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塗装耐久性を確保するための下塗り・中塗り・上塗り設計手法

目次
はじめに:塗装工程の本質を見直す時代へ
現代の製造業は、省エネや環境への配慮、トータルコスト削減といった巨大なうねりの中にあります。
しかしながら、工場現場には今なお「昭和」的な発想で運用されている塗装ライン、古きよき手順がそのまま踏襲されている工程が数多く存在しています。
塗装工程は見た目の美しさだけではありません。
耐久性こそが塗装品質の核心であり、その土台となるのが「下塗り・中塗り・上塗り」の適切な設計です。
本記事では、単なる理論やカタログスペックではなく、工場現場で起こりうる具体的な事例や課題をもとに、塗装耐久性を高める実践的な工程設計手法について掘り下げて解説します。
バイヤー目線、サプライヤーの視点、どちらから読んでも役立つ内容を目指します。
塗装の基礎:三層構造の役割を再認識する
下塗り(プライマー)が果たす最大の役割
下塗り塗料は、単に「のりづけ」や「密着性向上」だけが目的ではありません。
最新の製造現場では、
・素地(鉄、アルミ、プラスチック)と上層塗膜との「化学的な架け橋」による耐久性担保
・溶剤・湿気・塩分等、外敵の浸食を防ぐ「バリア層」としての働き
・後工程(中塗り・上塗り)で発生しやすいピンホールや剥離の未然防止
といった機能が求められます。
現場でありがちな「とりあえず普通のプライマー」という選定は大きなリスクを内包しています。
特に粉体塗装やカチオン電着、本格的な自動化ライン導入時、下塗りの選定ミスが全体歩留まりの低下やクレームにつながるケースも珍しくありません。
中塗り(サーフェサー)の重要性
中塗り工程は、多くの現場で軽視されがちですが、塗装寿命に直結します。
本来の目的は、
・下地表面の微細な凹凸や傷(成形時のピンホール等)を平滑化
・下塗りと上塗り層の橋渡し(接着層)
・上塗り色の発色性や豊かな外観表現の土台形成
など、多岐に渡ります。
特に昨今は「省コスト」や「工程短縮」の号令で中塗りレスを推進する現場がありますが、再塗装や保証コスト増といった”見えないリスク”が増幅することを肝に銘じるべきです。
上塗り(トップコート):見た目と機能の集大成
上塗りは、単なる装飾ではなく
・耐候性(紫外線、風雨等)
・耐薬品性(塩水、酸性雨、工場内薬品)
・硬度や弾力性
・難燃性
・撥水性など
用途に応じた「機能性付与」が求められます。
現場では「指定外の塗料に差し替え」「乾燥条件の手抜き」など、目先の作業効率化が将来的コスト高を招く事例が後を絶ちません。
塗装品質と工場の信頼性は、表面処理の最終工程で決まると言っても過言ではありません。
下塗り・中塗り・上塗りの設計手法と現場課題
1. 塗装素材に応じた三層設計の基本思考
金属、樹脂、複合素材——それぞれの素材ごとに適すべき下塗り・中塗り・上塗りのレイヤー構成は異なります。
例えばアルミ材は表面の酸化被膜の影響で、塗装が剥離しやすい傾向があります。
この場合は、化学処理プライマー+強溶剤型サーフェサーを推奨。
逆に鋼板は防錆効果を優先し、亜鉛リッチプライマー+肉持ち良いエポキシ系中塗りなど、的確なマッチングが求められます。
設計段階で、素材特性・環境耐性・コスト・塗装設備(噴霧方式や乾燥炉構成等)すべてを因数分解して、最適レイヤー設計を検討することが最強の耐久性への第一歩です。
2. 塗装ライン自動化と「標準化」のリアルな壁
自動化ラインをもつメーカーでは、ヒト依存のばらつきを排除しつつ、多品種生産や塗膜厚コントロールの高度化に取り組む現場が増えています。
そこで、三層塗装を「工程標準書」に明記し、チェックリストで管理徹底する動きが活発です。
