投稿日:2025年8月23日

SASO CCCなど仕向地規制の適合証明を前倒しで確保する適合評価マネジメント

SASO・CCCなど仕向地規制の適合証明を前倒しで確保する適合評価マネジメント

製造業に携わる方であれば、各国・各地域の仕向地規制、すなわち「輸出先で求められる各種適合証明書類」の取得が年々厳格化し、煩雑になってきている実態を実感していることと思います。

特に近年、グローバルなサプライチェーン構築が加速する一方で、各国独自規制への対応と適合証明の取得は、単なる「通関手続き」や「品質保証」の枠を超え、調達購買、生産管理、品質管理、さらには経営戦略の根幹をも揺るがす存在となりました。

本記事では、特に日本の製造業で課題となるSASO(サウジアラビア標準規格)、CCC(中国強制認証)といった代表的な海外規格への適合証明取得を、いかに「前倒し」で、経営効率・サプライチェーン全体最適の観点からマネジメントしていくかに焦点を当てて解説します。

1. 仕向地規制の本質~アナログ色の強い業界こそ「先読み」が命運を分ける

多様化・複雑化する『海外規制』の落とし穴

近年、欧州のCEマーキング、米国のUL規格などはもちろん、アジア・中東、南米でも各国独自の安全・環境規制が次々と強化されています。
従来であれば出荷直前、あるいは貿易部門頼みの「後追い」体制でも、なんとか乗り切れていたかもしれません。

しかし、時代は変わりました。
例えばサウジアラビアのSASO規格。対象となるほぼ全ての製品が適合証明書(CoC: Certificate of Conformity)を事前に準備しなければ、通関そのものができません。

中国のCCC(China Compulsory Certificate)も、現地市場へ流通させるには該当製品の設計段階から基準を組み込み、認証機関による工場監査や年次審査を経る必要があります。

これらの動きは「新興国市場ならではの困難」ではなく、むしろ欧米市場を含めた“グローバル標準”としてますます高度化する傾向にあるのです。

昭和の調達現場から脱却できない日本企業への警鐘

一方で日本の製造業、とりわけ中堅・中小メーカーには、いまだ「都度対処」「証明書の後追い」といったアナログな運用が色濃く残っています。
例えば「調達先からSASO証明の写しがなかなか来ない」「検査工程が海外認証の都合で何度もやり直しになる」などの現場あるあるは、依然として日常茶飯事です。

その結果、輸出納期遅延やコスト増加、最悪の場合はビジネスチャンス自体の逸失――。
これは決して珍しい話ではなく、仕向地規制マネジメントが戦略案件であることを如実に物語っています。

2. 「適合評価マネジメント」の全体像~バイヤー・サプライヤーの視点から

仕向地規制=“縦割り”から“横断的マネジメント”へ

仕向地規制と聞くと、「品質管理部門の仕事」「輸出入部門の専門領域」と捉えがちですが、それは大きな誤解です。

なぜなら、規制適合証明を確実・迅速に取得するには、下流(出荷直前)だけでなく、上流(設計・調達・生産準備)から一貫した“全体最適”が不可欠だからです。

特に大型案件やハイテク製品となれば、調達段階から「材料証明」「工程認証」等の段取りが完了していないと、証明書発給自体が極めてタイトなものになります。

これはバイヤー(発注側)、サプライヤー(受注側)のどちらにとっても致命的なリスクであり、ごく限られた一部メーカーだけの話ではありません。

調達購買・現場が巻き込まれる「新たな責任領域」

従来の現場感覚では、バイヤーが設計仕様や品質要件をサプライヤーに提示し、その実現状況をチェックする役割が中心でした。

しかし仕向地規制の強化により、バイヤーは

– どの工程に、どの証明書(適合書類)の準備を要求すべきか
– 証明書取得タイミングは製品試作前・量産前のどのタイミングが効率的か
– サプライヤーが認証機関・第三者試験所に対応できる体制を持っているか

