投稿日:2025年11月26日

OEMパーカーで利益を出すための価格戦略と販路設計

はじめに

OEMパーカーのビジネスは、一見ファッション業界の流れに乗って簡単に始められそうに見えるかもしれません。
しかし、実際には製造業ならではの原価管理や販路設計、さらには業界特有の慣習や価値観が強く根付いているため、利益を出すには戦略的な取り組みが不可欠です。

本記事では、製造業現場で長年働いた経験を活かし、OEMパーカービジネスの価格戦略と販路設計に焦点を当て、昭和的な商習慣からの脱却も視野に入れた実践的な内容をお届けします。

OEMパーカーとはなにか?

OEMパーカーとは、自社で企画したパーカーを他社に製造委託し、自社ブランドで販売する商品のことです。
このモデルは、アパレル業界のみならず、ノベルティやスポーツチーム向けなど、幅広い業種で活用されています。

最小ロットや印刷方法、生地の選択肢など、細かな仕様は多岐にわたりますが、最も重要なのは「いかにコストを抑え、最終的な売価で利益を確保するか」という点です。

製造業視点での価格戦略とは

価格は「逆算」で設計する

OEMパーカーの場合、上流から下流までのコストを積み上げて価格を決定する方式(コストプラス)はよく用いられます。
しかし、現場感覚としては「販売価格から逆算して、どこまでコストを下げられるか」を意識するリバースエンジニアリング的な発想が極めて重要です。

マーケットイン思考、バイヤーの期待価格、競合他社の動向などを照らし合わせて、想定収益を明確に設定します。
そのうえで原材料費・加工費・物流費・営業コストをリストアップし、利益率20%を確保できる「仕入れ上限価格」を算出します。

ロット別の価格シミュレーション

工場側の視点にも立ち、ロット(生産数量)別に価格をシミュレーションすることも不可欠です。
例えば、100枚生産時と1000枚生産時では、単価が大きく異なります。
この差は材料の大量調達によるスケールメリット、工場の設備稼働率、段取り替えのコスト分散など、実務的な要素から生まれます。

経験上、OEMビジネスの利益率が高い案件は「閑散期の遊休設備活用」や「タイミングを見た共同発注」など、従来のアナログ的手法と新しい発想の組み合わせが多い印象です。

「値付け」は素人が最も失敗しやすいポイント

消費者の可処分所得やブランド力、想定される販路(BtoC,BtoB,BtoBtoCなど)を具体的にイメージして、価格の「上限」「下限」を設定します。

過去、「とにかく値段を下げよう」と赤字近い価格を設定して自滅する例も多々見てきました。
ブランド価値や顧客満足を落とさず、なおかつ競合に埋もれない独自性を生み出す「価値訴求型値付け」も意識していきましょう。

付加価値による差別化

パーカー自体の機能はベーシックでも「オーガニックコットン利用」「サステナブル生産」「特許取得技術の縫製」といった高付加価値を打ち出せば、売価の選択肢が大きく広がります。

この点、昭和時代以来の「モノづくり至上主義」に捉われがちですが、現代はストーリーや社会的価値とセットで売る戦略が求められています。
現場視点でも、協力工場や下請けとの信頼構築を通じて、イノベーティブな提案を積極的に巻き込んでいくことが重要です。

販路設計には「現場発想」と「デジタル」が不可欠

従来型販路(BtoB)の強みを活かす

日本の製造業では、長らく「顔が見える商売」を重んじてきました。
量販店や専門店など、リアルな取引を重視する傾向は、特にアパレルOEMでは依然根強く残っています。

この伝統的な販路は、「安定した継続発注」「納期厳守が徹底」「できる範囲でのカスタマイズ対応」などが強みです。
一方、価格や納期での無理な要求も多く、赤字受注に陥るケースもしばしば。

