投稿日:2025年7月10日

ブラシレスDCモータの動作原理と特徴駆動回路ベクトル制御回路設計の実際設計事例

はじめに:製造現場におけるブラシレスDCモータの重要性

製造業において、モータ技術の進化は生産効率と品質向上に直結すると言っても過言ではありません。
特に、近年多くの工場で採用が進んでいるのが「ブラシレスDCモータ(BLDC)」です。
従来のブラシ付きモータに比べ、メンテナンス性や耐久性、さらには省エネルギー性能にも優れていることから、設計現場から調達購買まで幅広く注目されています。

本記事では、現場で長年培った知見を基に、BLDCモータの基礎から応用、加えて駆動回路やベクトル制御、さらに設計現場での実例まで、製造現場に根ざした視点で詳しく解説します。
昭和から抜け出せないアナログな現場にも通じる実践ノウハウを、ご紹介します。

ブラシレスDCモータの動作原理

ブラシ付きモータとの違い

まず、BLDCモータの最大の特長は、「ブラシ」と「整流子」が存在しないことにあります。
ブラシ付きDCモータでは、電気信号をコイルに伝えるために機械的なブラシが回転体(整流子)に接触しています。
そのため摩耗や火花、ノイズの発生が避けられませんでした。

一方、BLDCモータは電気的にコイルへ給電します。
ロータ内蔵の永久磁石と、固定子(ステータ)に配置したコイル、この配列により、電気信号(波形)によって磁界を回転させ、ロータを引っ張る仕組みです。
機械的な摩耗部分がないため、耐久性が高く、メンテナンス工数も大幅に削減できます。
結果として、24時間連続稼働の必要な現場や食品・薬品といった清潔さが求められるラインでも重宝されています。

基本構造

BLDCモータは大きく「固定子」と「回転子」に分けられます。
固定子には三相の電磁コイルが三角形または星形に配置され、回転子には高性能磁石(ネオジム磁石など)が取り付けられています。

通常、ホールセンサやロータリエンコーダなどで回転位置を検出し、マイコンなどの制御基板からコイルをタイミングよく駆動することで、高効率な回転を実現します。

動作イメージ

制御回路は回転子(磁石)の位置に応じ、三相のコイルに順次通電します。
この通電タイミングが的確であればあるほど、滑らかで無駄のない回転が得られます。
この位置検出とタイミング制御こそが、BLDCモータならではのキーテクノロジーといえるでしょう。

BLDCモータの特徴と業界動向

耐久性・メンテナンス性の向上

ブラシレス構造により、物理的な摩耗部がほぼ存在しなくなりました。
そのため稼働中の「ダウンタイム」が激減し、保守費用・人手の削減にもつながります。

現場では少数精鋭の人員で多台数の設備を回すことが増えているため、こうしたメンテナンス性の高いモータへのニーズが急速に高まっています。

高効率化と省エネ要求への対応

インバータ制御で最適なタイミング・周波数で駆動可能なため、エネルギー効率が極めて高いです。
近年はSDGsやカーボンニュートラルの流れもあり、調達購買部門でも「省エネ機器」を優先導入する流れが強くなっています。
そんな中、BLDCモータ採用はまさにトレンド真っただ中と言えるでしょう。

ノイズ低減と静音化

従来モータで問題だったブラシの摩耗音や、ブラシ接触部分での電気的ノイズが大幅に低減されます。
医療機器や半導体製造装置、精密機械など音やノイズが大敵である領域でも、BLDCモータは標準となりつつあります。

小型・高出力化の流れ

ネオジム磁石などの技術進化や制御アルゴリズムの高度化で、BLDCモータの小型化・高出力化が急速に進んでいます。
ロボット、AGV(自動搬送車)、自動倉庫、eバイクなど幅広い分野での需要が拡大中です。

BLDCモータの駆動回路(インバータ制御)の基礎

3相インバータ回路

BLDCモータを駆動するためには、通常「三相インバータ回路」が用いられます。
具体的には、MOS-FETやIGBT等のパワートランジスタ6個で上・下スイッチング回路を構成し、マイコンやドライバICが各相のON/OFFタイミングを緻密に制御します。

タイミングはロータ位置検出(ホールセンサ方式)またはセンサレス制御(逆起電力判定)で決まります。
製品ランクによって採用技術はさまざまですが、近年は低コスト化・省スペース化のため高集積ドライバICを用いたセンサレス方式が増えてきました。

PWM制御(パルス幅変調)

回転速度やトルクを自由自在に調整するにはPWM制御が必須です。
この方式により、従来のON/OFF回転だけでなく、なめらかな始動、低速から高速まで精密な制御が可能となります。