しかし、想定外の要因(コンベア速度の変化、気温・湿度の極端な変動、経年劣化した設備のバラツキなど)が塗装結果を大きく左右します。
標準化の運用ポイントは「計測値&目視の二重チェック」にあります。
現場オペレーターへの教育と意識改革なしには、せっかくの三層設計も空文化しかねません。
現場では「塗装が厚すぎる」「ムラがでる」というトラブルが発生した時に、どのレイヤーの工程が起点なのか、根本原因の特定が高度になりつつあることも知っておくべきです。
3. 品質保証とメンテナンス視点を加えた設計思想へ
サプライヤー・バイヤーの立場で最も理解しておきたいのは、塗装設計が最終製品の保証期間やクレーム率に直結するということです。
保証観点での「三層設計」では
・下塗りの剥がれ検証(クロスカットテストや引張接着試験など)
・中塗りによるピンホール防止、隠ぺい性の検証
・上塗りの耐紫外線性、化学耐性の加速試験
など、量産工程に落とし込む前から「材料―プロセス―テスト」サイクルを基本に据えるべきです。
また、メンテナンスのしやすさ、リペア対応の容易さも設計時の大きな検討ポイントとなります。
リタッチしやすい塗装システムや、現場塗り替え(現場リペア)が可能な材料選定は、長期的な信頼性を支えます。
現場目線での課題・失敗事例から学ぶ
「中塗りカット」の落とし穴
中小メーカーや一部現場では「工程短縮」「コスト競争激化」のあおりで中塗りを省略する動きが見られます。
しかし、以下のようなトラブルを頻発します。
・塗膜表層に細かいブツや毛羽、シボが発生
・上塗りの密着不良、短期間での剥がれ
・色ムラや艶ムラによる見た目クレーム増加
豊富な現場経験をもって言えるのは、三層構造の合理的省略は「材料・工程・用途を熟知した上での限定的適用」である、ということです。
指定外の塗料差し替えによる品質低下
「在庫が余っているから」「この塗料も同等品だから」など、現場判断で安易に塗料を変えると、塗装寿命が激減するリスクがあります。
塗料は用途に最適化された化学設計がされているため、独自の相溶性・接着性を持っています。
下塗り・中塗り・上塗りを別々のメーカー製品にしてしまい、数か月で剥離や浮きのクレームとなるケースもあります。
「同等品でも勝手に混ぜない」
これを徹底するだけで、信頼性は大きく上がります。
塗装工程の未来:デジタル・繋がる製造業の中で
今、IoTやAI、画像解析を組み合わせた最新の塗装工程管理が大手自動車・家電メーカーなどの先端現場で急速に進んでいます。
三層塗装の「塗り忘れ」「ムラ」などの微弱な不良もリアルタイムで発見、即座に工程巻き戻し、最適なリワーク判定ができる時代に突入しています。
バイヤー目線でも「工程の透明性」「量産品のトレーサビリティ」を積極的にサプライヤーに求める傾向が今後加速します。
塗装は単なる「色付け」から、品質基盤・ブランドイメージ・アフターサービスまで、製造業の競争力そのものへと進化中です。
まとめ:「塗る」工程が未来を決める
・下塗り・中塗り・上塗りは、工程ごとに果たすべき役割が明確に分かれていること
・安易な省略、他品混用は後戻りできないトラブルのもとであること
・現場の標準化、教育、設備維持が塗装耐久性の99%を決すること
本質的な三層塗装設計には、バイヤー・エンジニア・サプライヤーが一体となり、「現場・理論・コスト」の三位一体で取り組む姿勢が不可欠です。
塗装は決して「最後の仕上げ」ではなく、製品の信頼性と企業の未来を左右する根幹工程です。
今こそ、現場目線・未来志向で塗装設計を見直してみてはいかがでしょうか。
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