など、“仕向地規制を考慮したマネジメント”を広範囲に担う必要が出てきました。

一方、サプライヤーにとっても「ただモノを作る」から「証明書類○○までを含めて納品」といった意識改革が求められます。

この構造を理解してこそ、はじめて「前倒しで証明を組み込む」業務改革が近づくのです。

3. 実践ノウハウ:SASO・CCC等“前倒し取得”の社内設計術

(1)「要件の見える化」と「逆算思考」

なんといっても最優先すべきは「どのマーケットで、どの証明書が必要か」の情報整理です。

– シングルプロジェクトごとに仕向地規制チェックリストを作成
– 複数案件をまたぐ場合は“証明書類マトリクス”で一元管理
– 証明書類の申請~取得フローを逆算し、設計・調達・製造の各工程に落とし込む

たとえばCCC証明が必要な場合、現地審査や年次監査のリードタイムを考慮し、生産スケジュールよりも数ヶ月前倒しで「試験サンプル」の準備が必須です。

「後でなんとかなる」「書類待ち」「誰かが動いてくれる」という“昭和型の気合”でなく、「誰が」「いつまでに」「何を」実行するかを明文化しましょう。

(2)サプライヤー・試験機関・社内関係各所の“巻き込み型指揮”

適合証明は自社の力だけでは完結しません。
信頼できるサプライヤーからは材料証明や検査記録の早期提出を要請し、試験機関とは事前相談で予備審査→スケジュール確定までを手際よく打ち合わせる必要があります。

近年は、リモート監査やデジタル文書化も進んでいます。
「顔が見えない時代」だからこそ、早め早めの情報共有や進捗の見える化が現場力を高めます。

加えて、証明書特有の“翻訳品質”にも注意が必要です。
英語だけでなく現地語での発行が義務づけられるケースも増えており、専門の翻訳ベンダーや現地コンサルとの連携も、貿易部門や品質保証部門と協働で進めると効率的です。

(3)現場の「型化」と“再発防止”ノウハウ

一度うまくいった証明書準備プロセスは必ず記録に残し、「ベストプラクティス」として展開します。

– 成功事例は積極的に社内・サプライヤー全体で水平展開
– トラブルや納期遅延の事例も「再発防止策マニュアル化」
– 原本保管だけでなく、追跡しやすい電子化・クラウド管理まで推進

「やりっ放し」「場当たり的対処」を許さず、“何ができて・何ができなかったか”をチームで振り返る風土が、数年後の強力な仕向地規制対応力となります。

4. バイヤー・次世代人材が持つべき視点とキャリア戦略

調達購買の「マーケットイン思考」へ進化する

今や調達購買部門は、安く多くモノを買ってくる係から「グローバル市場の最前線」を押さえる参謀役になりました。

バイヤーを目指す方は、法規制・技術動向・安全基準・貿易インフラなど広範な知識を武器として、自社製品の国際競争力を創出する役割が求められます。

一方、サプライヤーの立場でも、適合証明取得の知見・実績を積み上げれば、バイヤーやメーカーから厚い信頼を得られ、商機拡大やサプライチェーンの新たな核となるでしょう。

昭和型メーカーを変革する“現場主導”のデジタル適合評価

従来の「紙とFAX」「現地物理立会い」中心のやり方はいよいよ限界が迫っています。

デジタル認証、クラウド管理、遠隔監査、AIによる証明書作成自動化――
こうした技術革新も果敢に取り入れ、“適合証明の前倒し準備”を自分たちの「当たり前」に落とし込むのが次世代リーダーの本懐です。

グローバル輸出に不可欠な知見を、今ここで深く・広く身につけておくことは、将来のあなた自身のキャリアにも必ず大きなプラスとなります。

まとめ:仕向地規制の「前倒し評価力」が製造業の未来を切り拓く

SASO・CCCなど国際的な適合証明の取得・対応は、単なる法規制のクリア―や品質証明のための“手間”ではありません。

むしろ“全社を巻き込む仕向地規制適合評価マネジメント”こそが、製造業のグローバル競争力の原動力であり、日本、そして現場から世界の未来を切り拓く道標となるのです。

昭和のやり方から一歩踏み出し、調達・生産・品質保証、サプライヤー・バイヤーが垣根を越えて「適合証明の前倒し」文化を自社と現場に根付かせる――。

それが今、最重要の経営課題であり、次世代ものづくり人材の力強い武器となることは間違いありません。

今だからこそ、ぜひあなた自身の業務でも、今日からこの“前倒し管理”をダイナミックに実践してみてください。

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