契約前の交渉段階で「できること・できないこと」を現場目線で明確にし、自社の利益率を守る体制づくりが必須です。

デジタル販路(ECプラットフォーム、D2C)の攻略

一方で、SNSやECの発展により「インターネット直販」が大きなトレンドとなっています。
D2C(Direct to Consumer)モデルでは、小ロットでのOEM製造→自社ECサイトでダイレクト販売というルートが一般化しています。

中堅メーカー以上であっても、展示会・営業中心の販路に加え、自社サイト・ECモール・Amazon,楽天等とのハイブリッド運用は今や必須です。

この場合、製造現場とデジタルマーケティング部門が分断されがちですが、製品の「差別化ポイント」や「品質へのこだわり」を現場発信で情報発信し、消費者の安心感につなげるのが有効です。

サプライヤーの強みを打ち出す販路連携

受注側(OEMサプライヤー)としては、バイヤーの狙いや事業計画をなるべく早い段階で共有することが、販路拡大の第一歩です。

現場を知っているサプライヤーであればこそ、「このスペックなら、こんな販路展開が可能です」や、「この仕様だと海外輸送が有利」など、販路設計そのものへの参画が可能となります。

バイヤーにとっても「情報をくれるサプライヤー」は大きな存在です。
信頼関係を築き、相互にメリットを享受できるパートナーシップへと昇華させることが、昭和流の下請けマインドからの脱却に繋がります。

OEMパーカーの利益最大化に向けた5つの具体施策

1. 原材料ロスを徹底削減

パーカーの利益率を圧迫する最大要因の一つが原材料ロスです。
裁断パターンの見直しや、端材の再活用、縫製工程での歩留まり管理を徹底しましょう。

現場の作業員にも「なぜこのムダが出るのか?」を共有し、改善策を一つひとつ積み上げていくことが利益増への近道です。

2. 共同受注・共同生産によるスケールメリット活用

同じ仕様のパーカーが複数社で必要な場合、共同受注や資材の共同購入によるコストダウンが可能です。
従来の「競合=敵」という昭和的感覚から、「協調できる部分は協調する」という発想の転換が、今や求められています。

3. 生産管理・進捗の“見える化”徹底

注文ごとの受注生産は、進捗遅れやミスが大きなコスト増に直結します。
生産現場とバイヤー部門がリアルタイムで状況を共有できるよう、簡易な見える化ツール(ExcelやGoogleスプレッドシート、クラウド系アプリ)を駆使しましょう。

4. 品質管理プロセスの事前すり合わせ

“品質トラブル=赤字の元”というのは製造業の鉄則です。
特に海外生産や新規提携工場では、サンプル提出や仕様書の徹底確認を行い、事前フェーズでのリスクヘッジが必須です。

これもバイヤー、サプライヤー双方の現場目線でのすり合わせが欠かせません。

5. 企画から販売まで一貫管理する「バリューチェーン思考」

従来の分業型(製造は工場、販売は営業)のやり方だけでは、都度の伝達ミスやロスが頻発します。
これからの製造業では、OEMパーカーを企画段階から販売まで一四体でプロジェクト管理できる体制づくりが不可欠です。

これにより、タイムリーな情報共有とスピーディな意思決定、市場動向に合わせた商品開発が可能となり、より高い利益率が見込めます。

まとめ:OEMパーカーで勝ち続けるための本質的ポイント

OEMパーカーで利益を出すには、価格戦略と販路設計を単なる「損益計算」や「ルート確保」にとどまらず、いかに現場発の創意工夫を加えるかが鍵を握ります。

昭和的な「人脈・根回し」も依然として重要ですが、それだけでは時代の変化に取り残されます。
デジタル活用やサステナブル発想、現場の声を反映したものづくりを軸に、製造と販売の垣根を越えた新しい価値提案に挑戦してみてください。

現場感覚に裏打ちされた「難しいけれども利益が出る」OEMパーカー戦略が、これからの時代の製造業の新たな可能性を切り拓くはずです。

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