

多くの製造現場では、価格決定やコスト構造の議論が「調達」や「営業」といった部門に偏りがちです。
そのため、サプライヤーからの見積もりを“そのまま通す”リスクや、
設計部門が「高機能・高コスト”になりがち」といったジレンマも生まれます。

昭和時代から続く「前例踏襲」「なんとなく妥当そうだからOK!」という進め方では、競合他社との差別化や持続的な利益創出が困難になります。
現代の製造業では、設計者・調達担当・生産現場の知恵を集結した透明性ある意思決定が不可欠です。

アジェンダ例:本質的な連携を生む会議設計

価格レビュー会議を有意義に進めるには、事前準備・運営・フォローアップまでを想定したアジェンダ設計がポイントです。
現場目線で「実際に使える」アジェンダ例を、各項目ごとに解説します。

1. 開会・目的・進行役の明確化(5分)

– プロジェクト名称、見積もり対象製品・部品、会議のゴール(例:A部品のサプライヤー選定、またはコストダウン案の創出)の明示
– 進行役・記録者の指名(調達部門 or 調整役)

2. 仕様・要求水準の再確認(10分)

– 設計部門から対象部品・製品の仕様説明(What&Why)
– 必要最低限の“Must条件”と、“欲しいNice to have条件”の整理
– 品質基準・リスク要件の洗い出し

これにより、調達・設計で齟齬のない共通認識のもとで議論が進められます。

3. 見積内容の内訳説明・サプライヤー情報共有(15分)

– 調達部門より、各サプライヤーの見積もり内訳と提示根拠を説明
– 歴史的取引価格や、市場価格ベンチマーク情報
– サプライヤーの製造能力や納期実績、品質管理体制の評価

複数サプライヤーの情報を俯瞰することで、正当な比較検討が可能になります。

4. コスト分析(要素分解・VA/VE検討)(20分)

– 主要コスト要素(材料費、人件費、加工コスト、運賃など)の可視化
– 材料やプロセスの置き換え(VA/VE:価値分析/価値設計)の議論
– 設計変更によるコストダウン案の模索

ここでは「現場の知恵」と調達・設計のコラボが不可欠です。
「この加工はアッセンブリー化できないか」「材料グレードを下げても工程で吸収できるのでは?」といった斬新な発想を歓迎します。

5. 農耕的なコストダウンアイディアの創出(10分)

– “一足飛び”の交渉による値下げ依頼だけでは限界があるため、日々の地道な改善(たとえばジャストインタイム供給、歩留まり向上など)も価値あるコストダウン
– 工場自動化の提案、ロボット導入なども積極的に議題に取り上げる

6. リスク/品質/納期総合判断・部門間合意形成(15分)

– コストのみならず、品質維持や納期リスク(バックアップ体制、供給安定性など)の確認
– 設計・調達・生産管理などの部門コンセンサスを醸成

7. 決定事項の確認・今後のアクション(5分)

– 採用サプライヤー、要調整事項、設計変更要否など“議事録レベル”で明文化
– 次回までの課題・期限・担当者の設定

実践的な運営Tips:現場を動かすコツ

1. 設計部門を“巻き込む”工夫

「設計が決めた仕様は絶対」ではなく、設計者を会議に必ず同席させ、“良いものを安く”の発想を共に練ります。
設計・開発側もコスト意識や調達現場の事情を肌で感じ、逆に調達側も商品設計の深い背景を理解できます。

2. サプライヤーと“共創”する姿勢

価格レビューは単なる値下げ交渉会ではありません。
「なぜこのコストアップなのか」「どこが非効率か」とサプライヤー目線でも考え、お互いにウィンウィンとなる解決策を練ることが長期的には自社の競争力向上につながります。

3. 会議形式のアップデート

昭和的な“紙ベースの印刷物回付”に頼るのではなく、デジタル化(PowerPointやExcelのリアルタイム共有、TeamsやZoomによる遠隔参加)を積極的に活用しましょう。
議事録もその場で画面共有・書き込みし、「言った言わない」を未然に防ぎます。

サプライヤーが知りたい・バイヤーが考える本音

バイヤーの裏側心理

バイヤーは単純に「値下げ」にこだわっているわけではなく、長期安定供給、高品質維持、サプライチェーン全体効率を考えて日々“悩んで”います。
サプライヤーとしては、「コストの根拠を分かりやすく、データで示す」「こちらの改善努力・現場の工夫を資料化して示す」ことが信頼構築の近道です。

「言い値」でなく“根拠ある価格”文化を全社で育てる

特に昭和から続くメーカー文化では、価格は「どこまで本当のコストか?」「減らす余地があるのか?」という“曖昧さ”が残りがちです。
全社で“コスト見積もり/価格決定プロセスの見える化・透明化”が浸透すれば、サプライヤー、バイヤー双方の健全な関係づくりにつながります。

まとめ:価格交渉から価値共創型レビューへ

価格レビュー会議は、単なる値引き交渉の場ではありません。
部門横断型の知恵を集め、設計・品質・コストを両立させる「価値共創」のプロセスです。
昭和的な単線的決裁、紙ベースの非効率な運用から一歩踏み出し、“透明性ある議論”と“現場発アイディア”を積極的に活かしましょう。

どの立場でも、「なぜこの価格なのか」「この仕様は本当に必要か」「他部門ともっと連携したらどうなるのか?」という疑問を持ち、会議の場でオープンに意見することが、真の付加価値・競争力向上につながります。

製造業の皆さん、バイヤーを目指す方、現場から新しい時代の“適正価格”文化を一緒に育てていきませんか?
現場をよく知る同士でこそ、会社を、そして日本のものづくりを変えていくことができるでしょう。

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