また、インバータ駆動のノウハウとして「デッドタイム管理」や「ターンオン/オフ時のノイズ低減回路設計」も、現場では無視できないポイントです。

制御信号と保護回路

過電流・過熱防止のための各種検出回路(シャント抵抗やサーミスタによる温度監視)、さらには短絡・開放時のブレーキ回路設計など、安全面にも配慮した設計が求められます。

ライン稼働中に突発的な異常が発生しても、停止や破損を防ぐ冗長性が、現場調達バイヤー、設計者問わず「不可欠な要件」になっています。

ベクトル制御(フィールドオリエンタントコントロール:FOC)の最前線

ベクトル制御とは

BLDCモータの制御技術進化の中核をなすのが「ベクトル制御(FOC)」です。
この技術は、三相の電流を、「磁束を発生させる成分」と「トルクを生み出す成分」に分解し、それぞれを独立して最適値に制御するアルゴリズムです。

従来方式では実現できなかった「滑らかさ」「省エネ」「応答性」「低振動」「高精度位置決め」といった要求に応えるため、最新のサーボアンプやマイコン制御盤で急速に標準化しています。

ベクトル制御適用のメリット

– 成功例1)回転ムラ低減と高精度位置決め
例えば、半導体製造や電子部品の装着工程では、「1回転中の回転ムラ」や「停止位置のバラツキ」が品質ロスや歩留まり低下の原因になります。
ベクトル制御によってこれらを極小化、さらに突発的な荷物変動にも瞬時に追従できるため、不良ゼロ化や高速生産ラインにも適します。

– 成功例2)省エネと設備寿命延長
ベクトル制御は負荷や環境変数に応じて最適電流だけを与えます。
無駄な電流をカットすることで発熱・ロスを減らし、省エネ化だけでなくモータ・インバータ自体の長寿命化につなげられます。

技術導入時の課題

ベクトル制御には高性能MCU(マイクロコントローラ)、高精度電流・電圧センサが必要であり、初期コストやソフトウェア開発リソースの確保がボトルネックになりがちです。

また既存設備の載せ換えが伴うため、「老舗製造業(=昭和マインド)」では現場反発も想定されます。
この壁を乗り越えるには、現場オペレータも巻き込んだ「教育」と「実績紹介(成功体験の可視化)」がカギとなります。

実際の回路設計と導入現場の設計事例

高信頼性を求めた組立ラインの設計事例

需要が急増したのが、食品工場や医薬品工場の自動供給装置、ピック&プレースマシン、省人化ロボットです。

ある大手医薬品メーカーのケースでは、「粉体充填装置」にBLDCモータとベクトル制御インバータを導入しました。
段取り替え頻度が高い装置のため、現場作業者がコントローラの簡単な操作のみで出荷形態に合ったパラメータ制御に切替できるUI/UX設計を盛り込みました。

また、万一の異常発生時にはセンサとモータの両サイドでブレーキ回路が自動投入され、ライン中断→緊急対応の流れを最短化。
従来のブラシ付きDCモータからの載せ替えにより、保守工数は半減、省エネにも成功しました。

小型化・高効率化を両立した搬送ラインへの応用

顧客から省スペース化と省配線化の要求を受け、従来のACモータ+減速機構成をBLDC+高集積インバータICに更新。
結果、従来比7割のコンパクト設計となり、制御盤の小型化、さらには配線作業の工数削減、電気的な信頼性向上を実現しました。

加えて、突発停止時(急ブレーキ)でも製品落下や搬送不良を発生させないため、ベクトル制御によるソフトストップ制御も組み込み、現場からの高評価を得ました。

調達・購買のためのBLDCモータ製品選定ポイント

– 省エネ(効率値や各種認証)
– 想定稼働環境(温度、粉塵、防水)への耐性
– メーカーのサポート体制・納期安定性
– 制御盤サイズやインタフェースの汎用性
– 異常時の安全設計やメカ・制御の冗長性

バイヤー目線からはこれらをセットで比較検討し、現場・設計・品管・経理すべての“納得”を取ることが肝心です。

おわりに:変革期を生き抜くためのヒント

BLDCモータとその周辺技術は、昭和時代から抜け出せない「アナログ製造現場」にこそ厚いメリットがあります。
しかし、変革には現場・設計・バイヤーが一体となることが必要不可欠です。

導入検討にあたっては、必ず現場視点の使い勝手まで考慮し、「小さな成功事例」を一つひとつ積み上げていきましょう。
サプライヤー、バイヤー、現場オペレータが知恵と経験を持ち寄ることで、製造現場は確実に進化します。

ブラシレスDCモータは、ただの部品ではなく、「現場と時代をつなぐ架け橋」です。
これからも現場目線のものづくりを共に探究していきましょう。

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